温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

上山温泉 ふぢ金旅館

2014年12月24日 | 山形県

前回記事では上山温泉・湯町地区の「ホテル山内」を取り上げましたが、今回は節操もなくそのお隣の「ふぢ金旅館」へとお邪魔し、日帰り入浴させていただきました。民家と見紛いそうな、渋く控え目な佇まいですが、玄関庇のむくり屋根が只者ではないことを訴えています。



玄関に入ってインターホンで呼び出しますと、奥の方から股引姿のお爺さんが現れて対応してくださいました。正面の壁には「謹告 湯銭四百円也」の張り紙。余計なセリフはいらない。ただ漢字8文字だけで十分に伝わります。これぞ日本の潔さ。



館内には大小の浴室が1つずつ。後述するように今回は大きな浴室を利用させていただいたので、玄関の近くにある小さな浴室は見学のみにとどめました。古いタイル張りの浴室内には、1~2人サイズの角の丸い浴槽がひとつあるだけで、至って質素ですが、出窓には桶がきちんと積まれ、その並びの花瓶には造花のバラが飾られています。清掃が行き届いており、窓から差し込む陽により、室内は淡い光で照らされ、湯船のお湯がキラキラと輝いていました。伝統的な日本絵画は余白にこそ美があると言われていますが、まさにその「余白の美」を体現しているかのようなこのお風呂。なんて品が良いのでしょう。



こちらのお宿はお湯ももちろん良いのですが、上層階への階段が実に印象的。廊下から階段へ接続する空間は緩やかな曲線を描いています。当時の左官屋さんの職人技が光っていますね。そして、階段の途中に設けられた明かり採りの丸窓には、竹細工が施されています。


 
今回お爺さんに案内されたのは大浴場「つるはぎ(鶴脛)の湯」。引き戸のガラスへ直に欠かれている手書きの字が良い味を出していますね。


 
板の間の脱衣室は、見るからに年季の入っており、歩く度に床が撓んでキシキシ音が響くのですが、でもただ古いだけではなく、小窓の枠上には飾られた造花や、洗面台に施された、和風な東屋が建つ青松の海岸を描いた小さなタイル絵など、昭和の日本の美意識が随所に見受けられ、床の軋みですら深い味わいに感じられます。

壁に掛かる木板には「鶴脛温泉之湯来記」と題する文章が墨痕鮮やかに記されています。鶴脛温泉とは湯町地区のお湯の別称であり、早い話が上山温泉の由緒書きです。曰く、1458年(長禄2年)のこと、肥前から来た月秀という僧侶が、脛を沼に浸して傷を癒やし飛び立つ鶴の姿を目にし、その沼からお湯を引いて湯治場を作ったのが上山温泉のはじまりとのこと。鶴脛温泉という別称は、その経緯に由来しているんですね。
この古い説明ボードで面白いのは、由来につづく湯使いに関する説明です。この文章が書かれたのは、建物同様に相当以前のことと思われるのですが、その当時からここのお風呂は放流式であることを訴えているのです。該当部分を抜粋しますと「近年各地に温泉と称するワカシ湯浄化環流のバス等流行していますが此所の天然温泉は全く神の恵みによつて湧出した真の温泉です」とのこと。現在の温泉業界で掛け流し云々がうるさくなったのはここ十数年の話ですが、実際にはそれ以前から、温泉の真偽は業界にとっての大きな関心事だったんですね。


 
こちらの浴室は、さきほどチラッと見させていただいた小浴室よりはるかに大きく、旅館という名前に相応しい規模です。どうせ入るのでしたら、こっちの方がノビノビできますね。古い造りの室内は、モルタルの上にタイルが貼られており、床や浴槽はタイル貼り。余計な設備は無く、室内にはお湯が湯船へ落ちる音が響くばかりで、他の音は一切聞こえません。
なお洗い場には単水栓のシャワーが1つと水道蛇口が2つあるのみですから、掛け湯する場合は湯船から直接汲んじゃった方が良さそうです。



浴槽は目測で3.5m×3.0m、槽内に貼られた水色のタイルは、湯面がさざなみ立つと、窓から降り注ぐ外光を受けて虹色にキラキラ輝き、青白い光を反射しています。また緩やかなRを描く御影石の縁は、温泉成分の付着でうっすらと白く染まっています。


 
 
浴槽の隅には石造りの湯口跡があるのですが、現在では使われておらず、その右脇まで引かれた塩ビのパイプより、直に触れないほど熱いお湯がトポトポ注がれています。この湯口跡のまわりには、まるで雪をかぶったかのように、硫酸塩の真っ白な析出がコンモリ付着しています。なおお湯の配管は途中で分岐していますので、バルブを開けば洗い場でもアツアツの温泉が汲めます。

無色澄明で、甘塩味に弱い石膏味と芒硝味が感じられ、ふんわり芒硝臭と石膏臭が香ります。加水加温循環消毒が一切ない完全掛け流しで、非加水のためにちょっと熱めの湯加減であり、湯船に入りしなは脛にピリッとした刺激が走りますが、徐々に体を熱さに慣らしてゆけば非加水でも入れ、鮮度感も良いため、慣れればむしろその熱さが気持ちよく感じるほどです。湯中ではスルスルスベスベの中に硫酸塩らしいキシキシが拮抗して肌に伝わってきました。

古風で渋い佇まいながら、昔ながらの美意識が守られている素敵なお宿。且つシンプルながらも品の良いお風呂で、シャキッと冴える良いお湯と出会うことができました。


上山地区1号源泉・上山地区2号源泉・上山地区3号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 64.3℃ pH7.9 蒸発残留物2598mg/kg 溶存物質2529mg/kg
Na+:523.1mg, Ca++:329.1mg,
Cl-:809.8mg, Br-:2.2mg, SO4--:755.1mg,
H2SiO3:58.9mg,
(平成22年3月19日)
加水加温循環消毒なし

JR奥羽本線(山形新幹線)・かみのやま温泉駅より徒歩15分(1.2km)
山形県上山市湯町4-1  地図
023-672-0102

日帰り入浴時間10:00~20:00
400円
石鹸・シャンプーあり、ロッカーやドライヤーは見当たらず

私の好み:★★★

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