前回記事の「エスキ・カプルジャ」(旧温泉)に対し、今回取り上げる「イェニ・カプルジャ」(Yeni Kaplıca)は、その名を日本語に直訳すると「新温泉」。チェキルゲ地区にある温泉浴場の中では、最もブルサ市街地へ近い場所に位置しているそうです。名前に新しいという語句を冠しているとはいえ、こちらも長い歴史を有しており、開設は16世紀に遡るんだとか。「エスキ・カプルジャ」が高級ホテルに付帯したハイソな浴場であるのに対し、こちらは庶民に愛される銭湯のような存在であり、全体的な雰囲気では寧ろこちらの方が「旧」なのではないかと勘違いしてしまうほどで、ドーム天井を戴く建物は貫禄たっぷりです。なお大きな建物であるにもかかわらず、この浴場は男性専用となっており、女性は隣接している「カイナルジャ」という別の浴場を利用することになります。
浴場の周りには水着を売る露天商が数軒見られました。
利用客のおじさん達が集って賑やかな番台で料金を先払いし、同時に貴重品を番台へ預けます。番台のおじさんが小さな引き出しを差し出してくれますから、そこへ貴重品を入れると、おじさんは引き出しを棚に収めて施錠し、キーをこちらへ渡してくれます。
番台は左(上)画像に写っている中央ホールに面しており、入浴のみの利用でしたら、このホールの周囲に並んでいる更衣用個室(カビネという。大体3~4人で一つの個室を共用)で腰巻きを巻いたり水着に着替えればよいのですが、今回ここでは垢すりとマッサージを体験したい上、湯上がりにはヤタクルと呼ばれる部屋のベッドで寝っ転がりたかったので、そのサービスを示す単語を3つを番台のおじさんに告げ、それに見合った料金を支払いますと、「KM」と浮き彫りされた涙型の金属札を私に手渡してくれました。Kはケセ(kese, 垢すりのこと)、Mはマサジ(Masaj, マッサージのこと)の頭文字でしょう。これは後ほど浴場内で施術してくれるスタッフに手渡します。
私のようにヤタクルを使用する場合は、ホールの更衣個室ではなく、ベッドがある奥の方の別室へ案内されますので、そこで着替えを済ませ、備え付けのスリッパに履き替えます。荷物はベッド脇のロッカーへ収めます。
中央ホールから先へ進むと、まず足を踏み入れるのが、中間ゾーンとでも言うべき空間です。そこには後述するマッサージ台の他、小さなサウナや腰巻き交換台など入浴に付帯するような諸々の設備が配置されています。更には、一方通行のシャワー通路が設置されており、この奥にある浴槽ゾーンへ行くには、そこでシャワーを浴びなくてはいけないようなシステムになっています。
私のように垢すりとマッサージを受ける場合、浴槽ゾーンへ向かう前に、ここにいるスタッフに金属の札を渡しておきます。すると、スタッフから「まずは体を洗って、湯船でしっかり体を温めて」と指示されますから、それに従い、シャワーを浴びて奥へと向かいましょう。
シャワーを浴びた先にあるのが、上画像の浴槽ゾーンです。高くて大きなドーム天井の浴場は、中央に真円の浴槽を据え、壁際に大理石の鉢が置かれた洗い場がたくさん並んでいます。もちろん水栓を開けて吐出されるお湯は温泉です。前回記事の「エスキ・カプルジャ」と異なり、こちらは多くの地元入浴客で賑わっており、庶民の社交場としての色が強いように感じられました。
トルコには世話を焼くのが好きな方が多いのか、今回の湯めぐり旅では、各地の浴場で私を手取り足取り案内してくれる親切な方に出逢ったのですが、この「イェニ・カプルジャ」でも、私が日本人だとわかると、入浴方法や浴場内の各設備など一つ一つを、まるで我が子に接しているかのように、付きっきりで細かく丁寧に教えてくれるお爺さんがいらっしゃり、おかげさまでマナー違反など他のお客さんに迷惑をかけずに利用することができました。このお爺さんが殊更私に喚起していたのは、入浴前の洗体と洗髪です。日本でも同様ですが、トルコでも湯船に浸かる前はしっかりと体を綺麗にすることが重要なマナーであり、おじいさんは私が携帯用の小さなボディーソープしか持参していないことを知ると、ご自分の大きな石鹸やシャンプーを貸して、しっかり洗いなさいとジェスチャーを交えながら教えてくれました。
