温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

福建・広東の旅 その4 高速鉄道の一等車と在来線の硬座を乗り継ぐ

2015年10月12日 | 中国
※今回も温泉は登場しません。長きにわたって温泉とは無縁の記事が続いて申し訳ございません。次々回あたりで温泉を登場させる予定です。今しばらくご辛抱を。
前回記事の続きです。

先月から拙ブログでは台湾の温泉やドライブ、そして金門島での観光について、紀行文をつらつらと書き綴っており、先日からは中国大陸へ渡って福建省の廈門周辺に関して触れてまいりました。
当初の計画では、厦門から高速鉄道で深圳へ直行し、そこから数分おきに頻発している電車で香港へ出て、素直に帰国するつもりでしたが、ちょっと調べてみたところ、どうやら広東省の田舎には温泉が点在しているらしいことがわかりました。温泉が湧いているのならば、是非ともハシゴして訪れてみたいところですが、各温泉は一つ一つがものすごく離れていますし、そもそも日程が限られていますので、今回は2箇所に絞って訪れてみることにしました。


その2ヶ所とは、福建省と広東省の省界に位置する広東省梅州市の五華熱鉱泥温泉、そして広州市郊外の従化区にある従化温泉です。
まずはじめは五華熱鉱泥温泉へ向かうことにしました。とはいえ、中国国内に10万人以上いらっしゃる邦人の方ですら存在をご存じない方が殆どかと思われる辺鄙な田舎の温泉ですから、日本語の情報なんて無いに等しく、中国語の情報は殆どが大雑把で、言語自体の解読も困難です。ひとまず場所を特定した上で地図とニラメッコしていると、どうやら廈門から現地へ向かう方法には次の2通りがあることに気づきました。
1つ目のルートは、廈門から高速鉄道で福建土楼の観光拠点のひとつである龍岩へ出て、そこから在来線の鉄道か長距離バスに乗り換えて梅州へ進み、さらにローカルバスで温泉がある五華県へ向かう方法。2つ目のルートは、廈門から深圳行の高速鉄道に乗り、潮州付近で在来線の鉄道に乗り換えて梅州方面へ進んで、さらにローカルバス等で五華県まで向かう方法です。
たとえ地図上で乗り継げそうだとわかっても、実際にそのルートでたどり着けるかどうかは別問題であり、とりわけ交通に関しては一筋縄でいかないのが中国という国ですから、多少遠回りでもできるかぎり無難なルートを辿った方が安全です。いろいろ調べたところ、どうやら乗り継ぎなどで確実なのは後者、つまり潮州経由であることがわかったので、具体的に時刻を調べて実際の行動へ移すことにしました。



具体的にはこのような行程です。
まず廈門市街中心部(廈門の島)からBRT(高架バス)に乗って、高速鉄道が発着する廈門北駅まで移動。廈門北駅から深圳北行の高速鉄道で広東省に入り、潮汕という駅で下車。残念ながら、この高速鉄道と梅州方面へ向かう在来線は接続していないため(交差している箇所に駅がない)、潮汕駅からバスかタクシーで在来線の潮州駅まで移動。潮州から在来線の列車で、五華県最寄りの興寧駅まで乗車し、駅から温泉まではバス等何らかの手段で温泉まで向かおうという計画です。
さて乗り継ぎの多いこのルートで、果たして無事に温泉までたどり着くことができるのでしょうか。いざ実践です。


 
 
2泊過ごした夏商怡翔酒店・華都店を朝7:30にチェックアウトし、最寄りのBRT(高架バス)二市駅から「快1」系統の廈門北駅行に乗って、終点の厦門北駅へ向かいます。


 
最近は中国の景気減退が報じられていますが、それでも厦門周辺ではあちこちで高層ビルを建築中。まだ当分の間は街中から槌音が消えることはなさそうです。海峡を渡る大きな橋で厦門の島から大陸へ渡ります。



なおBRTのバス車内には、上画像のように現在位置(停留所の位置)を示す案内表示があるので、これに気をつけていれば乗り過ごすことはないでしょう。


 
二市からBRTに乗り続けること約50分で、終点の厦門北駅に到着です。厦門には長距離列車の拠点となるようなターミナル駅がいくつかありますが、私が乗りたい広東省方面へ向かう高速鉄道は、この厦門北駅発着であるため、わざわざBRTで50分も費やして、ここまで来る必要があったのでした。



