前回記事の続きです。
前回記事にて、厦門のホテル選びに際しては、ホテル内に旅行会社があることを条件として挙げていました。なぜなら翌日早朝から参加する現地ツアーに申し込みたかったからです。厦門到着が遅くなることはわかっていたのですが、事前情報によれば、街中やバスターミナルなどで営業している旅行会社やバス会社は、夕方の早い時間に窓口を閉めてしまうらしく、私の廈門到着後ですと時間的に申し込めないことが予想されました。しかし、海外の一定以上のクラスのホテル内で営業しているような旅行会社は、実質的にコンシェルジュを兼ねていますから、ある程度は融通が利くはずだと推測したのです。
実際に私の予想通り、今回泊まった「夏商怡翔酒店・華都店」のフロント前にカウンターを構えていた小さなの旅行会社は、私がチェックインした後の遅い時間帯(夜9時頃)でも問題なく申し込みを受け付けており、旅行会社のおじさんこそ中国語onlyでしたが、フロント係の阿佐ヶ谷姉妹に似たお姉さんが間に入って英訳してくれたおかげで、スムーズに手続きをすることができました。上画像の青い券は、申し込んだ際に手渡された領収書兼申し込み控えです。
今回参加したかったツアーは、世界遺産である「福建土楼」を巡るものです(温泉とは無関係です)。「福建土楼」とは福建省の山地に点在する独特なスタイルをした伝統建築。長い歴史を有する建築様式の美しさもさることながら、そこに見られる客家の人々の生活感も魅力的であり、テレビやグラビアで知った時から、一度現地へ行ってみたかったのです。ただ、多くの土楼は山地の不便な場所にあり、個人でアクセスするのは面倒であるため、便利で合理的なツアーへ参加することにしたのです。
厦門から日帰りできる世界遺産の「福建土楼」は数箇所あり、それぞれにツアーが設定されているのですが、個人ブログや旅行クチコミサイト等を調べていたら、ガイドブック等で最初の方に紹介されるような有名な土楼は、思いっきり観光地化されてガッカリしたという嘆きが散見されたので、今回は敢えて2~3番手に紹介されるような知名度の、田螺坑土楼や裕昌楼など「南靖土楼」を巡る日帰りツアーに参加することにしました。
ちなみにツアーの料金は、往復のバス・各施設の入場料・ランチ・ガイドさん・保険込みで218元(日本円に換算すると4000円ちょっと)。現地の旅行会社に申し込んだので、完全なる中国人(国内人)向けのツアーであり、基本的に外国人の参加は想定しておらず、ツアー中の言語は100%中国語です。日本語はもちろん、英語も全く通じません。
ちなみにネットから申し込めるような日本語ガイドの現地ツアーですと、同じ内容で2万円から3万円もかかっちゃいます。5~7倍の価格差は大きいですよね。料金は安いけど言葉は通じない方を選ぶか、高いけど事前に申し込めて日本語もOKなツアーを選ぶか。この辺りは人それぞれの価値観によるかと思いますが、私の場合は前者を選んで、現地での申し込みにこだわりました。
翌朝は7時にホテルのフロント集合。「南靖土楼」は他の有名土楼よりも遠いため、集合時間も早いのですが、ホテルの朝食は7時からなので、ホテルで食べることができず、前夜にカップラーメンとパンを買っておいて、早起きして部屋で食べておきました。中国国内でも有名な世界遺産ですから、他にも参加者がいるかと思いきや、早朝のフロントにいるのは私一人だけ。ぽつねんと寂しくソファーに座っていたら、7時を10分ほど回ったところで、旅行会社のスタッフがやって来てピックアップしてくれました。ホテル前に停まっている中型バスに乗り込みます。今日はこのバスで観光するのかと思いきや…
途中の幹線道路上(おそらく厦門島北部の高崎付近)で中型バスから降ろされ、後からやって来た大型バスに乗り換えさせられました。中型バスはあくまでピックアップ専用の送迎車だったんですね。車体に大きく「厦門空港快線(Airport Express Xiamen)」と書かれたこのバスは、その名の通り空港からやって来たのか、はたまた普段は空港バスとして使っているものをこの日だけ観光用に使い回していたのかわかりませんが、目測で定員60名の車内は既にほぼ満席状態。辛うじて一番後ろの隅っこだけ空いていたので、そこにちょこんと座らせてもらいます。もちろん車内の客は全員中国人で、外国人は私一人だけの完全アウェー状態。旅行会社にしてみれば言葉が通じない面倒な客なので、ミソッカス状態でもあります。
