温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

掛落林温泉 あすなろ温泉

2012年06月24日 | 青森県

津軽平野のリンゴ畑の彼方に聳える春の岩木山。太宰治は『津軽』でこの霊峰について「したたるほど真蒼で、富士山よりもっと女らしく、十二単衣の裾を、銀杏の葉をさかさに立てたようにぱらりとひらいて左右の均斉も正しく、静かに青空に浮んでいる。決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透きとおるくらいに嬋娟たる美女ではある」と形容し、とりわけ「金木、五所川原、木造あたりから眺めた岩木山の端正で華奢な姿も忘れられなかった」と述べていますが、さすがへそ曲がりながら郷土を愛する金木の津島家のお坊ちゃんの仰る通り、この山は北側から眺めると均整のとれた山裾が左右に美しく広がっており、独立峰であることも相俟って、その秀麗なる様は何度見ても飽きることがありません。



リンゴ畑が広がるばかりの長閑な田園地帯の片隅に、アブラ臭温泉ファンの聖地「あすなろ温泉」が佇んでおります。この周辺では他にも「ゆったり温泉(旧鶴寿温泉)」などでアブラ臭をクンクンすることができますが、やはり個性や強さではこの「あすなろ温泉」が群を抜いていますね。


 
高架水槽の下ではワンコがお休み中。



駐車場を中心にして旅館部、デイサービスセンター「ひばの里」、そして浴場棟の建物がコの字型に並んでいます。最近は温泉を付帯する老人福祉施設が増えましたね。


 
さて浴場棟へと入りましょう。訪問日は、受付奥の大広間にドキンちゃんのちいさなねぶたが鎮座していました。受付カウンターには故ナンシー関を20歳近く老けさせて、更に虫の居所が悪くて不機嫌にさせたような風貌のオバサンが新聞を開いており、客である私の来訪を意に関せずといった感じで、こちらへ一瞥もくれることなく、目で記事を追いかけることに必死のご様子でした。あれ?生前のナンシー関女史はいつも不機嫌だったか。ま、どうでもいいが。


●公衆浴場
「あすなろ温泉」には一般的な公衆浴場と家族(貸切)風呂の2種類を利用することができますが、両者は別料金です。まずは公衆浴場の方から取り上げていきましょう。といっても、いまから2~3年前に訪問した際の画像なので、もしかしたら現状とは若干異なる箇所があるかもしれません。


受付のホールのみならず、脱衣所にまでスピーカーから演歌が流れてくる、いかにも青森県の公衆浴場らしい佇まい。
浴室の造りも当県の公衆浴場の標準的なレイアウトとなっており、すなわち中央に大きな浴槽が据えられ、その周囲を洗い場の水栓がぐるっと取り囲んでいます。
浴槽に張られた掛け流しのお湯は薄黄色透明、ガソリンのような強い油臭が鼻を突き、マイルドな塩味が舌に残ります。食塩泉らしいツルスベ浴感ですが、湯上り後は肌につっぱりが感じられました。また熱めの湯加減ですので、かなり火照ります。



公衆浴場料金なのに露天風呂が利用できるのでちょっぴりお得な気分を味わえます。こちらは外気で冷やされているためか入りやすい湯加減になっていました。またコンクリ浴槽の縁は黄色く染まっていました。もちろんこちらも掛け流しです。


●家族風呂
 
さて先日(2012年5月)に訪問した際には、家族(貸切)風呂を利用しました。公衆浴場より貸切の個室の方が断然油臭が強いということを以前から聞いており、どんなものか一度体験してみたかったのです。上述のように受付のおばちゃんは新聞に夢中でしたが、そんな不穏な状況を察してか、まるでフォローを入れるかのように、奥の方から物腰柔らかく低姿勢なお婆ちゃんが現れ、「可及的速やかに」その場から離れて私を案内してくれました。受付右側の棟が貸切風呂ゾーン。廊下に沿って個室が並んでいます。窓の外を見ると、中庭の池では錦鯉が優雅に遊泳中。



個室には「王林」「紅月」「金星」「北斗」など、ふじやジョナゴールドが市場を席巻する以前のリンゴの品種が名づけられています。今回は「北斗」のお部屋へと案内されました。廊下で既に薄らと油臭が漂っていましたが、部屋に入った途端にその匂いが俄然強くなりました。まだ浴室へ足を踏み入れていないというのに、なんということでしょう。


 
戸を開けると、そこには6畳程の和室が広がっていました。お風呂だけじゃなく、お部屋も借りられるんですね。室内にはテレビ(アナログテレビをデジアナ変換で使用)、ちゃぶ台の他、床の間まであり、本格的な旅館の客室そのものです。制限時間は1時間ですが、この部屋なら十分寝泊りできちゃいますね。でも冷房が無いので、夏に火照るお風呂から上がった後はかなり暑いかもしれません。