今回の乗車で利用した高速鉄道のチケットです。以前に中国国内を鉄道で旅行した際、希望する列車のチケットを買い求めようと窓口に赴いても、何度も繰り返し「没有」(無いよ)という冷酷な返答を受け続けて精神的に折れた経験があるので、「餅は餅屋」という諺に従い、今回はネットから「アラチャイナ(桂林旅行社)」という旅行会社に鉄道チケットの手配を頼んでおきました。この会社で予約をお願いしますと(私はオンライン上でカード決済しました)、チケット発券に必要な予約番号が旅行会社からのメールに記載されていますので、その予約番号を書き写したメモとパスポートを持参して、駅の発券窓口に提出するだけで実にスムーズにチケットを入手することができました。なお発券駅と乗車駅が異なる場合は窓口で手数料を取られます。
私が乗車した列車は、厦門北9:08発の深圳北行D2327列車。1等車と2等車を選択できますが、今回は奮発して1等車を利用しました。といっても73.5元(日本円で約1400円)ですから、日本でグリーン車に乗るよりはるかに廉価です。座席等は券面の右肩に印字されており、私の場合は1号車16D席です。なお中国では鉄道チケットの購入に際しID(外国人はパスポート)の提示が求められ、券面には乗車する客の氏名と、IDの番号が印字されます(上画像でモザイク処理している部分)。


 
中国はいつでもどこでも大混雑。駅構内へ入場するためには空港のような手荷物検査を受ける必要があり、ゲートの前には大行列ができていました。このような混雑は経験則から事前に予測できていましたし、発券窓口でも並ぶ必要がありましたから、駅には列車出発時間の1時間前に着いております。上画像は手荷物検査で混雑するゲートの様子を、上層階のテラスから俯瞰して撮ったものです。手荷物検査のゲートを抜けた先には軽食コーナーがあり、朝食のお客さんで賑わっていました。


 
厦門北駅の待合ホールは、あたかも国際空港を彷彿とさせるようなバカでかい空間。売店や飲食店もあるので、それなりに時間を潰せます。


 
中国では列車ごとに改札が行われ、各ホームへ下りる手前に改札ゲートが設けられています。出発時間の約20分前に改札が開始されました。ホームは複数ありますが、構内に案内表示がありますので、それで確認すれば自分の向かうべきホームは一目瞭然。待合ホールが広大ならば、線路が幾重にも輻輳するホームも広大です。



隣のホームには、日本の新幹線E2系をモデルにしたCRH2型が停車していました。フォルムは東北新幹線そのものですよね。



9:02にD2327列車が入線してきました。車両はスウェーデンの高速鉄道をモデルにしてボンバルディアが技術提携をしたCRH1型です。ホームではたくさんの客が乗車を待っていますが、拙ブログの読者みなさまのご想像通り、客が乗車口の列に並ぶようなことはなく、ドアが開くと同時に降車客と乗車客の押し合いへし合いが繰り広げられます。そんなくだらないことに体力を浪費したくないので、私は乗降の波がひと段落するのを待ってから乗車しました。
この列車は厦門北始発ではなく、はるか北東に離れた福州南が起点であり、1等車の車内は既に7~8割近い座席が埋まっていました。


 
一等車の車内はこんな感じ。日本のグリーン車と同じくシートは2+2列ですが、座席の向きは固定されており、中央に向かって両側から向かい合う「集団見合い式」の配列です。1等車にはコンセントも備え付けられていますが、日本のように足元ではなく、網棚の下に設置されていました。


 
列車は定刻に厦門北駅を発車。お行儀の良い日本のグリーン車と異なり、こちらの1等車の客は、ふんぞり返ったり騒いだり食べ物を散らかしたりと、1等車という言葉が有する風格がちっとも感じられません。
列車の車窓にはひたすら田園風景と山ばかりが続き、しかも雨が降っていたため視界も悪くて、ものすごく退屈。晴れていたら印象も違っていたのでしょうね。中国の高速鉄道は路線によって最高速度の設定が異なっており、私が乗ったこの列車の場合、車端部に設けられたLED案内表示は200km/hを超えることはありませんでした。でもその抑えられた速度設定のおかげか、列車の走行自体はかなり安定しており、不安を覚えるような揺れや異音などは一切無く、空調も適温がキープされていたため、2011年の温州におけるあの事故を思い出して恐怖を覚えることも無く、安心して途中で寝てしまいました。


