習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『クロニクル』

2013-10-25 21:38:00 | 映画
 驚きの当日入場料1000円である。特別料金とあるから、割高なのか、と思ったらなんのなんのの低価格。どうしてこういうことにしたのかは知らないけど、これからもこういう試みなら大歓迎だ。いっそのことすべての映画を当日1000円にして貰えたならかなりうれしい。まぁ、それはなかなか難しいことだろうけど。

 さて、安かろう悪かろうが普通のパターンで、実は少し反対に警戒したのだが、見終えた映画は、期待を遥かに上回る傑作だった。これはかなりの拾い物なのである。しかも低予算の映画かと思ったが、そうではなく、そこそこの大作仕立てなのだ。というか、結構ちゃんとお金がかかっているはずなのだ。無名の3人の若者が主人公だが、それは当然のことだろうう。メジャー大作ではないし、ビッグネームはいらない。ドキュメンタリータッチの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来のパターンで、またか、と最初は思う。

 主観カメラで、ホームムービーのように見せるフェイク・ドキュメンタリー。でも、それを実に効果的に使う。低予算にするための方策ではなく、リアルな青春映画として、このお話を立ち上げるためのスタイルなのだ。途中から、奥の手で(超能力を使って遠隔操作する!)最後まで一応スタイルを貫くのだが、別にそういう整合性に拘らなくてもよかった。これはちゃんとした劇映画なのだから。

 超能力を手に入れた3人が少しずつその力を開拓していく過程がとても楽しい。クラスメートのスカートめくりに使うなんて、今時やるか? と思うけど、そんなのも、とても新鮮。だが、だんだん自分たちの力を制御できなくなる。よくあるエスパーものの定番を踏むのだが、それでも、ディテールがとても丁寧だから、飽きさせない。最初の悲劇の後、空を飛べる喜びを描く。ジグザグなのだ。そこがいい。お決まりのパターンではなく、紆余曲折がある。だが、徐々に3人の関係にひびが入る。信じきれないと思うからだ。自分が力を持ち、優位に立つことで人間関係のバランスが崩れてくる。その危うい感じが見事だ。


 主人公の家庭の悲劇が背景になり、そこから一気にタガが外れたようにラストのカタストロフに到るさまが、とても見ていて辛くって、困った。前半のささやかで楽しい映画から、とんでもない大惨事へと一気に突き進むスペクタクルへ。これは男の子版『キャリー』ではないか。(もうすぐ、本家である新版『キャリー』も登場するけど)とは言っても、これは苛められっ子が、超能力を手にして復讐する、というパターンではない。彼が追い詰められて行く様は一筋縄ではいかない。この屈折が見事だ。

 大仰な大作映画ではなく、小粒で、でも、とてもよく練られたアイデァで、84分という短い時間なのに、ボリュームのある映画に仕上がっている。B級映画の拾い物ではない。とてもよく出来たしっかりした映画だ。『第9地区』を見た時のような感動である。侮ることなかれ、である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『恋するリベラーチェ』 | トップ | 雪舟えま『バージンパンケー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。