習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『トイレット』

2011-07-24 20:24:37 | 映画
 荻上直子監督の最新作である。『かもめ食堂』のヒット以降あのパターンの映画はみんな彼女が連作しているように見えるが、実際にはそうではない。『プール』とか『マザーウォーター』は彼女の仕事ではない。キャストが同じでストーリーも異口同音。悪くはないが少々食傷気味だ。そんな中、この本家である彼女の新作の登場である。

 映画は相変わらずの脱力感だが、とても面白く見た。全編英語で、日本人はばーちゃんだけ。それにしてもこれはなんだか大胆なタイトルだ。とても映画のタイトルとは言い難い。

 主人公は3兄妹だが、彼らがばーちゃんをもてあましている。その映画のキーマンであるばーちゃん(もたいまさこ)は1時間49分の映画の中で、たった一言しか言葉を発しない。表情も変えない。ただそこにいるだけ。というか、部屋からほとんど出ないから、いるのか、いないのか、それすら定かではないほどだ。

 先にも書いたがこれは3兄妹の話だ。母親が亡くなり、葬儀のシーンから始まる。その後、彼らの母親が日本から呼び寄せた彼女の母親(だから、3人の祖母だ)との同居生活が描かれる。3人は突然やってきて、母親以外とは会話もしないこの老婆を不審に思う。はたして、本当に自分たちの祖母なのか、と。

 彼女との生活を淡々と描きながら、3人が少しずつ変化していく。ひきこもりの兄が、物置からミシンを捜し出し、自分でスカートを作り、それを身につける。女装癖がある、とかいうわけではないようだ。自己主張に一種か。そんな彼の自立への第1歩が描かれる。ラストのピアノの発表会(オーデションかなんかだったっけ?)のシーンで、客席からばーちゃんは彼の名を叫ぶ。よくあるパターンだが、そのシーンがこの映画に上手く収まる。

 3人がほんの少し変わる。そしてばーちゃんは死ぬ。ただそれだけの映画だ。なのにそれが、なんだか、いい。

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