大型バスが発車してまもなくすると、すべての客に対してツアー内容の確認と正式な契約書類が発行されました(上画像の赤い書類)。担当者は英語が全くわからないため、とりあえず漢字で筆談しながら、何とか内容確認を済ませ、もしもの時の連絡先として、書類の一番上に担当者の携帯電話番号を書いてくれたのですが、そもそも俺は中国語がほとんど話せないので、電話しても意味ないんだよなぁ…。まぁ何とかなるでしょう。
最後部の隅という完全ミソッカス扱いな位置の座席でしたが、これが幸いして後ろへ去ってゆく景色を眺めることができました。ちょうど朝のラッシュアワーでしたから、厦門の都心へ向かう高速道路の上り車線は大渋滞。高速道路が大きな橋で厦門の島から大陸へ渡る途中、干潟に沿って茶色いビルが林立していましたが、工事中なのか、はたまたニュースで報じられているような開発ありきのゴーストタウンなのか、それらのビルからは、生活や仕事の気配が全く感じられませんでした。
市街を抜けると高速道路は山間部をひたすら走行。外は雨が降っており、しかも同じような景色が延々と続いて退屈だったため、気づけば睡眠しておりました。
高速道路から一般道へ下り、しばらく走った先の荒涼とした田舎町にあるドライブインで約15分間のトイレ休憩です。路肩の土は掘り返したまま放置されているばかりか、バックホーのショベルまで置きっ放し。いかにも中国の田舎らしいだらしない光景であります。
このドライブインは台湾資本らしく、店内では阿里山や太魯閣峡谷の写真とともに、台湾産と表記されている物品(本当に台湾産かどうかは不明)が売られていた他、客家と台湾の文化融合云々をしきりに強調していました。福建省と台湾は昔から結びつきが強く、台湾から福建へ相当な資本が流入しているそうですね。
ドライブインから20分ほど走ったところでバスは再び停車し、今度はすべての客が降車させられました。その場所は「南坑蛇園」。福建土楼のツアーなのに、なぜかヘビ園に入場して、ガラスケースの中でぐったりしている覇気のない毒蛇を見学させられます。
続いてツアー参加者全員が一つの小部屋に押し込まれると、インカムを装着した角刈りのお兄さんが登場し、蛇の毒についてあれやこれやと解説。はじめのうちは蛇の生態や特徴を解説してくれているのかと思っていたのですが、徐々に雲行きが怪しくなり、「これを使えば解毒されるよ」とか「この抽出成分はカラダに良いんだよ」などと身振り手振りで話はじめると、前列に座っていたおじさんをつかまえ、懐から取り出した液体の薬をおじさんの肩に塗りはじめるではありませんか。どうやら疲れや肩こりなど何でも効く万能薬らしく、おじさんの出番が終わると…
私も!オイラも!という感じでみんな一斉に前へ集まり、あたかも集団心理にかかった怪しい新興信仰みたいに、次々と薬の効果を体験しています。しかもお兄さんの口上が上手かったのか、試すだけでは事足らないお客さんは、実際にこの薬は次々に買ってゆくんですから、団体が実演販売の餌食となってゆく様をまざまざと見せつけられたこちらとしては、ただ啞然とする他ありません。
小部屋から出口までの間は延々と蛇関係と思しき健康商品が陳列されていました。早い話が、このヘビ園はあからさまな販売目的の立ち寄り地であり、倦怠感たっぷりの毒ヘビ君たちは、単なる前フリに過ぎなかったわけですね。ま、観光ツアーにおけるこの手のおみやげ屋強制立ち寄りは不可避で、仕方のないことですね。
ヘビ園から更に数十分で、福建土楼が集まる観光エリアに到着です。ここでも乗客は全員下車するのですが、全員が一緒に行動するのではなく、ここでいくつかのグループに分けられるのです。というのも、上述のように福建土楼は広域に点在しており、客によって申し込んでいる行先(コース)が異なるため、そのコースに従って小さなグループに分けられるんですね。しかも他の大型バスでやってくるお客さんも各グループへ合流してくるので、何が何だかわからず、自分が属するべきグループにはぐれてしまいそうになり、頭が完全にパニックになって、その場で号泣したい気分でした。言葉が通じないって、こういう時に本当に心細いものです…。
