温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ほとけ沢温泉 東龍館

2012年10月14日 | 青森県
※2019年に宿泊営業をやめてしまったとの情報があります。ご利用ご検討の方は現地に直接ご確認ください。

 
以前から一度入ってみたかったほとけ沢温泉「東龍館」で入浴を果たしてまいりました。温泉ファンから人気を集めていることは既に知っていたのですが、津軽地方には足繁く通う私も三八上北エリアには年に1~2度しか訪れる機会が無く、しかもこちらのお宿は宿泊のみの営業で立ち寄り入浴は受け付けていないため、いままでなかなか利用機会に恵まれなかったのです。
乙供駅裏の場末感漂う寂しいエリアで周囲の民家と同化するようにひっそりと佇む「東龍館」は、お世辞にも人気のあるお宿とは言えず、おそらく常連さんか私のような温泉目当てのマニア客が主要客層ではないかと思われます。訪問時も昼間だというのに全体を闇が覆っているかのように薄暗く、営業しているのか不安になってしまいました。



こちらの施設では宴会場と旅館を兼業しているらしく、表からは宴会場のエントランスが目立っているのですが、宿泊客は勝手口のようなこちらの玄関から中へと入ります。玄関ではおばあちゃんが出迎えてくれました。


 
失礼ながら、こちらに宿泊する目的は噂に聞く良質なお湯を楽しむためであり、宿泊施設としてのサービスなどには期待していなかったのですが、玄関や食堂などがある本館から渡り廊下を進み、客室のある新館と思しき別棟へ移ると、そこには予想を裏切る綺麗な館内が広がっていました。1階は大広間や共用ラウンジとなっており、客室は2階です。


 
チェックイン時に「お布団とベッド、どちらが良いですか」と選択を求められたので、赤ちゃんのころからベッド一筋の私は迷わずベッドのお部屋をお願いしたところ、このようなお部屋へ案内されました。冷蔵庫やエアコンはありませんが、テレビ・扇風機・ファンヒーターは用意されていますし、清掃もきちんと行き届いているので、一晩過ごす程度でしたら全く問題ありません。またトイレや洗面台は共用ですが、ウォッシュレットも完備されており、そのあたりに神経質な方でも大丈夫かと思います。たまに外から踏切の音が聞こえてくるので、窓を開けてみると約200メートル先で青い森鉄道の列車が走っていました。


 
他の部屋をちょっと見学したところ、ツインのベッドルームや和室など多様な部屋が設けられていました。人数や目的・好みなどによってお部屋をチョイスできる、なかなか嬉しい宿だったんですね。



お食事は食堂でいただきます。冷蔵ケースにはおばあちゃんの私物がたくさん入っており、旅館というより民宿に近い雰囲気でした。


 
画像左(上)は夕食で、画像右(下)は朝食です。食堂へ行くと既に食事がテーブルの上に並べられていました、ご飯やお味噌汁は自分でよそう他、鍋の火も自分で点火し、さらには冷めているおかずを自分で電子レンジでチンするなど、セルフサービスに近い形態でのお食事となりますが、お値段の割にはボリュームがあり、特に夕食は「安いのにこんなにいただいて良いのか」と良心の呵責に苛まれるほどでした(ちょっと大袈裟かな)。具体的には豚しゃぶ鍋・ホタテやイカのバター焼き・うなぎの蒲焼などです。


 
「東龍館」のもうひとつの顔である宴会場を、朝食後にちょこっと覗いてみました。ロビーには所狭しとソファーなどいろんなものが置かれており、少々雑然としているのですが、なぜか柱には「光る大地」と書かれた小学5年生のお習字が貼られていました。宴会場というより民家のリビングルームみたいです。


 
さてお風呂へと向かいましょう。浴室入口にはイーゼルに温泉分析表が立てかけられており、その脇の壁にはヒバの説明文が掲示されていました。この文章は館内のいろんなところに貼られており、当館の風呂に用いられているヒバ材がいかに素晴らしいかを誇示しているかのようでした。たしかにヒバ材は耐久性や耐水性が高いために昔から利用されてきた木材であり、今でこそ青森県の特産品といえばリンゴが有名となっていますが、リンゴ栽培が始まる明治以前はヒバこそが津軽藩や南部藩の主要産物だったわけです。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつで、露天はありません。
脱衣室はカゴが4~5個あるだけで、至ってシンプルな室内です。


 
総ヒバ造の浴室には浴槽が二つ据えられています。床は羽目板がスノコ状に並べられており、排水はすべてその隙間から下へと落ちてゆきます(下にはSUS板が敷かれているようでした)。総木材のお風呂は、その見た目から伝わるぬくもりや柔らかさ、そして肌に触れたときの優しい感触に心の底から癒されるのみならず、同時に重厚さや非日常感も味わうことができるので、室内空間に身を措くだけでも特別な時間を得ているような不思議な気分になりますね。


 
洗い場にはシャワーとスパウトが一体化した水栓が3基設けられており、温泉水のみが吐き出されます。右のコックでシャワーを、同様に左でスパウトの流量をコントロールします。いずれのコックも流量のみを調整するものであり、この水栓で温度調整することはできません。