浴槽は「エスキ・カプルジャ」と同様の、目測で直径ほぼ8メートルの真円形をした大理石造であり、深さが1.5mであることも同じなのですが、明らかな違いは湯加減であり、こちらのお湯は日本人でも十分に満足できる42~3℃の熱さをキープしています。特に獅子の湯口から吐出されるお湯は45℃近くあり、日本人でも熱く感じる人がいるでしょう。海外の人は熱い風呂が苦手だという先入観を抱きがちですが、トルコで地元の方が利用するような温泉施設はえてして湯加減が熱く、こちらはその代表例といえ、大量の温泉がドバドバ出てくる獅子の湯口では、その勢いを利用して打たせ湯を楽しむお客さんがたくさんいらっしゃいました。私も他のお客さんから「やってみろ」と唆されましたから、ここは日本男児の意地を見せてやるとばかりに、平気な顔して熱い打たせ湯に当たってみせたところ、周囲の方々はみな「平気なのか」と言わんばかりに驚きの表情を浮かべていました。
「イェニ・カプルジャ」で私が気に入ったのは上画像の蒸し風呂です。大理石の台が据えられたこの蒸し風呂には温泉がミスト状に噴射されており(画像に写っているステンレスの柵内)、その熱気と湯気によってミストサウナになっているのです。
お湯が噴射されている柵に近づいてみました。配管から温泉が霧状に噴射されており、ものすごい熱気で圧倒されそうになります。配管の周りや、噴射されたお湯が当たる壁には、温泉成分によって赤茶色に染まっており、石灰によって鱗状の析出がこびりついていました。なお壁の掲示には75℃とあるものの、そこまでは熱くないようです。
湯船やサウナで十分に体が温まった頃合いを見計らって、施術師さんが声をかけてくれたので、上述の中間ゾーンにあるマッサージ台へと向かいました。まずは洗い場の段に腰掛けながらの垢すり(トルコ語でケセ)です(左(上)画像)。施術師さんはかなりゴツイ図体だったので、はじめのうちは「力任せに荒々しくやってくるのではないか」と身構えておりましたが、いざ始まってみますと、意外にも程よい力加減で軽快に擦ってくれるのでとても気持ちが良く、痛さを覚えるようなことはありません。お湯やミストサウナ等で皮膚や角質が柔らかくなっていたことも、気持ちよく垢を擦れた一因でしょう。
垢すりが一通り終わりますと、続いてマッサージ(トルコ語でマサジ)へと移ります。ホワッホワなシャボンの泡を全身にたっぷり掛けられ、滑りの良い状態で肉をほぐすように施術してくれます。凝っているところを重点的に攻めるのではなく、全身を満遍なくほぐす感じですから、一箇所につきせいぜい2~3回しか揉んでくれず、若干アッサリしている感は否めませんが、それでも力の塩梅は絶妙でして、あまりの気持ち良さに、ついウトウトと微睡みそうになった程です。下手なマッサージ師に当たると、力任せにガシガシ揉まれた挙句、翌日以降もみ返し(筋肉痛)に苦しんだりしますが、ここではそのような苦痛は全くありませんでした。ただ、石鹸の泡でシャンプーされちゃうので、後で髪がゴワゴワしてしまったのは残念ですが…。
トルコではここを含めて3箇所のハマムでマッサージを受けましたが、技術的にはここが一番上手だったように思います。また、記念撮影にも積極的に協力してくださり、上画像のような想い出の一場面をしっかりと記録に残すことができました。
お風呂から上がった後は、腰巻きを新しいものに交換してもらい、同時にバスタオルで簀巻き状態にしてもらいます。タオル担当のスタッフさんは実に手際よく、あっという間にしっかりと巻いてくれました。タオルのターバンを巻きながら、マントを羽織っているような我が姿を目にすると、自分も中東の人間になったような、ある種のコスプレ的な楽しみが味わえました。これぞ温泉を通じた異文化体験ですね。