市街での集客(スタート)から当地でグループ分けにされるまでの流れを、簡単な概念図にしてみました。こんな感じで、まず中型バスで各ホテルから客をピックアップしながら、バスターミナル等の拠点から発車した大型バスと途中で合流して乗り換え、いちどにすべての客を土楼の観光センター(観光拠点)まで運び、昼食会場(観光センターの前)にて、各方面別にグループ分けするのです。合理的でものすごくシステマティックに行われる一連のフローに、後々に気づいて感心してしまいました。
しかしながら、まだ大型バスから降ろされた時点ではまだ事情を把握できておらず、全く理解できない中国語を浴びせられ、担当者さんが指であれやこれやと指示されるがまま、同じバスの他客から切り離され、訳もわからず不安いっぱいのまま、とにかくグループにはぐれないよう、見知らぬ人たちの後を必至で追いかけてゆきます。
グループ分けが終わった後は、ホテルらしき大きな建物のホールに入り、グループみなさんで大きな円卓を囲み、昼食の時間となります。ホールにはたくさんの円卓があり、その全てに膨大な人数の団体客がいるため、自分のグループに属する人たちの顔を覚えておかないと、言葉のわからない私のような人物は、はぐれちゃうこと必至です。
円卓での食事では、どの客も自分の仲間以外の他人には、たとえ同じグループであっても一向に意に介する気配がなく、「同じ行程ですね、よろしくお願いします」なんて挨拶も一切なく、言葉をかわして一期一会の楽しみを味わうようなこともなく、実にそっけない感じ。でも、どうせ俺は中国語が話せないし、食事自体は美味しかったから、まぁ良いや。
食後に私が申し込んだ「田螺坑土楼」ツアー一行を率いるガイドさんが登場しました。ここから以降は、このガイドさんさえ見逃さなければ大丈夫だろうとひと安心。ガイドさんは笑顔を絶やさない方で、言葉の通じない私を常に気遣ってくれた親切なおばさんでした。
そぼ降る雨の中、まずは「田螺坑土楼」など南靖エリアに点在する土楼の拠点となる「南靖土楼游客服務中心」(南靖土楼観光サービスセンター)へと向かいます。各土楼とも入場にはチケットが必要であり、ここがその総合窓口となっているわけです。ツアーに申し込まずに個人で観光する場合は、ここでチケットを購入するみたいです。一応、世界遺産という建前があるためか、英語表記とともに申し訳程度の日本語表記も見られました。
あまりに巨大な窓口とホールにビックリ。そして、土楼を模したファサードを採用しているものの、明らかに周囲の自然環境や景観、そして伝統的な建築様式の美観と相容れない、無駄にデカくて威圧的なこのセンターの存在にガッカリ。
この「南靖土楼游客服務中心」は単なる窓口や拠点となっているばかりでなく、エリア内に点在する土楼を巡回するミニバスの発進基地でもあり、まるで空港のような広い待合室を抜けると、その先の広大なバスターミナルに何十台ものミニバスがズラリと並んでいました。
我々のようなツアー客は、このミニバスを一台を占有して、訪問先をめぐってゆくことになります。
満員の乗客を載せてバスターミナルを発車したミニバスは、茶畑が広がる山をどんどん登って、車酔いする人だったら間違いなく嘔吐しちゃいそうなワインディングを、奥へ奥へと進んでゆきます。車窓には綺麗な茶畑が見えたのですが、窓ガラスに雨粒がビッシリこびりついていたため、その景色がちっとも撮れませんでした。
「南靖土楼游客服務中心」を出発してから約20分で、最初の立ち寄りポイントである展望台に到着しました。展望台の屋根がショボいので、どうせ大したことないのだろうと高をくくっていたのですが…
うわわっ! 息を呑む絶景!
土壁で囲まれた瓦屋根の大きな土楼が一箇所にまとまっているのですが、ただ集まっているのではなく、4つの円形の土楼が、中央の矩形の土楼を守るように配置されています。そしてその土楼の周りに棚田や茶畑などといった美しい緑が広がっています。長閑な山中の田園風景に忽然と姿を現したこの土楼こそ「田螺坑土楼」であります。ガイドさんが土楼の配置を「梅の花みたいでしょ」と私でもわかる簡単な中国語で説明してくれましたが、なるほど言い得て妙。実に美しい!
いままでの細かな不満や不安は一気に吹き飛びました。
続いて、展望台から階段を下り、いま俯瞰した土楼の中へ入ってみましょう。
次回に続く
.
