温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

中禅寺温泉 ホテル湖畔亭

2013年02月14日 | 栃木県
※現在は経営母体が変わり、施設名も「シンプレスト日光」となっています。本記事では旧施設時代について取り上げています。


前々回前回の記事で取り上げた日光湯元温泉での湯巡りを終え、路線バスで日光駅へ戻る途中に中宮祠へ立ち寄って参拝し、そのついでにネット上でお湯の評判が良い「八汐荘」でこの日最後の入浴を果たそうかと考えていたのですが、雪が凍ってカチンコチンになっている道路を歩いて現地へたどり着いてみたものの、敷地の前には鎖が張られていて雪掻きされている様子も全くなく、その向こうで閉ざされている玄関の扉には「本日休業」の札がさがっていました。どうやらここしばらくは営業していないようです。きっとこれは冬季休業である、暖かくなれば再び営業してくれるはずだと信じてその場を去り、仕方なく中宮祠の門前へと戻ることにしたのですが、年始だというのに中禅寺湖畔には潰れて廃墟のように無残な姿を晒している空き店舗が多く、足利銀行破綻と震災という二つの大きな打撃がいまだに尾を引いている現状に暗澹たる思いを抱かざるを得ませんでした。そんな哀愁たっぷりの光景の中を歩いていると、湖上を吹く風が私の体に強く当たって心情ばかりか体の芯まで冷えきってゆきます。次のバスが来るのは約一時間後なので、それまでの間に寒さを凌げるところはないかと寂れた温泉街を右往左往しますが、どの食堂もお土産屋さんもシャッターを固く閉ざしてるか元々営業していないかのどちらかで、入れそうなお店はなかなか見つかりません。このまま屋外で時間を潰さなきゃいけないのかと戸惑っていたとき、たまたま目に入ってきたのが今回取り上げる「ホテル湖畔亭」でした。中禅寺湖畔に立地して温泉を提供している旅館やホテルの一群は中禅寺温泉と称されていますが、いずれの施設でも温泉そのものは12km離れた日光湯元から延々と引いてきており、手元のスマホで簡単に調べてみたらこちらでも温泉を引いていることがわかったので、日帰り入浴に関して何らの事前情報も無いまま、もし入浴のみの利用が不可でも暖だけは取らせてもらおうと思って、突撃してみることにしました。
立派な建物の割に、表の看板はやけにちゃちですね。そういえばここって昔っから「ホテル湖畔亭」という名前でしたっけ?


 
天井が高くてちょっとバブリーで、団体さんウェルカムな雰囲気のロビーとラウンジ。この様子じゃ日帰り入浴は難しいかな…。そう不安を抱きつつ、ダメ元で特攻してみますと、フロントの方はすんなりと日帰り入浴を受け入れてくださり、料金を支払うと、それと引き換えに薄いタオルと歯ブラシがパッケージされたビニール袋が手渡されました。このパッケージといえば・・・言わずもがな、信じられない程安い往復バス代と廉価な宿泊料金によって中高年層からの支持を集めている、かの「おおるりグループ」であります。なるほど、そういうことだったのか。てことは、ここは元々別の経営者によって運営されていたのかな。道理で表の看板や名前に違和感をおぼえた筈だ…。



ロビーでひときわ目立っているクマ親子の剥製の右横が浴室への通路入口。


 
クランク状に曲がっている細長い廊下をひたすら歩いた突き当たりが浴室。手前が女湯で奥が男湯です。なお女湯は夜9時や深夜0時など15分間点検のために利用停止となる時間帯があるそうですので、ご宿泊の方はご注意を(なぜか男湯にはこの設定はありません)。


 
「おおるり」とわかった時点で(失礼ながら)私の中での期待値は下がっていたのですが、脱衣室は(これまた失礼ながら)意外にも綺麗な状態が保たれており、棚の数もそれなりに確保されていて、使い勝手はまずまずでした。ただ室内にドライヤーが無いのはちょっと痛いかも。



内湯入口の手前には貴重品用ロッカーも備え付けられています。


 
硫黄の香りが立ち込める浴室は、左側にシャワー付き混合水栓が一列に並び、右側に浴槽が据えられています。そして窓からは中禅寺湖が眺められます。さすが元々はラグジュアリ感を売りにしていたホテルだけあってお風呂のつくりはしっかりしてます。



室内には打たせ湯の跡が残ってましたが、現在は使用停止のようです。


 
浴槽はY字の右側を直線の辺にしたような形状をしており、窓へ近づくに従い徐々に広くなるように造られていました。石板貼りの浴槽は硫黄がこびり付いて至るところが白くなっています。なお窓側の隅っこには細長く口を開けた湯口がありますが、現在は使われていないようです。


 
では現行の湯口はどこにあるのかと言えば、その逆サイドの出入口側に上画像のような耐熱性の塩ビ管が直付けされていて、ここからお湯が供給されているのでした。塩ビ管は2本あって、片方には「水」と手書きされており、吐出口直前でこの2本が接続された上で浴槽へと注がれていました。両方の配管を触って見るといずれからも振動が伝わってきましたので、配管の状況から察するに湯口直前で加水されていることが推測されます。強く白濁していたため浴槽内での吸引や吐湯などはわかりませんでしたが、窓に近い浴槽縁からお湯が常時オーバーフローして洗い場へ溢れ出ていたので、放流式かそれに近い湯使いが行われているものと思われます。