浴室の隣にはトイレまで設けられていました。えらく便利な個室です。2時間借りても2000円てことは、使い方によってはラ●ホテルより安く済むぞ…なんて不埒なことを考えたりして。



浴室も貸切の個室風呂にしてはかなり広く、そんな空間の片隅に丸いFRPの浴槽がポツンと据え付けられています。一つ上の画像のキャプションでなぜ不埒なことを思いついたかといえば、こういう感じのお風呂って、一昔前の田舎の安いラ●ホテルで結構あったんですよ。青森県でいえば大釈迦あたりがその手の施設の一大「集積地」ですが、某世界的飲料企業の工場周辺ではなく、そこからちょっと原子(五所川原市)寄りに建つ古くて安い今にもお化けが出てきそうなホテルで、この手のお風呂をよく見かけた記憶があります(そうした施設はもう廃業しているんでしょうけど)。

脳天がクラクラしそうなほど濃厚な油臭に満たされた室内にはシャワー付き混合栓が1基設置されています。浴槽にはあらかじめお湯が溜められており、湯口となっている蛇口から源泉がチョロチョロと落とされていました。そのお湯はおそらく全く手が加えられていない源泉そのまんまのものであると思われ、投入量こそチョロチョロでしたが、源泉温度が60度近い高温で、湯船もそのままでは入れないほど激熱だったので、水で薄めて適温にしてから入浴することにしました。でもこの水もなぜかちっとも冷たくなかったので、仕方なくお湯を完全に止めて、ぬるい水の蛇口を全開にして時間をかけて温度を下げてゆきました。



お湯は薄い褐色(黄褐色)透明で、茶褐色で羽毛状の湯の華が浮遊しています。口に含むと塩をいれすぎた出汁スープのような味が感じられるとともにほろ苦さや舌を痺れさせる渋さも舌の上に伝わってきました。そして、どこかで油が漏れているんじゃないかと疑いたくなる程、揮発油のような強い刺激のある油臭がこれでもかというほど鼻孔を衝いてきます。匂いに過敏な人でしたら、眉間に皺を寄せたくなるような激しい頭痛に襲われてしまうかもしれません。水で薄めているものの、大浴場と違って誰の肌にも触れていないお湯の鮮度はすばらしく、食塩泉らしいツルスベ感がはっきり得られた他、全身を叩きのめすような凶暴なパワーも半端じゃなく、体が非常に火照ると共に、お湯の匂いと攻撃的性格のために、いとも簡単に私の体は朦朧としてしまいました。もちろん温泉に関してはドMなので、お湯の容赦ない猛攻は大感激であります。

噂通り個室のお風呂は、匂いは無論のこと、味もお湯の質感も公衆浴場とは比べ物にならないほどに個性的で際立っていますした。油臭を堪能するためにこちらを訪れる方は、ちょっとお値段が高めですが個室を利用すべきですね。青森県の温泉浴場で一人で1000円も支払うのはかなり躊躇してしまい、いままで個室は敬遠していたのですが、意を決して入浴して大正解でした。油臭に全身包まれながら、軽くラリって至福のひととき。最高です。恐れ入りました。なお家族風呂は部屋によって造りが違うそうです(他部屋は岩風呂などになっているそうです)。


ナトリウム-塩化物温泉 58.3℃ pH7.68 450L/min(動力揚湯) 溶存物質10.46g/kg 成分総計10.46g/kg
Na+:3700mg(96.18mval%),
Cl-:5191mg(89.16mval%), HCO3-:1012mg(10.10mval%),
H2SiO3:191.0mg, HBO2:132.7mg, 遊離CO2:11.5mg,

JR五能線・五所川原駅または板柳駅、もしくは弘前駅より弘南バスの「弘前~五所川原線」で掛落林下車、徒歩5分
青森県北津軽郡板柳町掛落林前田140-1  地図
0172-73-2567
ホームページ

公衆浴場→7:00~22:00 300円
貸切風呂→9:00~16:00 1000円/1h(4人まで)
公衆浴場:ドライヤーあり、各種販売あり
家族風呂:備品類なし、販売関係は同上

私の好み:★★★

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 温湯温泉 飯塚旅館 | トップ | 山田温泉 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (あまちゃん)
2013-04-18 11:49:43
おすすめはここですね!家族風呂を試したくなりました まあ 露天もいいかんじしちゃうんですがー 逆にここを宿泊にすればよかったかなあ (笑) あぶらなかほりは好きですよ といっても思い付くのは岩手の巣郷とかですが 鳴子の高友は昔衝撃強くて敬遠してたけど年とともに好みなってるかもね ありがとう★
返信する
Unknown (K-I)
2013-04-19 01:04:15
>あまちゃんさん
はい、ここです(^^)
結構強いアブラ臭でして、高友の黒湯と同等かそれ以上かもしれません。家族風呂に入ろうとしたときには、廊下まで匂いが漂っていたほどですから。津軽平野には面白い温泉がたくさんありますから、いろいろとハシゴしてみてくださいね。
返信する

コメントを投稿