 
二つある浴槽のうち、画像左(上)の大きな槽(4人サイズ)はぬるい源泉がそのまんま注がれていました。一方、右側の小さな槽(1~2人サイズ)にも同じぬるめの源泉が注がれているのですが、源泉が流れてくる樋の脇には蛇口があり、これを開けるとボイラーで加温された温泉水が出てきました。大きな浴槽の温度は35℃強程度であり、暑い夏ならば入浴に全く問題ありませんが(むしろ爽快ですが)、さすがにそれ以外の季節ですとぬるすぎてしまうので、こうした加熱槽が必要となるわけですね。ロケーションこそ全く異なりますが、ぬるい主浴槽の脇に小さな加温槽があるこの造りは、越後魚沼の「駒の湯山荘」に似ていますね。


 
源泉は湯口から樋を流れて二つの浴槽へと注がれており、樋にあけられた二つの穴を全部オープンにしたり、あるいは板で塞いだりして流量を調整するわけです。その投入量は多くて常に浴槽からオーバーフローしており、体を湯船に沈めるとザバーっという音とともに豪快に溢れ出ていきました。


 
お湯は薄い麦茶色透明で、湯の花のようなものは見当たりませんが、湯面には白い気泡が塊となってたくさん浮かんでおり、入浴してると肌にビッシリと付着します。見た目から想像できるように、お湯からはモール系の芳香がふんわりと漂い、鼻をお湯に近づけると微かにタマゴ臭らしき匂いも確認できました。上述のようにシャワーも源泉使用ですから、頭から源泉を被ってみるとこのタマゴ臭がはっきりと鼻腔の奥まで入り込んできます。また口に含むといかにも重曹らしい清涼感を伴うほろ苦さとともに微かなタマゴ味、そしてアルカリ性泉によくある弱収斂が感じられました。
重曹系のアルカリ泉という特徴と豊富な泡付きが相俟ってツルツルスベスベの浴感が得られて非常に爽快です。また湯加減が35~37℃という不感温度帯であるため、ぬるくて冷えることも無ければ、熱くてのぼせることもなく、何時間でも湯船に浸かっていられます。実際私は夜に都合3時間、朝に都合1時間半入り続けました(指先はブヨブヨになっちゃいましたが…)。尤もついつい長湯してしまったのは爽快な泉質や長湯仕様な湯加減のほか、浴室が無機質なタイルではなく総木造だったことも大きな要因のひとつであるかと思います。ツルスベ感良好なぬる湯を介して自分の肌とヒバ材が触れ合うと、なんとも表現し難い夢心地に包まれるのです。こちらのお宿は宿泊のみで立ち寄り入浴はできませんが、こうしたお風呂やお湯の特徴を考えますと、なるほど非常に理に適っている営業スタイルではないかと一人で勝手に納得した次第です。

ところで、こちらの温泉名である「ほとけ沢」は、漢字では「𠏹沢」と表記するんだそうです。ほとけは「にんべん+西+國」です。こんな漢字はじめてみました。昔の人は何を意図してこんな難しい漢字を地名に用いたのでしょう。


𠏹沢温泉(再分析)
アルカリ性単純温泉 37.0℃ pH9.0 湧出量測定不可(掘削自噴) 溶存物質0.252/kg 成分総計0.252g/kg 
Na+:35.3mg(98.09mval%),
Cl-:9.2mg(15.66mval%), HCO3-:20.2mg(19.88mval%), CO3--:25.5mg(51.20mval%),
H2SiO3:150.2mg, CO2:0.0mg,

青い森鉄道・乙供駅より徒歩10分弱(570m)
青森県上北郡東北町ほとけ沢72-5  地図
0175-63-2855

日帰り入浴不可
1泊2食6,300円 素泊まり可
シャンプー類あり、ドライヤー見当たらず

私の好み:★★★

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4 コメント

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Unknown (シド)
2012-10-14 07:21:28
ほんと何時間でも入っていられるお湯ですよね。
毎年必ず宿泊している友人もいます(笑)
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Unknown (K-I)
2012-10-14 19:38:06
シドさん、こんばんは。
お宿で何もすることが無かったことも幸いだったのですが、食事と睡眠の時間以外はお風呂に入り続けたと言っても過言ではないほど浸かり続けていました。ぬる湯好きの私にとっては天国のようなお風呂でした。

>毎年必ず宿泊している友人
その気持ち、わかります(^^) 
もし弘前か五所川原辺りにこの宿があったら、私の定宿になること間違いなしです。
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Unknown (zataro50)
2012-10-16 01:02:27
東龍館さん、食堂の雰囲気いいですね。こういう宿で長逗留してみたいです。
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Unknown (K-I)
2012-10-16 01:10:25
zataro50さん、こんばんは。食堂は旅館というより、どこかの民家に居候しているかのようなアットホームな雰囲気でして、テレビを見ながら肩肘張らずに寛いで食事ができて良かったです。こちらはお湯がとっても心地よいので、本当に時間を忘れてのんびりできました。
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