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映画・演劇のレビュー

南船北馬『赤い靴はいて』

2017-02-25 01:15:29 | 演劇
今年の棚瀬さんは、親の介護の問題にメスを入れる。しかし、当然のことながら、それを社会問題として描くのではなく、自身の問題として取り上げる。40代の女性が何を思い、何を感じてそこにいるのかが描かれる、今回の、「そこ」は階段という場所に設定される。

3つの階段が描かれる。基本的に2人がそこで出会う。たまたま、であったり、待ち受けていたり、状況は様々だ。階段の持つ高低差も重要な要素となる。両者の関係性もそこから表現されたり、生じたりする。



女の子があこがれる赤い靴が象徴するものがテーマ(タイトルにもなっている)だ。赤い色は血の色で、逃れられない血のつながりを象徴するなんていうふうに思うのは大人の考えで、子供がそこに抱くのは純粋にきれいだ、という感情だ。ここにはまずその齟齬が根底にある。お母さんから生まれてきた彼女たちが、やがて大人になり、自分も子供を産んで、育てる。やがて年老いたお母さんを看取ることになる。



介護のため実家に戻ってくる妹と姉。実家、老人ホーム(介護施設)、自宅を往復しながら過ごす時間。最初は妹ひとりで見てきたけど、もうムリで、遠方に住む姉にも頼むことになる。みんなそれぞれ家族を持ち、自分の家がある。自分の家庭だけで精一杯なのだが、親のことを放ってはいられない。一つ目の話は実家の2階への階段が舞台となる。



二つ目の話はある中学のかたすみにある階段で、クラブに行く後輩教員と先輩教員との何気ない会話。3つ目は介護施設で働く派遣社員とそこに母親を預ける女性。介護施設の階段で。



これは親の老いと子供の成長のはざまに立ち、自分の今をみつめる女たちの物語。互いのお話は微妙にリンクしていく。3話からなるオムニバスではなく、3つの話は並行して描かれる。40代の5人の女性を主人公にして、介護する親と向き合いながら、同時に子育てもしている。自分の家族の問題はお話の背後にちゃんと隠れてある。誰もが抱える問題をどこかに集約するのではなく、淡く風景として切り取る。だが、一見さりげない会話劇のスタイルをとりながらも、この作品の見つめるものは深くて重い。わかりやすいストーリーとして見せるのではなく、さりげなく、ピンポイントで、いくつかの瞬間を断片として見せる。それを積み重ねていく。ラストの「おかあさん」という声が切ない。
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