前回記事にて、厦門のホテル選びに際しては、ホテル内に旅行会社があることを条件として挙げていました。なぜなら翌日早朝から参加する現地ツアーに申し込みたかったからです。厦門到着が遅くなることはわかっていたのですが、事前情報によれば、街中やバスターミナルなどで営業している旅行会社やバス会社は、夕方の早い時間に窓口を閉めてしまうらしく、私の廈門到着後ですと時間的に申し込めないことが予想されました。しかし、海外の一定以上のクラスのホテル内で営業しているような旅行会社は、実質的にコンシェルジュを兼ねていますから、ある程度は融通が利くはずだと推測したのです。
実際に私の予想通り、今回泊まった「夏商怡翔酒店・華都店」のフロント前にカウンターを構えていた小さなの旅行会社は、私がチェックインした後の遅い時間帯(夜9時頃)でも問題なく申し込みを受け付けており、旅行会社のおじさんこそ中国語onlyでしたが、フロント係の阿佐ヶ谷姉妹に似たお姉さんが間に入って英訳してくれたおかげで、スムーズに手続きをすることができました。上画像の青い券は、申し込んだ際に手渡された領収書兼申し込み控えです。
今回参加したかったツアーは、世界遺産である「福建土楼」を巡るものです(温泉とは無関係です)。「福建土楼」とは福建省の山地に点在する独特なスタイルをした伝統建築。長い歴史を有する建築様式の美しさもさることながら、そこに見られる客家の人々の生活感も魅力的であり、テレビやグラビアで知った時から、一度現地へ行ってみたかったのです。ただ、多くの土楼は山地の不便な場所にあり、個人でアクセスするのは面倒であるため、便利で合理的なツアーへ参加することにしたのです。
厦門から日帰りできる世界遺産の「福建土楼」は数箇所あり、それぞれにツアーが設定されているのですが、個人ブログや旅行クチコミサイト等を調べていたら、ガイドブック等で最初の方に紹介されるような有名な土楼は、思いっきり観光地化されてガッカリしたという嘆きが散見されたので、今回は敢えて2~3番手に紹介されるような知名度の、田螺坑土楼や裕昌楼など「南靖土楼」を巡る日帰りツアーに参加することにしました。
ちなみにツアーの料金は、往復のバス・各施設の入場料・ランチ・ガイドさん・保険込みで218元(日本円に換算すると4000円ちょっと)。現地の旅行会社に申し込んだので、完全なる中国人(国内人)向けのツアーであり、基本的に外国人の参加は想定しておらず、ツアー中の言語は100%中国語です。日本語はもちろん、英語も全く通じません。
ちなみにネットから申し込めるような日本語ガイドの現地ツアーですと、同じ内容で2万円から3万円もかかっちゃいます。5~7倍の価格差は大きいですよね。料金は安いけど言葉は通じない方を選ぶか、高いけど事前に申し込めて日本語もOKなツアーを選ぶか。この辺りは人それぞれの価値観によるかと思いますが、私の場合は前者を選んで、現地での申し込みにこだわりました。
翌朝は7時にホテルのフロント集合。「南靖土楼」は他の有名土楼よりも遠いため、集合時間も早いのですが、ホテルの朝食は7時からなので、ホテルで食べることができず、前夜にカップラーメンとパンを買っておいて、早起きして部屋で食べておきました。中国国内でも有名な世界遺産ですから、他にも参加者がいるかと思いきや、早朝のフロントにいるのは私一人だけ。ぽつねんと寂しくソファーに座っていたら、7時を10分ほど回ったところで、旅行会社のスタッフがやって来てピックアップしてくれました。ホテル前に停まっている中型バスに乗り込みます。今日はこのバスで観光するのかと思いきや…
途中の幹線道路上(おそらく厦門島北部の高崎付近)で中型バスから降ろされ、後からやって来た大型バスに乗り換えさせられました。中型バスはあくまでピックアップ専用の送迎車だったんですね。車体に大きく「厦門空港快線(Airport Express Xiamen)」と書かれたこのバスは、その名の通り空港からやって来たのか、はたまた普段は空港バスとして使っているものをこの日だけ観光用に使い回していたのかわかりませんが、目測で定員60名の車内は既にほぼ満席状態。辛うじて一番後ろの隅っこだけ空いていたので、そこにちょこんと座らせてもらいます。もちろん車内の客は全員中国人で、外国人は私一人だけの完全アウェー状態。旅行会社にしてみれば言葉が通じない面倒な客なので、ミソッカス状態でもあります。
