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映画・演劇のレビュー

abish『短篇集』

2008-09-15 23:22:36 | 演劇
 『ギターと生活』以来2年半振りのアビッシュ(abish)の第2作である。作、泉寛介、演出、竹中諒によるこのユニットは、今回「文学」をテーマにした3話からなるオムニバスに挑む。大上段から振りかぶって、「テーマは文学」だなんて言ってしまうのは、とても恥ずかしいのだが、その恥ずかしさをもろともしない。

 彼らは「書く」という行為によって明確になる自我、さらには書かれたもの自体も題材にして、そこを基点にして、イメージされる世界の広さの中で、自分たちの現在の在り処をこの短篇集の中で見せていこうとする。芝居自体のテーマは「コミュニケーションの不全」。3話の短篇はそれを全く異なった演出によって見せる。

 正直言ってこのとんがった芝居は普通のストーリーラインに沿った展開を見せないため、何を描こうとするのかが見えにくくなっている。お話だけを追いかけていこうとしても伝わらりきれないもどかしさがある。しかも、途中に萩原朔太郎やら宮澤賢治、さらには中原中也の引用があり、それがストーリーの補助ではなく単なる記号だったり、象徴だったりするから、余計にこんがらがってしまう。時にはストーリーすら左右しかねないくらいに膨大な引用であったりするから、作品全体の方向性すら損ねかねない。

 生と死。そして、日常。それが3つのドラマの核とするイメージで、それらを通して人と人との最小単位である二人ないしは三人によるシュールな会話劇は展開していく。

 個人的には第1話の『竹よ』がかなり面白かった。空の駅舎の三田村啓示さんを核にして、三人の男たちのぐたぐたした1日が綴られていく1時間ほどの中篇である。何もしないで朝から夕暮れまで、いくつかの妄想シーンも交えて、全体的にはただ何をするでもなく、ぼんやりしているだけの三人。朝から食べるものが何もなく、食料を捜して窓の外の竹薮をさまよったりするのだ。そんな中、主人公である男は一応、小説を書かねば、とは思っている。だが、何ひとつ書けない。そんなエピソードを基調とはしているようだが、そこにはあまり意味はない。

 2話目は男を殺してしまった女と刑務官のやりとりが描かれる『明滅』。3話目は男と女が暮らす部屋での二人の感情のぶつかり合いが描かれる『川の花の葉』。

 人と人とが正面から向き合い、だけれどもコンセンサスが取れない様が、様々な手法を駆使して描かれる実験的な演劇となっている。自分たちのスタイルへの拘り方が気持ちいい。スタイリッシュで徹底した見せ方も、静かだが過激な芝居を刺激的なものにしている。よくはわからないけど、おもしろかった、なんて感想を過半数の人が持ってくれたならこれは成功であろう。賛否のポイントは共鳴できるか否かにかかっていて、結構微妙な仕上がりなのだ。だからこそ、おもしろい。

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