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映画・演劇のレビュー

『天空の蜂』

2015-08-16 19:43:59 | 映画
この映画がダメなのは、こういうお話であるにも関わらず、このなんとも言いようのない緊張感のなさはどうだ。どうしてこんなにもスリリングなお話をここまでお間抜けに作れるのだろうか。お話自体はタイムリーだし、充分面白い映画になるはずだった。原作は東野圭吾。せっかくのお話を、ご都合主義で安易な展開にしてしまい、つまらない。

1995年の出来事として設定されている。原作小説が出版された年だ。映画は原作をそのままにした。当時のリアルタイムである今から20年前を踏襲したのだ。結構微妙な問題を扱うから安易に「現代」に移し替えれなかったのだろう。

ラスト、エピローグとして2011年、3・13東日本大震災後の被災地が描かれる。成人して自衛隊に入った主人公の息子(向井理)の姿が描かれるのだが、あれはない。どうして福島第一原発ではないのか。

この映画は、原発の上に、爆弾を搭載した自衛隊の最新鋭巨大ヘリ(簡単に盗まれる)を落としてしまうぞ、と脅すテロリストのお話なのである。しかも、犯人は日本中の原発の即時停止を要求するのだ。こういうお話にもかかわらず、ラストは福島ではない。

ここまで明確に原子力発電の危険性への警鐘を前面に出した映画なのに、ラストで自ら設定したテーマから逃げてどうするのか。手に汗握る娯楽活劇の意匠のもとで、ここまで表立って原発反対を叫ぶのだから、中途半端はしないで欲しかった。

それにしても、ゆるゆるの展開で、最初からがっかりする。主人公は江口洋介演じるヘリの設計技師。完成したヘリのお披露目に呼ばれて、家族とともに参加するのだが、その直前、遠隔操作でヘリが奪われる。しかも、なんと、そこには江口の息子が乗っていた。(こういう杜撰なお話はやめようよ)

江口パパは息子の命を守るために奮闘する。いやいや、息子も大事だけど、原発でしょ。首都壊滅、日本崩壊の危機なんですけど。人命を守るとかいうけど、一人の命よりも1億人の命でしょ。これだけの大事件なのに、個人的な問題を優先する。嘘くさい。子供救出作戦が描かれる前半は、手の汗握る、はずもない。救出は大事なことだが、映画はもっと大きなことを描くべきだ。なのに、そんなことは後回し。変なの。(しかも、子供があまりに勇敢で笑える。ありえない。あんなところで、ひとりで、危険な行為しまくり。ムリムリと思う。挙句はヘリから落ちてしまうし)

なんだか『S 最後の警官』と同じような映画で、お話も似ている。キャストも『S』の主役の綾野剛と向井理がこれにも出ている。2本とも緊張感のなさが似てる。せっかくのこの秋期待の大作映画なのに、これはなんとも残念すぎ。

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