奥土湯温泉郷の中では最も秘湯感がある幕川温泉。なるほど、車一台しか通れない崖っぷちの一本道を進んだ突き当りに2軒の宿しかない温泉ですから、Wikipediaには「土湯峠の県道から険しい崖沿いの道を数キロ走らなければたどり着けない」なんて脅かす文言が書かれていますが、実際には道はほとんど舗装されていますし、離合できるポイントも何ヶ所かありますから、そんなにビビならくてもたどり着けるかと思います。
さて幕川温泉は上述のように2軒(水戸屋と吉倉屋)しかないのですが、今回は吉倉屋さんで日帰り入浴をお願いすることにしました。白色基調であっさりとしたシンプルな外観の建物です。
帳場で料金を支払い、宿の方からお風呂についての案内を受けます。曰く、こちらでは内湯と露天がそれぞれ別のところにあるので、両方に入ることはできますが、一旦着替えてからの移動になるとのこと。帳場から左の廊下を進むと内湯、右側の廊下を歩くと露天です。まずは内湯へ。
シンプルながら広くて清潔感のある脱衣室。木板に墨書きされた昭和27年の分析表が掲示されています。年の割にはやけに新しいので、おそらく複製でしょうか(本物だったらゴメンなさい)。
古いけれどもよく手入れされていて心地よく使える浴室には、洗い場にはシャワー付き混合栓が3基用意され、浴槽の縁は太い木材が用いられています。縁の一か所が削られて切り欠けになっており、そこからお湯がふんだんにオーバーフローしています。オーバーフロー部分のタイルは茶色っぽく染まっていました。
岩の湯口からたっぷりと幕川1号泉のお湯が投入されており、その上には「飲んでくれ」と言わんばかりに柄杓が置かれていました。もちろん飲んじゃいますよ。無色透明のお湯からは軟式テニスボールのようなゴム匂いと味、そして石膏の匂いと味が感じられます。また、石膏の影響かギシギシとした浴感で、(例え方はあまり良くありませんが)消しゴムのカスみたいな色・形をした湯の華がたくさん浮遊しています。泉質名では単純泉となっていますが、陽イオンはカルシウムが33.8mg/kg(52.12mval%)、陰イオンは硫酸イオンが85.4mg/kg(56.69mval%)がそれぞれメインとなっている石膏泉型でして、しかも硫黄らしさもはっきり現れており、簡単には他の単純泉とひと括りにできない、なかなかしっかりとした知覚を有した良泉です。
なお、源泉が川のそばにあるため、大雨で増水すると源泉が水没して、内湯が使えなくなる時があるんだそうですので、一応ご参考までに。
さて次に露天へ行きましょう。内湯から一旦ロビー前を通って建物の反対側へ向かいます。露天は内湯と別の源泉を使っているので、源泉重視で湯巡りをなさっている方は、内湯と露天の両方に入らないと損ですよ。露天側の棟は増築(あるいは改装)された部分なのでしょうか、内湯側より内装が新しく、その上にお手入れがきちんとされているので、非常に清潔で明るく好印象です。
脱衣所の扉をあけると、いきなり屋外に出ちゃいます。内湯や洗い場のようなワンクッション的な設備はありません。階段を下りてお風呂へ。一応体を洗えるカランはありますが、1基しかなく、しかも水の蛇口にはホースがつながっているので、実質的には桶で浴槽のお湯を汲んで掛ける湯する程度しかできません。従いまして、吉倉屋さんでお風呂に入る場合には、まず体を洗うべく内湯へ行き、その後で露天を利用する、という順序を踏んだ方が入浴マナーとして相応しいようです。男湯と女湯とは石積みの壁で仕切られ、見上げるとログハウス調の屋根がかかっていました。旅館のお風呂は和風様式、というステレオタイプによって造られるお風呂には食傷気味でありますが、こうした和洋折衷的なログハウス形式は、個人的にはとっても大好きです。
さすが標高1300mに位置しているだけあって、風呂の上を吹き抜ける澄んだ風の心地良さを全身に受けると、下界には戻りたくなくなります。目の前に聳え立つ白樺の木も高原らしい涼しげな雰囲気を醸し出していました。浴槽はいわゆる典型的な岩風呂で、内湯同様にこちらもしっかり掛け流しで、その量はかなり豊富です。大きなお風呂で目の前には人工物が一切なく、自然あふれる環境の中で開放的な湯浴みが楽しめました。
露天で使われている源泉は幕川5号泉で、こちらは単純硫黄泉。無色透明で、内湯(1号泉)のような軟式テニスボール的な硫黄感や石膏感を有しており、双方の知覚とも1号泉よりもやや明瞭で、それに加えて弱いながらも鼻孔を刺激する硫化水素臭が漂い、湯口付近では僅かに口腔が収斂する酸味も感じられました。1号泉同様にギシギシ浴感ですが、知覚が1号泉より強めであったのと同じく、浴感も露天の方がギシギシ感が強かったような気がします。いずれにせよ、同じ幕川温泉でもかなり違う泉質であることには間違いありません。
そして特筆すべきは湯の花の多さ! 日によってはお湯が白濁するそうですが、私の訪問時は湯の花がゴッソリと沈殿しており、お湯は上澄みになっていましたが、それでも湯の花の量は半端じゃなく凄い! お湯に入ると全身に白い湯の花がまとわりつき、体中が真っ白になります。まるで溶きタマゴスープの中に入っちゃったような錯覚に陥りました。
湯の花の量から考えると、比較的少ない1号泉を洗い場のあるい内湯で使用し、湯の花が多い5号泉を露天にまわす、という使い分けは実に合理的だと思います。湯の花だらけのお湯で体を洗うと面倒なことになりそうですもんね。
知覚も明瞭だし湯の花も大量なのに、分析表では溶存物質109.3mg/kg・成分総計196.5mg/kgという嘘みたいな低い数値が記載されています。この数を信じれば相当薄い温泉のはずですが、実際にはかなり個性的なんですよね。温泉には数値だけでは測れない不思議なパワーや現象があるんでしょう。ちなみに分析表では「ガス発泡がある」とも書かれていましたが、その発泡とやらも確認できませんでした(私が鈍感なだけなのかもしれませんが)。もうなんだか分析表なんて糞喰らえと思ってしまうほど、強い印象を残してくれた特徴的な素晴らしいお湯です。おすすめ!
内湯:幕川1号泉
単純温泉 72.5℃ pH7.5 8.7L/min(自然湧出) 溶存物質428.2mg/kg 成分総計444.4mg/kg
露天:幕川5号泉
単純硫黄温泉(硫化水素型) 44.9℃ pH5.9 46L/min(掘削自噴) 溶存物質109.3mg/kg 成分総計196.5mg/kg
福島県福島市土湯温泉町鷲倉山1-10 地図
0242-64-3617
ホームページ
日帰り入浴10:00~15:30
冬季休業(11月中旬~5月連休前)
500円
ロッカー・ドライヤーは内湯と露天の両方にあり、シャンプー類は内湯のみ
私の好み:★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます