その2の続編です。
今回「旅館かくおや」で宿泊する決め手になったのが、離れにある3つの個室風呂「わいたの湯」です。離れといっても、常識的な「離れ」がイメージするような距離ではなく、歩いて数分もかかるほど隔たっている森の中にあり、しかも表には看板も何も出ておらず、利用の際には帳場で鍵を借りなくてはなりませんので、泊まった者だけが入れる秘密のお風呂なのであります。
帳場で入浴希望の旨を告げると、お風呂の鍵と秘密の地図を手渡してくれますので、それらを片手に露天風呂へと向かいます。坂を上がって温泉街を抜け、山裾に広がる原っぱの間を進んでゆくと、その近くでは温泉の中継施設が湯気を上げていました。
道の突き当りはちょっとした広場(駐車場)になっているのですが、その奥の茂みの中へ入ってゆくと、木々に守られるように3つの小さな湯屋が軒を並べていました。3つとも「◯ん湯」というネーミングなのですが、どうやら九州の方言では格助詞の「の」が「ん」に変化するようです。今回は3室の鍵を全て貸してくださったので、奥から順に全ての露天風呂を見てまいりましょう。
●「風色ん湯」
3つあるうち一番奥にある「風色ん湯」。ひと昔前に流行った銀色夏生の詩の世界を連想させる、いかにも当世風な名前ですね。では、引き戸を解錠して中へ入りましょう。
脱衣室内は装飾の少ない民芸調といった感じのシックな造りで、貸切だというのにかなり広々しており、洗面台やドライヤーなどの備品類も用意されています。その上、お宿から離れているというのに、メンテナンスもしっかり行き届いており、とっても綺麗で使い勝手良好です。
「風色ん湯」の浴室は露天風呂となっており、敢えて矛盾した表現をすると、現代的な古民家調というべき、自然の質感を活かした素朴な寓話的世界観が作り出されていました。左右こそ目隠しの塀が立っていますが、前方には木立ち以外に視界を遮るものがないので、露天風呂らしい開放感が楽しめます。後述する他2つのお風呂より森の風が入りやすい環境なので、風色とネーミングされているのかもしれません。洗い場には混合水栓(シャワーなし)が1基設置されているのですが、桶や腰掛けが2組用意されていますので、ご夫婦やカップルでの利用を想定しているのかと思われます。
切り出し石材で組まれた四角形の浴槽は大凡3人サイズ。お湯は瓶を経由して筧から落とされており、切り欠けから惜しげも無く溢れ出ています。掲示によれば温度調整のため加水されているそうですが、加温循環消毒は行われておらず、放流式の湯使いです(これは他2つの露天風呂でも共通です)。屋根に覆われているため、昼間でもやや薄暗いのですが、それが却って落ち着きある雰囲気造りに役立っており、梢の葉擦れの音を耳にしながら、時間の経過を忘れそうになるほど、のんびりと寛ぐことができました。
●「はるん湯」
3つのお風呂の中央に位置し、唯一の完全内湯である「はるん湯」は、内湯であるのみならず、造り自体もこぢんまりしています。
お風呂の代わりに囲炉裏があっても似合いそうな、落ち着いた雰囲気の薄暗い室内に、石造りの浴槽がひとつ据えられています。洗い場に取り付けられている混合水栓は、お湯が開栓できないようになっているので(水のみ使用可能)、掛け湯をする際には、桶で湯船のお湯を直接汲むことになります。小さくて地味なので、一見すると面白みの少ないお風呂に見えますが、「風色ん湯」や後述する「樽ん湯」も露天風呂ですから、悪天候時や厳冬期はもちろん、虫に悩まされる季節など、この内湯が活躍するタイミングは意外と多いはず。先発ピッチャーのようなヒーロー性は無いかわりに、いざと言う時には頼りになる心強いリリーフ投手のような存在です。
浴槽は2人サイズ。ご夫婦やカップルで肩寄せ合いながら、仲良く入るにちょうど良い感じの大きさです。こちらも筧からお湯が落とされており、切り欠けからしっかりとした量が排湯されていました。
●「樽ん湯」
3つあるうち最も手前側にある「樽ん湯」。浴室名の札が無ければ、映画のセットと勘違いしてしまいそうな、古民家のような趣きですね。
3つのお風呂の中では最も大きな造りかもしれません。脱衣室も貸切前提で設計されているとは思えないほど広く、私一人だけで使わせていただいていることに恐縮してしまいました。他2棟と同様に、洗面台やドライヤーも完備されています。
