温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ムーラ県 スルタニエ温泉

2015年01月02日 | トルコ
あけましておめでとうございます。
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

さて新年は約一ヶ月にわたって、トルコの温泉を特集してまいります。よろしくお付き合いください。まずはエーゲ海側の小さなリゾート地、ムーラ県ダルヤンの界隈に湧く2つの温泉を、2回に分けて取り上げます。新年一発目は、キョイジェイズ湖の畔に湧くスルタニエ温泉です。





●舟を貸し切ってスルタニエ温泉へ
 
エーゲ海とキョイジェイズ湖を結ぶ短い川沿いの街ダルヤン。夏にはビーチを目当てにやってくる人で賑わうそうですが、私が訪れた秋はすっかりシーズンオフに入っており、リゾートにありがちなうわついた雰囲気はなりを沈め、静かで落ち着いた空気感が漂っていました。
この街から目的地のスルタニエ温泉までは直線距離で5~6kmですから、もし自転車があればサイクリングにもってこいですし、タクシーを使っても大して料金がかからなそう…。しかし、この温泉は川を遡上った湖の対岸に位置しており、しかも川には橋が架かっていませんので、陸上からアクセスしようとすると、キョイジェイズ湖をぐるっと一周して50km近くも遠回りしなくてはなりません。そこで今回は川岸の船着場で暇そうに停泊していた舟を、その場で交渉してチャーターし、水上から向かうことにしました。なお周辺にある遺跡やビーチなどへも舟が便利であるため、ダルヤン観光に舟は欠かせません。

※ダルヤンへの行き方や街については、次々回の記事で取り上げます。


 
舟に乗り込み、川を遡上します。川と言っても全長10キロあるかないかの、とっても短い水路であり、干満に合わせて淡水や海水が行き来する汽水の川であります。紺碧のエーゲ海の色を映したかのような、真っ蒼な空の下、船外機のエンジンが快調に唸りをあげます。


 
やがて岸から人家が消え、両岸に広がる湿地を一面の葦が覆うようになると、後背になだらかな稜線を構える、青々とした湖面が見えてきました。海と湖を行きつ戻りつしている川の水はどんより淀んでおり、流れも至って緩慢。シャッタチャンスを逃してしまったのですが、水面に顔を出すウミガメを何度か見かけました。ダルヤン付近の砂浜は、ウミガメの産卵地としても有名なんだそうです。
舳先で風を受けながら、この景色を独り占めする私。最高に気持ちいい!


 
舟が川を抜けて湖へ出ようとする辺りで、船頭さんは軽く取舵を切って、湖岸の浅瀬に茂る葦の水路へと進んでゆきます。目的地へショートカット路なんですね。


 
湖の南岸に沿ってノンビリ進んでゆくと、出発から40分強でスルタニエ温泉へ到着です。こちらは湖畔に佇む1軒湯。ドーム屋根が印象的。舟の上からは湖畔の泥湯も見えます。


 
船頭さんが舟を舫った船着場のすぐ目の前に、白いテントを張った小高いテラスがあり、受付カウンターが設けられていますので(左(上)画像)、まずはそこで料金の4リラを支払います。この後にいろんな温泉を巡ってから気づいたのですが、この4リラという額は、観光客相手の施設の割にはかなり安い料金設定なんです。なお受付の傍には軽食コーナーもあります(右(下)画像)。



受付ゾーンの前にはトタン屋根の更衣室(上画像)がありますので、ここで水着に着替えましょう。個室は少なく、中もあんまり綺麗じゃありませんから、予め水着に着替えておくのも良いかも。なお画像に写っている老夫婦は、更衣室前に用意されたドクターフィッシュ(有料)を楽しんでいるところ。



(上画像クリックで拡大)
受付の裏手には、こんな立派な分析表が掲示されていました。ところどころスペルに誤りがありますが、ありがたいことに英語表記なので、簡単にデータを拾ってみますと、源泉の温度は39℃で、ナトリウムイオン9399.6914mg(77.1841mval%)、塩化物イオン1660.4188mg(88.7239mval%)、遊離硫化水素5.0mgだそうですから、かなりしょっぱい食塩硫化水素泉と言えそうです。



私が訪れたのは10月下旬で、とっくにサマーレジャーのシーズンは過ぎていましたが、突き抜けるような爽快な青空と、波一つ立たない穏やかな湖面に惹かれたのか、温泉の前の湖で泳ぐ人の姿もほらほら見受けられました。なお夏になれば、温泉で温まった後に湖へダイブする人がたくさん現れるんだとか。この日も決して泳げないような気候ではなかったのですが、湖水がモスグリーンに濁っていたので、私は遠慮させていただきました。


