温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾で最も美しい野湯 栗松温泉 その1(南横公路と六口温泉)

2015年09月12日 | 台湾

2015年初夏の台湾旅行における大きな目的の一つが、"台湾最美麗的野渓温泉"、つまり台湾で最も美しい野湯と言われている台東県の栗松温泉で入浴を果たすことです。現地まで険しい山道を徒歩で往復しなければならないらしいのですが、果たして単独行で目的を達し、無事に戻ってこられるでしょうか。まずは鹿野郷「盈家温泉民宿」を朝9時過ぎに出発して台9線を北上し、途中から台20線「南横公路」に入って、卑南渓という大きな川を遡る形で、中央山脈の南部を深く切り刻んでいる霧鹿峡谷を目指します。


 
卑南渓の沖積平野が広がる関山や池上は台湾屈指の米どころ。台20線沿道の高台から平野を眺めると、見渡す限りに麗しい水田が広がっており、風に乗って稲の青々とした匂いが香ってきました。台湾の稲作は一般的に二期作です。この画像の水田は6月頃、黄金色に染まるのでしょう。


 
 
「南横公路」は台湾の脊梁である中央山脈を東西に貫く横貫のひとつ。平野部から山間部へ入ると一気に景色が険しくなり、カーブと登り坂が続く中で、断崖がオーバーハングしている箇所や、トンネルを通過する箇所が連続して現れます。この「南横公路」は脊梁を越えて台南・高雄方面へと続いているのですが、2009年の八八水災以降、台東県と高雄市の境界付近が崩壊してしまい、復旧工事が行われているものの、いまだに通行止が続いています。沿道の標識にはその旨を知らせる赤い標識「往台南高雄封閉」が括りつけられていました。


 
標高713mの霧鹿地区には、「南横公路」の台東県側で最も大きなホテルである「天龍飯店」があり、温泉浴場も設けられていますが、こちらは後ほど伺うとして今は通過します。


 
霧鹿を過ぎてしばらく進むと、私の車の先を走っていたトラックが停車しており、その前方にはバリケードが張られていました。どうやら道路工事中のため通行規制が実施されているようです。



(上画像クリックで拡大)
日本で道路工事が行われる場合は、せいぜい数分間の通行規制(片側交互通行等)がかかるだけですが、この区間で実施されている規制はかなり大胆。お昼の1時間と夜間を除いて、50分間を工事のため通行止にし、10分だけ通行可能にするという1時間サイクルを繰り返しているのです。つまりタイミングが悪ければ、開通まで50分近く待たなきゃいけないわけです。現地には時間割が掲示されており、これに従い開通と閉鎖が行われています。なお標識によれば民国105年(2016年)1月20日までこの規制が続く予定ですが、台湾のことですから期日が伸びちゃうのは必至でしょう。


 
時間割に記されている規制解除(開通)の時間まで15分あったので、エンジンを止めて車から降りてみたところ、ちょうど目の前に渓谷を臨む小さな公園があり、一辺1メートルほどの正方形の水槽が計6つ並んでいました。6つのうち、川側の3つには蓋など無いのですが、山側(道路側)の3つにはグレーチングが被せてあります。


 
構内の説明プレートによれば、ここは「六口温泉」というれっきとした温泉で、南横公路の建設中に見つけられたんだとか。まさか、槽が6つあるから「六口温泉」というネーミングになったのかな。大きさから推測するに、入浴ではなく足湯を楽しむための施設のようです。


 
開放されているからといって、迂闊にお湯を触るとエライ目に遭います。グレーチングが被さっている槽の一つには、モスラの幼虫みたいな表面加工が施されている配管が突き出ているのですが、そこから注がれているお湯はなんと90℃以上の激熱なのです。火傷を防ぐために蓋が被せてあるのでしょうね。私が計測した時には93.3℃もありましたから、直に触るのは危険ですが、蓋の隙間から食材を浸してボイルしたり温泉卵をつくるには良いかもしれません。
この熱湯は隣の槽とチョロチョロと移り、更に川側の槽へと流れてゆくうちに温度も下がって、蓋の無い槽では足湯をしても差し支えない湯温となっていました。


