パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君①

2016年07月01日 | 野望
オレの名前は「街結」
百発百中「なんて読むの?」って聞かれる。
「まちゆい」って答えると「今まで生きてきて初めて聞いた名前だ」と言われる。
オレだって、17になる今の今まで、一度も同じ名前のヤツに会ったことない。
「何か由来があるの?」って、これまた必ず聞かれる。
その度に、ママ猿の、嬉しそうな顔が浮かぶ。
ママ猿とは、友達との会話の中での、オレの母親の愛称ね。
オレはこの微妙なお年頃のわりには母親と仲がいいほうだと思う。
一人っ子だから、家に帰ると母親しかしゃべる相手がいないということもあるし、
しゃべると結構おもしろいんだよね、この人。
ま、しょせん男は誰でもマザコンの素質があると言われりゃそれまでだが。
でも、やはり「マザコン」呼ばわりされるのは避けたい。
しかし、ついつい長年の習慣で、「うちのママが・・・」と口に出そうになることがある。
これは危険すぎる。
女子が、さーーーーっと引いていく音が聞こえるようだ。
そこで、「猿」という、あだ名としては最低のランクの動物をくっつけることにした。
「豚」か「猿」か迷ったが、イメージ的にキャッキャッとうるさいリスザルに近い気がしたので猿を採用した。
そのママ猿が、うっとりとした表情で語り出すのは、小さい頃から耳にタコができるほど聞かされたオレの名前の由来。
「ママがお勤めしていた町役場で『まちおこし』をかけた一大プロジェクトを計画した時、
パパが町づくりのコンサルタントとして東京からやってきたのよ。
町長秘書をしてたママが、お世話役を頼まれて、宿を手配したり、町を案内したりしたの。
それがきっかけで結婚したの。
町長が、結婚式で「君たちは、東京とわが町を結ぶ架け橋のようだ」って大喜びでスピーチをして下さったのよ。
だからあなたの名前は「街を結ぶ」と書いて『まちゆい』」
・・・だそうだ。
町長秘書という時、必ずママ猿の鼻の穴が少し膨らむ。
彼女の鼻の穴が膨らんだり、鼻の頭がピクピク動いたりした時はウソをついている時だ。
あんな小さな田舎町の役場に、秘書なんかいないだろ。
窓口受付嬢兼お茶汲み要員兼納税課の業務もやります的な役場職員だったと思われる。
ママ猿の実家のある町は、良く言えば「手つかずの自然が残った」田舎町だ。
まちおこしプロジェクトから20年近く経った今でも、山と海と田んぼしかない。
いったいオヤジは何をコンサルティングしたんだろうか。
しかし「道の駅があるだろう」とか「大きな温泉センターがあるだろう。あれを・・・」とか
誇らしげに言われても困るので、あえて聞かないようにしている。
そうは言っても、何もない田舎町がオレは結構気に入ってて、ばあちゃんちには年に一度は帰省している。
ただ、それと名前は別問題で、もう少しノーマルな名前にして欲しかったなあという気持ちはおおいにある。
高校生にもなって、クラスで名前で呼ばれる男子は、オレと「太郎」くらいだ。
太郎は太郎で「名前を言うと必ず『妹って花子?』って聞かれるんだよなあ。」とぼやいている。
「太郎なんて犬っころみたいな名前よりは、まだ街結のほうがましだよな。」とオレは思い、
「まちゆいなんてへんてこりんな名前よりは、まだ太郎のほうが男らしい名前だよな。」と太郎は思っているだろう。
でも、「同病相哀れむ」なのか、オレと太郎は結構親しくなった。

一緒につるむようになってわかったことだが、太郎は女子にマメだ。
ドラマに出てくる営業マンのおやじのように、いちいち女子に絡む。
寝足りないぼんやり頭で教室に入ると、「やだ〜っ。太郎君ってばウケる!」という女子の甲高い笑い声を聞かない朝はない。
太郎曰く「そりゃ街結みたいに、黙ってても女子が寄ってくるようなヤツには必要ないテクだけどさ、おれみたいな可もなく不可もないルックスの男子は努力しなきゃいけないわけさ。
それに、太郎って名前のくせに『おもしろくないやつ』だったら悲惨だろ。」
確かにそれは言える。
じゃあ、オレの名前はどうだ?
「街結」って名前のくせに『おもしろいやつ』を想像した後、「オレはこのままってことだな。」と思う。
自分では良くわからないが、どうやらオレのルックスはイケてるらしい。
それは幼稚園の頃から薄々感じていた。
オレの通ってた幼稚園は、幼稚園にしては珍しくお昼寝タイムというのがあり、大きな敷き布団に皆ごろごろ寝転がってお昼寝していたのだが、毎回オレの隣の争奪戦で喧嘩が起きていた。
とうとう美保子先生が女の子全員にじゃんけんさせて、順番を決めて、日替わりでオレの両隣に女の子を寝かせるというシステムにして落ち着いた。
いや、全員じゃない。
しーちゃんだけは「あたしはまちゅいくんよりケンちゃんがすきだから。」とじゃんけんを辞退し、いつもケンちゃんと布団の隅っこに並んで寝そべっていた。
そして、ケンちゃんが、当時流行っていたお笑いのギャグをやってみせたりして、しーちゃんがクスクス笑う声が聞こえたりしていた。
オレは、しーちゃんのことが好きだったからショックだったけど、でも、仲良しのケンちゃんのことも好きだったから「ま、しょうがないか。」と思っていた。
そんなオレの複雑な気持ちも知らずに美保子先生は毎日メモ用紙を見ながら「は〜い、今日はさっちゃんとえりちゃんがまちゆいくんのおとなりね。」と、やりてばばあみたく采配をふるっていた。

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2 コメント

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Unknown (puffpuff)
2016-07-04 11:27:48
私の名前もちょっと変わってるから
自分で言いにくかったしかならず間違えて呼ばれてた。
でも由来はとっても単純でドラマに出てた名前らしい。。。
返信する
puffpuffさんへ (n)
2016-07-05 09:30:38
ワタクシの名前は、昭和を代表するようなありふれた名前なので、珍しい名前の子に憧れてたわぁ〜
当時は『子』か『美』が主流だったから、『香』とか『絵』とかね。
返信する

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