●泥湯
 
スルタニエ温泉の名物は泥湯です。湖畔の四角い露天風呂にはライトグレーの泥がたくさん溜まっており、そこへ温泉が注ぎ込まれています。辺りには温泉由来の硫化水素臭が漂っていました。否が応にも温泉への期待が高まります。



位置としては、受付カウンターがある白いテントのすぐ隣です。なおこの画像を撮っているサイドには、湯泥を落とすためのシャワーがあるのですが、お湯ではなく、単なる冷たい水しか出ません。かと言って泥を塗ったまま行動するわけにもいかず、後述する別のお風呂へ入るには泥を落とさねばなりませんから、泥湯を利用した後は冷水シャワーを浴びる覚悟をしておきましょう。尤も、夏だったら却って気持ち良いんでしょうし、それこそ目の前の湖へ飛び込んじゃえば爽快でしょうね。


 
お湯は丘側の投入口より注がれています。ねずみ色の泥に一条の黒い筋が伸びているのがおわかりいただけますでしょうか。お湯の吐出によってその部分だけ泥が流れているわけです。浴槽には脛までズブリと潜るほど泥がたっぷり溜まっていますが、泥が部分的に固まっていたり、落ち葉などが混じっていたりと、正直なところ、あんまり綺麗じゃなさそうです。また湯船自体やや浅い造りであり、お湯の温度も35℃ちょっとしかないため、秋のひんやりした空気に包まれたこのスルタニエでは、ぬるすぎてしまい、泥のスライミーな浴感が不気味がられてしまうこともあってか、他のお風呂は賑わっていたのに、名物のこの泥湯だけなぜかガラガラでした。


 
でも、せっかくですので、全身に泥を塗りたくってみました。この泥が美容に良いかどうかは不明ですが、浴後は何となく肌がツルツルしたようなきがします。湯船は浅いものの、お湯はしょっぱいので、泥のおかげもあってよく浮かびます。お湯に浮かびながら景色でも眺めようかと考えていたのですが、残念ながら堤防に視界を遮られてしまい、泥湯に浸かると湖面は見えなくなっちゃいました。


●露天風呂

ガラガラな泥湯とは対照的に、常に入浴客の姿が見られたのはこの露天風呂。泥湯と同じくこちらもれっきとした天然温泉が投入されています。大きさは目測で5m×8mほど。サイズとしては子供向きプールみたいなものですが、私のような小柄な人だと溺れてしまいそうな、1.7m近い深さがありますから、入浴するときは手すりに掴まって足元の状況を確認しながらゆっくり入ります。浴槽は大理石で造られていますが、底は砂利敷です。メンテナンスがいまいちなのか、ステップには苔が生え、湯面にも剥がれたコケや不純物が塊になって浮いていました。深くて底の様子がよくわからなかったのですが、おそらく底の砂利にも苔が生えているのでしょうね。このため、本来無色透明であると思しきお湯は、薄いモスグリーンに濁っていました。それでも不気味でぬるい泥湯よりはこちらの方がはるかに心地良く、それゆえ多くのお客さんはこの露天風呂に浸かり続けていました。また塩分の濃いお湯ですから浮力がよく働き、仰向けになって湯面にプカプカ浮いている方もいらっしゃいました。


 
小柄な極東人が一人で入浴していることが珍しかったのか、入浴中のおばさまが私に声をかけ、写真を撮ってくださいました。マダム、ありがとう! 底の深さは均一ではなく、部分的にやや浅くなっている箇所もありますし、上述のように普通の温泉より浮力が効きますから、私は爪先立ちしながら辛うじて湯面上に顔を出すことができました。
お世辞にも綺麗とは言えないお湯ですが、どうやら底の砂利からお湯が上がってくるらしく、あちこちから気泡がブクブクと上がっています。そして入浴中の肌には、しっかりと気泡が付着しました。多少濁っているものの、お湯の鮮度自体は良いのでしょう。日本流に言えば掛け流しであることに相違なく、お湯はパイプの口へ大量に吸い込まれ、湖へドバドバ捨てられていました。
湯加減は体感で38℃前後。ゆで卵の卵黄に塩をたくさんまぶしてスープにしたような、イオウ感と鹹味の強い味があり、湯面からはタマゴ臭が漂っていました。私も他のお客さんを真似して湯面に浮かび、気持ち良い青空を仰ぎながら、食塩泉らしいツルスベ感とイオウ臭をたっぷり楽しみました。