民芸調の屋根下に真ん丸い浴槽が一つ据えられ、竹垣の向こうに木立の緑が広がっており、秘湯感たっぷりです。洗い場には樽の蓋が立てかけられていました。
浴室名通りに丸い浴槽は樽風呂でして、容量は2~3人、補強のためか外側は石材でガッチリ囲われていまして、底面も石材が敷かれていました。竹の筧から樽へ注がれているお湯は、私が訪れる前から誰も居ないのに途絶えること無くオーバーフローしており、私が湯船に入った途端、ザバーっと勢い良く溢れ出ていきました。お湯が溢れる音以外には何も聞こえず、静寂に包まれながら湯浴みしていると、あたかも仙境にいるかのような気分に浸れました。
本館や別館の内湯に引かれている造成泉とは異なり、3つのお風呂には共通して筋湯温泉源泉が引かれていまして、この源泉は湧出地でお湯の形で自然湧出しているれっきとした天然温泉です。無色透明でほぼ無臭、僅かな塩気があり、湯中では何かが剥がれたような細かい焦げ茶色の浮遊物がチラホラ舞っていて、湯口にて微かなイオウ感が漂っています。スルスルとして滑らかな優しいお湯ですが、薄めとはいえさすが食塩泉だけあり、湯上がりにはしっかりと温まりました。
比較的リーズナブルでありながら、美味しい食事がいただける上、多様なスタイルを持つ6つの貸切風呂が使えるのですから、一泊するだけで思う存分湯めぐりが楽しめちゃいます。泊まる価値が十分にあるお宿でした。
「わいたの湯」
筋湯温泉源泉
ナトリウム-塩化物温泉 76.9℃ pH7.1 湧出量測定せず(自然湧出・自噴) 溶存物質1.421g/kg 成分総計1.424g/kg
Na+:426.0mg(89.78mval%),
Cl-:613.0mg(87.32mval%), Br-1.8mg, S2O3-:0.6mg, SO4--:105.0mg(11.06mval%),
H2SiO3:157.0mg,
加水あり(源泉の温度が高く適温に冷ますため)、加温循環消毒なし
(本館や別館のお風呂については「その2」を参照)
大分県玖珠郡九重町大字湯坪659
0973-79-2014
ホームページ
日帰り入浴不可
私の好み:★★★
今回「旅館かくおや」で宿泊する決め手になったのが、離れにある3つの個室風呂「わいたの湯」です。離れといっても、常識的な「離れ」がイメージするような距離ではなく、歩いて数分もかかるほど隔たっている森の中にあり、しかも表には看板も何も出ておらず、利用の際には帳場で鍵を借りなくてはなりませんので、泊まった者だけが入れる秘密のお風呂なのであります。
帳場で入浴希望の旨を告げると、お風呂の鍵と秘密の地図を手渡してくれますので、それらを片手に露天風呂へと向かいます。坂を上がって温泉街を抜け、山裾に広がる原っぱの間を進んでゆくと、その近くでは温泉の中継施設が湯気を上げていました。
道の突き当りはちょっとした広場(駐車場)になっているのですが、その奥の茂みの中へ入ってゆくと、木々に守られるように3つの小さな湯屋が軒を並べていました。3つとも「◯ん湯」というネーミングなのですが、どうやら九州の方言では格助詞の「の」が「ん」に変化するようです。今回は3室の鍵を全て貸してくださったので、奥から順に全ての露天風呂を見てまいりましょう。
●「風色ん湯」
3つあるうち一番奥にある「風色ん湯」。ひと昔前に流行った銀色夏生の詩の世界を連想させる、いかにも当世風な名前ですね。では、引き戸を解錠して中へ入りましょう。
脱衣室内は装飾の少ない民芸調といった感じのシックな造りで、貸切だというのにかなり広々しており、洗面台やドライヤーなどの備品類も用意されています。その上、お宿から離れているというのに、メンテナンスもしっかり行き届いており、とっても綺麗で使い勝手良好です。
「風色ん湯」の浴室は露天風呂となっており、敢えて矛盾した表現をすると、現代的な古民家調というべき、自然の質感を活かした素朴な寓話的世界観が作り出されていました。左右こそ目隠しの塀が立っていますが、前方には木立ち以外に視界を遮るものがないので、露天風呂らしい開放感が楽しめます。後述する他2つのお風呂より森の風が入りやすい環境なので、風色とネーミングされているのかもしれません。洗い場には混合水栓(シャワーなし)が1基設置されているのですが、桶や腰掛けが2組用意されていますので、ご夫婦やカップルでの利用を想定しているのかと思われます。