 

この「六口温泉」の対岸に立ちはだかる絶壁でも温泉が自噴しており、滴り落ちる温泉の成分がその表面に付着することにより、上下に長いカーテン状の石灰華が形成されていました。これから目指す栗松温泉も、ここと同様に自噴した温泉に含まれる石灰が断崖を覆っていますから、この一帯の温泉はカルシウムや炭酸水素イオンを多く含んでいるのでしょうね。


 
画像を撮っているうちに開通時間となり、ガードマンさんがバリケードを取り払ってくれましたので、車に乗り込んで出発です。工事区間の路面はとんでもなく荒れており、しかもものすごい砂埃が立って、軽いホワイトアウト状態に。


 
工事区間を通過した後、車を止めてその区間を振り返ってみました。渓谷の対岸では大規模な土砂崩れが発生しています。また今通ってきたばかりの道も、天険の断崖を削って作られており、対岸のように斜面が崩壊したらひとたまりもありません。実は私がここを通過した2週間後、活発化した梅雨前線による豪雨のため、この工事区間で土砂崩れが発生し、全面的に通行止となってしまいました。復旧までにかなりの日数を要し、ここから更に奥にある集落は生活路が途絶されて孤立状態に陥りました。
参照:中央社フォーカス台湾(2015年6月4日)「台湾・台東の集落、土砂崩れでほぼ孤立 不便な生活すでに8日目」


 
悪路の工事区間を抜けて、ブヌン族が暮らす標高1250mの利稲集落の脇を通過。上述の「孤立状態に陥」った集落とはこの利稲です。テーブル状で真っ平な集落を見下ろすように、台20線は山腹を登ってゆきます。なおこの利稲には民宿が多いんだとか。


 
さらにグングン坂道を登って標高1546mの摩天地区を通過。その地名のように、天に手が届きそうなほどの高地です。台湾の脊梁をなす山稜の姿はとても美しく、岩肌がむき出しになっている山襞は雪渓を思わせ、アルプスを眺めているかのような清々しい絶景です。



 
摩天地区は人家はあまりありませんが、そのかわり茶畑が広がっており、綺麗に刈り込まれた茶の木と周囲の高山が織りなす清々しい景色に心を奪われ、おもわずその場で車を止めて深呼吸。


 
左(上)画像は、道が大きくカーブする見晴らしの良いところで、ここまで来たルートを振り返る感じで眺望したものです。深い谷底を流れる川に沿って台20線が走り、その彼方に関山や池上の水田地帯が広がり、そして太平洋の大海原へとつながっているわけですね。
この摩天地区で台20号から右へ逸れる小径を発見。この小径は谷の下へとつづいているようです。事前の調査では、たしかこのあたりに栗松温泉へアプローチするルートがあるはずなのですが…


 
小径の入口には「栗松温泉 3」の標識が立っていました。数字はキロ程を意味しているのでしょう。ここから谷底へ向かって標高差500mを一気に下るのです。


 
1台分の幅員しかない小径はほとんど舗装されておらず、しかも急勾配が連続する悪路です。にもかかわらず、私が運転しているレンタカーはYaris(日本名Vitz)のFF車。凸凹にハマってスタックしたらどうしよう…。パンクしたらどうしよう…。この日は晴れていたから良かったものの、雨降ってぬかるんだら、登れなくなっちゃうかもしれない…。車で帰れるか不安を抱きつつ、エンジンブレーキをかけながら「どうにでもなれ」という半ば自棄な心境で下へ下へと向かっていきます。


 
小径のどん詰まりに駐車スペースがあり、既に1台の車と2台のバイクが止まっていました。どうやら先客がいるようです。険しい道のりの先にある野湯とは言え、"最美麗的野渓温泉"という名声が人々を魅惑するのでしょう。
Yaris君はここでお留守番。私は登山に準じた装備を整え、徒歩で谷底へと向かいます。

その2へ続く
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