大型バスが発車してまもなくすると、すべての客に対してツアー内容の確認と正式な契約書類が発行されました(上画像の赤い書類)。担当者は英語が全くわからないため、とりあえず漢字で筆談しながら、何とか内容確認を済ませ、もしもの時の連絡先として、書類の一番上に担当者の携帯電話番号を書いてくれたのですが、そもそも俺は中国語がほとんど話せないので、電話しても意味ないんだよなぁ…。まぁ何とかなるでしょう。
最後部の隅という完全ミソッカス扱いな位置の座席でしたが、これが幸いして後ろへ去ってゆく景色を眺めることができました。ちょうど朝のラッシュアワーでしたから、厦門の都心へ向かう高速道路の上り車線は大渋滞。高速道路が大きな橋で厦門の島から大陸へ渡る途中、干潟に沿って茶色いビルが林立していましたが、工事中なのか、はたまたニュースで報じられているような開発ありきのゴーストタウンなのか、それらのビルからは、生活や仕事の気配が全く感じられませんでした。
市街を抜けると高速道路は山間部をひたすら走行。外は雨が降っており、しかも同じような景色が延々と続いて退屈だったため、気づけば睡眠しておりました。
高速道路から一般道へ下り、しばらく走った先の荒涼とした田舎町にあるドライブインで約15分間のトイレ休憩です。路肩の土は掘り返したまま放置されているばかりか、バックホーのショベルまで置きっ放し。いかにも中国の田舎らしいだらしない光景であります。
このドライブインは台湾資本らしく、店内では阿里山や太魯閣峡谷の写真とともに、台湾産と表記されている物品(本当に台湾産かどうかは不明)が売られていた他、客家と台湾の文化融合云々をしきりに強調していました。福建省と台湾は昔から結びつきが強く、台湾から福建へ相当な資本が流入しているそうですね。
ドライブインから20分ほど走ったところでバスは再び停車し、今度はすべての客が降車させられました。その場所は「南坑蛇園」。福建土楼のツアーなのに、なぜかヘビ園に入場して、ガラスケースの中でぐったりしている覇気のない毒蛇を見学させられます。
続いてツアー参加者全員が一つの小部屋に押し込まれると、インカムを装着した角刈りのお兄さんが登場し、蛇の毒についてあれやこれやと解説。はじめのうちは蛇の生態や特徴を解説してくれているのかと思っていたのですが、徐々に雲行きが怪しくなり、「これを使えば解毒されるよ」とか「この抽出成分はカラダに良いんだよ」などと身振り手振りで話はじめると、前列に座っていたおじさんをつかまえ、懐から取り出した液体の薬をおじさんの肩に塗りはじめるではありませんか。どうやら疲れや肩こりなど何でも効く万能薬らしく、おじさんの出番が終わると…
私も!オイラも!という感じでみんな一斉に前へ集まり、あたかも集団心理にかかった怪しい新興信仰みたいに、次々と薬の効果を体験しています。しかもお兄さんの口上が上手かったのか、試すだけでは事足らないお客さんは、実際にこの薬は次々に買ってゆくんですから、団体が実演販売の餌食となってゆく様をまざまざと見せつけられたこちらとしては、ただ啞然とする他ありません。
小部屋から出口までの間は延々と蛇関係と思しき健康商品が陳列されていました。早い話が、このヘビ園はあからさまな販売目的の立ち寄り地であり、倦怠感たっぷりの毒ヘビ君たちは、単なる前フリに過ぎなかったわけですね。ま、観光ツアーにおけるこの手のおみやげ屋強制立ち寄りは不可避で、仕方のないことですね。
ヘビ園から更に数十分で、福建土楼が集まる観光エリアに到着です。ここでも乗客は全員下車するのですが、全員が一緒に行動するのではなく、ここでいくつかのグループに分けられるのです。というのも、上述のように福建土楼は広域に点在しており、客によって申し込んでいる行先(コース)が異なるため、そのコースに従って小さなグループに分けられるんですね。しかも他の大型バスでやってくるお客さんも各グループへ合流してくるので、何が何だかわからず、自分が属するべきグループにはぐれてしまいそうになり、頭が完全にパニックになって、その場で号泣したい気分でした。言葉が通じないって、こういう時に本当に心細いものです…。