 

事故に遭って地中に埋められるようなことも無く、定刻の10:36に無事潮汕駅へ到着しました。わずか1本乗っただけで偉そうなことを申し上げる資格はありませんけど、海外の技術を寄せ集めた代物とはいえ、安定した走行といい、定時性といい、中国の高速鉄道は決して侮ることができません。先日の報道によればインドネシアは中国の高速鉄道導入を決定したそうですが、海外で中国式の導入が検討されるのも頷けます。他の国と比べて中国が驚異的なのは、日米欧が苦心して開発した技術をサクッとパクれちゃう上、それをあっという間に自分のものにしてしまう能力の高さを有していること。他の国だったら、パクることすらままならず、いわんやそれを運営することなんて到底無理な話です。高速鉄道の売り込み合戦を見ていると、日本はかつての世界市場における家電業界と同じ轍を踏みそうな気がして、一人の蒼氓且つ鉄ちゃんとして不安でなりません。

話を戻します。ドアが開くと、引き続き乗客する客たちがホームに下りて、出入口付近でみんな一斉にタバコを吸い始めました。車内は禁煙なので、こうしたわずかな停車時間が、愛煙家にとっては貴重なスモーキングタイムなんですね。


 
潮汕駅を出ると外はザーザー降りの雨。こんな天気の中、大きな荷物を抱えて潮州へ向かう路線バスに乗るのが面倒になってしまったので、駅前に待機していたタクシーに乗り込んじゃいました。駅を出ると客引きの洪水にもまれますので、次々に声をかけてくる運チャン達と値段交渉をしながら、納得できる額を提示し、且つそれなりの身なりをしているドライバーの車に乗り込みました。一応タクシーにメーターはついていますが、こうした田舎でメーターは有って無いようなものですし、メーターを使って下手に遠回りされるのも嫌なので、私の場合は割り切って事前交渉しました(金額は失念)。


 
高速鉄道の専用駅である潮汕駅からタクシーに乗ること25分で、在来線の潮州駅に到着です。ここから乗車する列車のチケットも、上述の旅行会社に依頼して手配しておきました。今度乗るのは潮州12:54発のT8362列車。中国の在来線の昼行列車には、グリーン車に相当する軟座と、普通車に相当する硬座があり、庶民が利用する硬座は混雑してマナーも秩序も良く無いので、外国人は無難な軟座を利用したほうが良い、なんて説明するガイドブックやウェブサイトも見られますが、この列車は硬座の車両しか連結していないので、否応無く硬座に乗ることとなります。ま、今回は2時間しか乗りませんから、何かハプニングが起きたとしても、ちょっと我慢すれば良いだけの話。硬座でも問題無いでしょう。
上画像はその硬座のチケットです。ゴシック体だった高速鉄道の駅名表記と異なり、なぜかこちらは毛筆っぽいフォントです。13号車の002番が私の指定された座席番号。在来線でもIDが必要ですから、券面には氏名とID(パスポート)番号が表記されます。


 
タクシーを使ったため、想定よりも早く駅に着いてしまいました。出発時刻までまだ1時間以上も余裕がありますし、ちょうどお昼の時間帯でしたから、駅前の食堂に入って私の大好物である焼きビーフンを注文しました。これとPETボトルの水を一緒にお会計したところ、細かな金額は忘れてしまいましたが、10元札(200円弱)を出してお釣りが帰ってきましたから、庶民の味覚は懐にとっても優しいものですね。


 
出発時刻の30分前に駅構内に入り、手荷物検査と改札を受けて、待合室へと進みます。ホールの壁には時刻表が掲示してあり、これによれば潮州駅を発着する旅客列車は上下あわせて1日7本(3.5往復)しかないようです。本数だけで考えれば、JR北海道・札沼線の末端部分やJR西日本・三江線などといった、日本屈指の超赤字ローカル路線とほぼ同程度の少なさです。そんなに需要の少ない路線なのかな? それにしては立派な駅舎ですし、待合室へ徐々に集まる乗客の数も、過疎地のローカル線とは程遠いほどの多さです。