上述のように中禅寺湖畔の旅館やホテルで使用されている源泉ははるか12キロ先の日光湯元から延々と引かれてきたものですが、加水されているものの吐出口におけるお湯の温度はかなり高く、いくら保温材でガッチリ配管を被覆しているとはいえ、とても氷点下の中を長距離引湯されてきたとは思えないほどしっかりと高温状態が維持されていました(加温しているのかも)。施設によって引かれている源泉も異なっているそうでして、館内表示によればこちらのお宿の場合は1・2・3・4・7号の5つを混合したものです。
お湯の特徴としては日光湯元のお湯そのものであり、すなわち綺麗な乳白色濁りに、明瞭な硫黄臭、そして苦味やえぐみを伴う硫黄味が感じられ、長距離にもかかわらず極度の温度低下や質の劣化を招かない現在の引湯技術にはただただ感服するばかりなのですが、ただ完全プリザーブドというわけにはいかず、特に苦味に関しては湯元よりもかなり弱くなっており、唇や口腔粘膜などを刺激する痺れに関しては赤手空拳あるいは吉本新喜劇における池乃めだかのパンチと表現したくなるほどパワーダウンしていました。またお湯の濁り方が湯元より強かったり、入浴した時のシャキっとした鮮度感もいまいちだったりと、長距離引湯ゆえの劣化が招く現象も何点か見受けられました。もっとも一般のお客さんでしたらそこまでお湯に拘泥することはないでしょうから、安い料金で眺めの良い白濁のお湯に入れることだけで充分に満足できるのかもしれません。


 

なお露天風呂もあるのですが、冬の奥日光は篦棒に寒いため、冬季は閉鎖されちゃいます。私の訪問時も、一応露天へ出るドアは開くのですが、足元はガチガチに凍っており、露天の浴槽にも氷が張っていました。内湯同様に中禅寺湖が眺望できますが、前方の左右両側に建物が立ちはだかっているため、その間から湖面を覗くような感じになります。

後で調べてみますと、ここは元々、慶応年間に創業した老舗旅館「蔦舎」が足利銀行の甘い誘惑に乗っかってバブル期に建てた「メモリアルホテル蔦舎」というリゾートホテルだったんだそうです。日光にお詳し方でしたら皆さんご存知かと思います。
バブル期に足利銀行が日光・鬼怒川・那須など栃木県内観光地の宿泊施設やリゾート施設に対して過剰融資を繰り広げたことは有名ですが、その後同銀行が経営破綻して国有化されると、融資先に対する新規融資が停止された上に、整理回収機構が不良債権を取得して債権回収が行われ、銀行からの融資が止まって貸し剥がしに遭った県内企業は忽ち息の根が止まり、産業再生機構から相手にしてもらえた企業(たとえば奥日光の旅館ですとここここなど)以外は悉く倒産してゆきます。「蔦舎」もこの「息の根止められ組」の一員だったらしく、せっかく莫大な投資によって絢爛豪華にオープンした「メモリアルホテル蔦舎」はあえなく営業停止の憂き目に遭い、そんな状況に陥った物件に目敏い「おおるり」が買収して現在に至っているようです(湖畔亭として生まれ変わってもう4年近くになりますから、こうした経緯をご存知の方も多いかと思います)。

同グループのお宿のお食事は某大手コントラクトフードサービス企業に委託されており、これが当グループの宿についてまわる「安かろう●●かろう」という評判の一要因になっているのかと思われますが、「湖畔亭」に関しては以前からのスタッフが厨房に残って厳しいコスト条件下で何とか頑張って腕を奮っているんだそうでして、そうした事情はお客さんもよく知っているらしく、湖畔亭はグループの中でも予約が取りにくい宿として有名なんだとか。この日も大入り満員だったようで、入浴後に湖畔の食堂を外から覗いてみますと、洋風の瀟洒な食堂に浴衣姿の中高年が大挙するシュールな光景が見られました。


奥日光開発(株)1・2・3・4・7号森林管理署源泉混合泉
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 78.5℃ pH6.5 680L/min(掘削自噴) 溶存物質1.393g/kg 成分総計1.632g/kg
Na+:146.1mg(36.55mval%), Ca++:197.7mg(56.75mval%),
Cl-:91.4mg(14.23mval%), HS-:10.7mg(1.78mval%), S2O3--:1.1mg(0.11mval%), SO4--:502.8mg(57.77mval%), HCO3-:285.1mg(25.79mval%),
H2SiO3:103.8mg, CO2:190.4mg, H2S:48.2mg, 
加水あり、加温循環消毒については不明

日光駅(東武・JR)から東武バス日光の湯元温泉行で「郵便局前」下車、徒歩2~3分程度
栃木県日光市中宮祠2484
0288-51-0601

日帰り入浴時間不明
500円
貴重品ロッカー・シャンプー類あり、ドライヤー見当たらず

私の好み:★★

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