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映画・演劇のレビュー

あみゅーず・とらいあんぐる『文月の宵に』

2013-07-20 07:24:54 | 演劇
 あみゅーずが今年もリーディング・スタイルの新作を上演してくれた。昨年20周年記念として初めてこの試みをしたが、とても素晴らしいものだった。今までのリーディングの常識を覆す傑作で、リーディングというスタイルはただ単なる輪読でも、芝居の模擬演習でもないことを証明した。これは一種の独立した演劇のスタイルなのだ。とは言え、条あけみさんは特別なことは何もしていない。いつもと変わりない。違いはテキストを持つか否か、くらいか。いや、そうではない。普通の芝居のまねごとをしたいのではなく、ちゃんと本を読み、視覚的に大事なシーンを再現し、それをすぐに、本(小説自体)の音読につなげて。そういう縦横無尽なスタイルが、当たり前なのに、新鮮だったのだ。

 今回も昨年の2作品の流れを踏む。テーマは時代小説。でも、剣劇ではない。(チャンバラはないけど、ラブシーンはあるよ!)ここに描かれるのは庶民の哀歓だ。取り上げたテキストは宮部みゆき、藤沢周平、もうひとり。(最後は僕の知らない人だった)長屋が舞台で、お侍さんは出てこない。貧しい人たちが肩寄せ合って生きている。そこに生じるドラマは本当にささやかだ。でも、そんな話に耳を澄ます。彼らのお話は、時に愚かで、時に哀しい。でも、彼らなりに一生懸命生きている。そんな姿が心地よい。それから、余談だが、役者たちの浴衣姿がとてもよい。夏の宵にぴったりだ。しかも、内容が時代物だし。

 ここに描かれたことは、いつの時代でも通じる。条さんが描きたいのは、そんな人々の姿だ。だから、昭和を取り上げても、現代を取り上げても、今回のように江戸時代でも、同じなのである。いつもの女性キャストと、ゲストとなる男性キャストのコンビネーションも上々だ。ゲストの3人の男性たちがいずれもなかなかいい味を出している。そんななかで、若い2人に混じって一人年を食ったオットー高岡が、すばらしい。普段は締りのない顔をしている彼が、最後を締める。「男前を演じてください」と条さんから言われたらしいが、見事な男前振りで、彼の保護者である僕は、子どもの授業参観でもないのに、密かに泣いた。(嘘ですが。泣いたことは)

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