●内湯
 
湖岸を西へ歩き、軽食コーナーを通り過ぎると、2棟の内湯が並んでいます。そのうちこのドーム屋根を戴く浴場は、ここへ来る湖上の舟からもよく目立っており、泥湯とともに是非入ってみたかったお風呂であります。2つの浴場は時間によって男・女・観光客(混浴)が分かれており、タイムテーブルを確認した上で、自分の属性に合うお風呂を利用することになります。
浴場入口の上に掲示されているこのドーム浴場の時間割を以下抜粋しますと・・・
  6:00~ 8:00 女性(トルコ語で"BAYAN")
  8:00~10:00 男性(同じく"BAY")
 10:00~20:00 観光客(同じく"TUR")
 20:00~22:00 男性
外国人観光客の利用が多い温泉ですので、日中は観光客が男女の区別なく混浴利用できるようになっているようです。混浴といっても、もちろん水着着用は必須です。


 
ちなみに、もう一つの内湯棟はこちら。箱型の素っ気のない建物ですね。私の訪問時、こちらは女湯に設定されていたので、内部の様子はわかりませんが、おそらく実用本位で素っ気のない造りなのでしょう。参考までに、こちらの時間割も書き出しておきましょう。
  6:00~ 8:00 男性
  8:00~10:00 女性
 10:00~12:00 男性
 12:00~14:00 女性
 14:00~16:00 男性
 16:00~18:00 女性
 18:00~20:00 男性
 20:00~22:00 女性
2時間おきに男女が入れ替わるパターンです。日中の女湯タイムであっても、男性ならば観光客向けに混浴開放されるドームのお風呂を利用すれば良いのですが、当地はイスラム教の国ですから、たとえ水着を着用していても、現地の女性は肌をひと目に晒すことが躊躇われます。それゆえ女湯の設定が不可欠になるわけですね。


 
話をドーム風呂に戻しましょう。ドーム天井の真下には、直径4メートルほどの真円の浴槽がたっぷりお湯を湛えています。ドームのてっぺんからは青空が覗いており、ハイサイドの小窓とともに明かり採りとなっていて、室内はかなり明るく、湯気の篭もりもありません。プールサイドでは英語を話す外国人観光客のファミリーが寛いでいました。
なお、槽の周りは大理石製ですが、槽内は石材が積み上げられていて、底は屋外の露天風呂と同様に砂利敷きです。深さは1.6mもあり、私は爪先立ちで辛うじて頭を出していられるような状態でした。


 
お湯はモスグリーンに若干濁っているのですが、直射日光が入りにくい環境だからか、屋外の露天風呂のように湯面や槽内に苔が発生するようなことはなく、はるかに綺麗でコンディション良好です。入浴中に底から気泡が次々に上がっていたので(画像参照)、ここも足元湧出か、もしくは底の砂利に配湯管を敷いているのかもしれません。湯加減は38.5℃と長湯したくなるような温度なのですが、濃い食塩泉ゆえに体がバテて耐え切れなくなり、何度も出たり入ったりを繰り返しながらの湯浴みとなりました。



プールサイドにカメラを立てて、自分撮りしてみました。自分の足で立てないほど深いので、この時の私は、日本人の平均身長に満たない自分の体を恨みながら立泳ぎしています。お湯の知覚的特徴、すなわちタマゴ味と鹹味、そしてタマゴ臭という特徴は屋外露天風呂と同様であり、ツルスベ浴感もしっかり伝わってきました。
ここからトルコ各地のいろんな温泉を巡った後になって気づいたのですが、この手の濃い味と匂いを有する温泉って、トルコでは結構貴重な存在だったりします。おそらくエーゲ海の影響を受けているのでしょう。潔癖症の方にはちょっと難しいかもしれませんが、泥湯・露天・内湯と3種の温泉に、たった4リラで入浴できるんですから、なかなか面白い施設なのではないでしょうか。


●参考までに
 
ダルヤンに戻って船着場の案内をよく見てみますと、毎日午後2時からスルタニエ温泉へ巡るツアーが20リラで申し込めると、看板に書かれているではありませんか。ええっ、わざわざその数倍の金額を出して舟をチャーターしたのに、私はバカを見たのかな…。でも宿泊先に戻ってからホテルのオーナーさんに訊いてみたところ、このツアーは一人じゃ催行してくれないみたいですから、私のように一人旅の人間は交通費としてある程度の出費を覚悟しなきゃいけないようです。


含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉(硫化水素型) 39℃ pH6.6 
Na+:9399.6914mg(77.1841mval%), Ca++:1344.0000ng(12.6859mval%), Mg++:572.8968mg(8.9013mval%),
Cl-:1660.4188mg(88.7239mval%), Br-:7.0mg, SO4--:2580.0000mg(10.1473mval%), HCO3-:341.6000mg(1.0572mval%),
CO2:87.12mg, H2S:5.0mg

ダルヤンからボートで約40分
GPS座標:N36.874049, E28.602073,



4リラ
ロッカー・ドライヤーなど見当たらず(私は貴重品を持ち歩きました)

私の好み:★★


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