マッサージ台の近くには上画像のような飲泉所もあり、プラスチックの使い捨てコップも備え付けられていますので、実際に飲んでみたところ、特に主張の強い味や匂いは無いのですが、口の中で転がしているうちに、コントレックス的な硬い味と弱い石膏味、そして少々の芒硝感が得られました。
温泉分析表を確認できなかったので、泉質については言及できませんが、この飲泉からしばらくすると、私のお腹が下りはじめたので、その体験や味覚などから推測するに、硫酸塩泉かそれに準じた単純泉ではないかと思われます(硫酸塩泉を飲泉すると下剤としての効能があります)。
湯上がりはヤタクルのベッドに寝っ転がって、ひと寝入り。全身タオルでしっかり巻かれている上、ベッドで横になると三助さんが更に布団代わりのタオルを掛けてくれるので、温泉によって体内に篭った熱の逃げ場が無く、いつまでも体が火照り続け、体の水分がすっかり入れ替わったんじゃないかと思うほど、寝転がっている間に大量発汗しました。大量発汗という状況を想定しているからこそ、バスタオルを使うのが合理的なのかもしれませんね。
単にお風呂で汗や垢を落とすだけでなく、新陳代謝を活発にして肉体と精神の健康増進を図るという点に、トルコの温泉ハマムの真髄があるのかもしれません。なお壁には2時間という時間制限が表示されていましたが、私は他の場所も巡りたかったので、泣く泣く1時間で退室しました。
たくさんの入浴客で賑わうお風呂ですから、私が訪問したお昼ごろで、既に大きな湯船のお湯は鈍りが発生しており、本来透明であるはずのお湯は淀んだモスグリーンに微濁していました。お湯はしっかり掛け流されているのですが、需要に供給が追いついていないようです。従いまして、この浴場はなるべく早い時間の利用が良いかと思われます。
今回取り上げました「イェニ・カプルジャ」は男性専用ですが、同じ敷地内には女性専用浴場「カイナルジャ(Kaynarca)」が隣接しており、外観こそ地味ですが、こちらも地元のお客さんに人気なんだとか。私がこの建物の前を通った時も、館内からおばちゃんたちの喋り声が表にまで響いていました。なおカイナルジャのGPS座標はN40.198757, E29.03897です
GPS座標:N40.198908, E29.038372,
ブルサライ(地下鉄兼近郊電車)の"Kültürpark"駅より徒歩5分(500m)
7:00~22:00
入浴のみ17リラ(垢すり17リラ・マッサージ22リラ・ヤタクル22リラ、この3サービスと入浴利用の場合は61リラ)
ドライヤーあり、貴重品は番台預かり、石鹸類は場内販売あり
私の好み:★★★
年明け頃に行ってみようかと思案中で、本ブログを発見しました。
こちらに行く際、持参すべきモノ(タオルとか)など、素人レベルで注意すべきことがありましたらご教示いただければ幸いです。
返信が遅くなり申し訳ございません。年明けにブルサへ行かれるのですね。羨ましいです。
持参すべきものですが、水着は必要かと思います。ブルサのような観光地のお風呂は腰巻を貸してくれますが(この記事でも私はレンタルの腰巻を着けています。スタッフの人が巻いてくれます)、すべての浴場で貸してくれるとは限りませんから、念のために水着を持参した方が良いでしょう。タオル(現地語でハウル)はほとんどのお風呂で貸してくれます(有料)が、念のために1枚くらいは持っていくと安心です。また石鹸類も持っていくと良いかと思います。湯舟には入る前にはしっかりと体を洗いましょう(現地の人は結構そのあたりのマナーに厳しいですので)。
その他詳しくは↓のサイトをご覧ください。非常に詳しく書かれています。
https://turkey.tabino.info/onsen.html
無事たどり着いて堪能したいと思います。