 
発車時刻の約10分前にホームへの入場が許され、間も無く警笛を長く鳴らしながら、ディーゼル機関車が牽引する長大な列車がホームに入線してきました。


 
このT8362列車は、汕頭発広州東行の特快(特急)。廈門~深セン間の高速鉄道のように海沿いを走るのではなく、山の方を遠回りしてから広州へと向かう列車なのですが、いわゆる特急ですから停車駅は限られており、潮州から終点まで途中7駅しか停まりません。でも広大な広東省の山の中をクネクネと走って行くためか、特急とはいえ時間がかかり、終点の広州東駅に到着するのは19:45とのこと。つまり7時間も要するのです。ちなみに高速鉄道に乗れば、潮汕から深センまで半分以下の2時間半で行けちゃうんですから、高速鉄道の開通はこのエリアにとって非常にインパクトの大きな出来事だったのだろうと思われます。

ホームにはものすごい数の客がおり、制服を着た係員が笛をピーピー吹きながら、客に対して威圧的に指図しています。長大な編成なので、自分が指定されている号車を見つけるのに一苦労です。こんなに客がいるなら、もっと本数を増やせば良いのに、と思ってしまうのですが、本数が少ない代わりに、1列車あたりの連結車両数を増やして膨大な需要に対応しているわけですね。昔の日本の国鉄でも、民営化される直前になってようやく、各地方の都市圏において、連結両数を減らす代わりに本数を増やしてフリークエンシーを高めましたが、それより以前はこの中国の路線と同じく、本数が少ない代わりに1列車当たりの両数を増やした長大編成で需要を捌いていましたし、国鉄職員のサービスの悪さにはみんな腹を立てていましたから、見方によっては、現在の中国鉄路は昭和の日本の国鉄と大して変わらないのかもしれません。


 
上画像は硬座の車内の様子です。従来の硬座と同じく3+2列ですが、空調はちゃんと機能していますし、座席には薄いながらもクッション性の材質が採用されていたり、間接照明を採用していたりと、従来の「硬座=貧相な貧乏列車」という固定概念を覆す、意外にも綺麗な車内に良い意味でびっくり。向かい合わせの各ボックス席に設けられたテーブルには、ステンレスのお盆が一つずつ置かれており、車内で発生したゴミ(食べカスなど)はここへ入れることになっています。走行中にはワゴンの車内販売も回ってきます。中国では常識ですが、車内には湯沸し器があり、ポットのお茶を補給したり、あるいはカップラーメンをつくったりと、湯沸し器はこの時も多くの乗客の役に立っていました。
乗客ひとりひとりを見ても、いかにも地方からの出稼ぎ労働者という風情の人は少なく、みな色とりどりの服装をし、スマホやタブレットをいじったり、イヤホンで音楽聞いたり、ポータブルゲーム機を楽しんだりと、先進各国の列車内と大して変わらないような光景が印象的でした。私が初めて中国に訪れた20年以上前は、都市部ですらもみんな貧相な格好をしていましたが、現在ではこうした田舎ですらもおしゃれを楽しんでデジタル機器が欠かせない生活を送るようになったのですから、中国庶民の生活は確実にボトムアップされているんだと実感します。尤も、広東や福建といった華南の沿岸部は、経済成長の恩恵をたっぷり受けている地域ですから、その点は十分に考慮しないといけないかとは思いますが。


 
車窓には長閑な景色が続く…と言いたいところですが、この日は一日中雨が降り続き、断続的に雨脚が強くなって、景色が見えなくなるほど雨粒が窓に激しく打ち付けられるような有り様です。しかも、同じボックスの向かいに座っていた若夫婦が突然喧嘩をしはじめ、他の客もヤンヤヤンヤと加勢するものですから、私の周りは何だか険悪な雰囲気に包まれてゆきます。とても観光を楽しむような天気でも状況でもないのですが、行くと決めたからにはゴールを目指さないと気が済みません。


 
14:50頃に興寧駅へ到着です。2時間の乗車でしたから、あの硬座でも全く疲れることなく乗り通せました。この地域の拠点なのか、列車から乗客がゴッソリと下車してゆきました。
さて、ここから何らかの移動手段を選択して、温泉のある山奥へ向かわねばならないのですが、どうしたら良いものか・・・

次回に続く

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