市街での集客(スタート)から当地でグループ分けにされるまでの流れを、簡単な概念図にしてみました。こんな感じで、まず中型バスで各ホテルから客をピックアップしながら、バスターミナル等の拠点から発車した大型バスと途中で合流して乗り換え、いちどにすべての客を土楼の観光センター(観光拠点)まで運び、昼食会場(観光センターの前)にて、各方面別にグループ分けするのです。合理的でものすごくシステマティックに行われる一連のフローに、後々に気づいて感心してしまいました。
しかしながら、まだ大型バスから降ろされた時点ではまだ事情を把握できておらず、全く理解できない中国語を浴びせられ、担当者さんが指であれやこれやと指示されるがまま、同じバスの他客から切り離され、訳もわからず不安いっぱいのまま、とにかくグループにはぐれないよう、見知らぬ人たちの後を必至で追いかけてゆきます。
グループ分けが終わった後は、ホテルらしき大きな建物のホールに入り、グループみなさんで大きな円卓を囲み、昼食の時間となります。ホールにはたくさんの円卓があり、その全てに膨大な人数の団体客がいるため、自分のグループに属する人たちの顔を覚えておかないと、言葉のわからない私のような人物は、はぐれちゃうこと必至です。
円卓での食事では、どの客も自分の仲間以外の他人には、たとえ同じグループであっても一向に意に介する気配がなく、「同じ行程ですね、よろしくお願いします」なんて挨拶も一切なく、言葉をかわして一期一会の楽しみを味わうようなこともなく、実にそっけない感じ。でも、どうせ俺は中国語が話せないし、食事自体は美味しかったから、まぁ良いや。
食後に私が申し込んだ「田螺坑土楼」ツアー一行を率いるガイドさんが登場しました。ここから以降は、このガイドさんさえ見逃さなければ大丈夫だろうとひと安心。ガイドさんは笑顔を絶やさない方で、言葉の通じない私を常に気遣ってくれた親切なおばさんでした。
そぼ降る雨の中、まずは「田螺坑土楼」など南靖エリアに点在する土楼の拠点となる「南靖土楼游客服務中心」(南靖土楼観光サービスセンター)へと向かいます。各土楼とも入場にはチケットが必要であり、ここがその総合窓口となっているわけです。ツアーに申し込まずに個人で観光する場合は、ここでチケットを購入するみたいです。一応、世界遺産という建前があるためか、英語表記とともに申し訳程度の日本語表記も見られました。
あまりに巨大な窓口とホールにビックリ。そして、土楼を模したファサードを採用しているものの、明らかに周囲の自然環境や景観、そして伝統的な建築様式の美観と相容れない、無駄にデカくて威圧的なこのセンターの存在にガッカリ。
この「南靖土楼游客服務中心」は単なる窓口や拠点となっているばかりでなく、エリア内に点在する土楼を巡回するミニバスの発進基地でもあり、まるで空港のような広い待合室を抜けると、その先の広大なバスターミナルに何十台ものミニバスがズラリと並んでいました。
我々のようなツアー客は、このミニバスを一台を占有して、訪問先をめぐってゆくことになります。
満員の乗客を載せてバスターミナルを発車したミニバスは、茶畑が広がる山をどんどん登って、車酔いする人だったら間違いなく嘔吐しちゃいそうなワインディングを、奥へ奥へと進んでゆきます。車窓には綺麗な茶畑が見えたのですが、窓ガラスに雨粒がビッシリこびりついていたため、その景色がちっとも撮れませんでした。
「南靖土楼游客服務中心」を出発してから約20分で、最初の立ち寄りポイントである展望台に到着しました。展望台の屋根がショボいので、どうせ大したことないのだろうと高をくくっていたのですが…
うわわっ! 息を呑む絶景!
土壁で囲まれた瓦屋根の大きな土楼が一箇所にまとまっているのですが、ただ集まっているのではなく、4つの円形の土楼が、中央の矩形の土楼を守るように配置されています。そしてその土楼の周りに棚田や茶畑などといった美しい緑が広がっています。長閑な山中の田園風景に忽然と姿を現したこの土楼こそ「田螺坑土楼」であります。ガイドさんが土楼の配置を「梅の花みたいでしょ」と私でもわかる簡単な中国語で説明してくれましたが、なるほど言い得て妙。実に美しい!
いままでの細かな不満や不安は一気に吹き飛びました。
続いて、展望台から階段を下り、いま俯瞰した土楼の中へ入ってみましょう。
次回に続く
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