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映画・演劇のレビュー

濱野京子『石を抱くエイリアン』

2016-08-18 14:12:14 | その他

 

草野タキ『Q→A』に続いて中3男女の群像劇。受験までの1年間の物語なのだが、ただしこれは特殊なケース。彼らは1995年に生まれた。だから、2011年3月中学を卒業する。この運命的な時間がこの小説の基本設定としてある。一目瞭然だが、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件の年に生まれ、3・11のとき、卒業する。茨城県のとある中学の6人の少年少女たち。

 

それだけで、もうこの物語は涙なくして読めない。濱野京子はこの子たちのお話を特別なものとして描くわけではない。お話はドラマチックとは程遠い。田舎の中学生が(というか、都会の中学でも同じだが)ドラマチックな人生なんか生きない。ありきたりな毎日だ。でも、それが愛おしい。彼らの1年間をじっくり描き、彼らのなんでもない毎日が運命の日へとカウントダウンしていくのを見守る。

 

文化祭で原発の展示をすることになる。みんなからバカにされていた少年が言いだした。彼は鉱石が大好きで将来「日本一の鉱物学者」になるという夢を持っている。変人として周囲から距離を置かれている。そんな彼が主人公の少女に告白する。お話はそこから動き出す。そして、この文化祭の提案から、さらに急展開する。

 

東海村から近いこの町だけど、中学の文化祭で、自分たちからこんな企画を提示するような子供はいない。このエピソードが決してわざとらしくはならないのは、彼のキャラクターゆえだ。真面目で、周囲の空気を読めない。でも、仲間が彼を支える。

 

受験直前の秋、不安定な時期。なぜか、そんなまじめな取り組みに挑み、その地味な企画は誰の目にもとまらないまま、文化祭は終わる。そして、時は流れていく。振り返れば、なぜ、あのとき、あんなことをしたのか。そこに運命を感じるかもしれない。しかし、それは終わった後だから言えることだ。

 

14歳から15歳へ。人生で一番多感な時代。大人への第1歩を踏み出す。そんな彼らに希望を与える。何があっても希望は捨てない。そんな覚悟が描かれる力作である。

 

 


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