切り出し石材で組まれた四角形の浴槽は大凡3人サイズ。お湯は瓶を経由して筧から落とされており、切り欠けから惜しげも無く溢れ出ています。掲示によれば温度調整のため加水されているそうですが、加温循環消毒は行われておらず、放流式の湯使いです(これは他2つの露天風呂でも共通です)。屋根に覆われているため、昼間でもやや薄暗いのですが、それが却って落ち着きある雰囲気造りに役立っており、梢の葉擦れの音を耳にしながら、時間の経過を忘れそうになるほど、のんびりと寛ぐことができました。
●「はるん湯」
3つのお風呂の中央に位置し、唯一の完全内湯である「はるん湯」は、内湯であるのみならず、造り自体もこぢんまりしています。
お風呂の代わりに囲炉裏があっても似合いそうな、落ち着いた雰囲気の薄暗い室内に、石造りの浴槽がひとつ据えられています。洗い場に取り付けられている混合水栓は、お湯が開栓できないようになっているので(水のみ使用可能)、掛け湯をする際には、桶で湯船のお湯を直接汲むことになります。小さくて地味なので、一見すると面白みの少ないお風呂に見えますが、「風色ん湯」や後述する「樽ん湯」も露天風呂ですから、悪天候時や厳冬期はもちろん、虫に悩まされる季節など、この内湯が活躍するタイミングは意外と多いはず。先発ピッチャーのようなヒーロー性は無いかわりに、いざと言う時には頼りになる心強いリリーフ投手のような存在です。
浴槽は2人サイズ。ご夫婦やカップルで肩寄せ合いながら、仲良く入るにちょうど良い感じの大きさです。こちらも筧からお湯が落とされており、切り欠けからしっかりとした量が排湯されていました。
●「樽ん湯」
3つあるうち最も手前側にある「樽ん湯」。浴室名の札が無ければ、映画のセットと勘違いしてしまいそうな、古民家のような趣きですね。
3つのお風呂の中では最も大きな造りかもしれません。脱衣室も貸切前提で設計されているとは思えないほど広く、私一人だけで使わせていただいていることに恐縮してしまいました。他2棟と同様に、洗面台やドライヤーも完備されています。
民芸調の屋根下に真ん丸い浴槽が一つ据えられ、竹垣の向こうに木立の緑が広がっており、秘湯感たっぷりです。洗い場には樽の蓋が立てかけられていました。
浴室名通りに丸い浴槽は樽風呂でして、容量は2~3人、補強のためか外側は石材でガッチリ囲われていまして、底面も石材が敷かれていました。竹の筧から樽へ注がれているお湯は、私が訪れる前から誰も居ないのに途絶えること無くオーバーフローしており、私が湯船に入った途端、ザバーっと勢い良く溢れ出ていきました。お湯が溢れる音以外には何も聞こえず、静寂に包まれながら湯浴みしていると、あたかも仙境にいるかのような気分に浸れました。
本館や別館の内湯に引かれている造成泉とは異なり、3つのお風呂には共通して筋湯温泉源泉が引かれていまして、この源泉は湧出地でお湯の形で自然湧出しているれっきとした天然温泉です。無色透明でほぼ無臭、僅かな塩気があり、湯中では何かが剥がれたような細かい焦げ茶色の浮遊物がチラホラ舞っていて、湯口にて微かなイオウ感が漂っています。スルスルとして滑らかな優しいお湯ですが、薄めとはいえさすが食塩泉だけあり、湯上がりにはしっかりと温まりました。
比較的リーズナブルでありながら、美味しい食事がいただける上、多様なスタイルを持つ6つの貸切風呂が使えるのですから、一泊するだけで思う存分湯めぐりが楽しめちゃいます。泊まる価値が十分にあるお宿でした。
「わいたの湯」
筋湯温泉源泉
ナトリウム-塩化物温泉 76.9℃ pH7.1 湧出量測定せず(自然湧出・自噴) 溶存物質1.421g/kg 成分総計1.424g/kg
Na+:426.0mg(89.78mval%),
Cl-:613.0mg(87.32mval%), Br-1.8mg, S2O3-:0.6mg, SO4--:105.0mg(11.06mval%),
H2SiO3:157.0mg,
加水あり(源泉の温度が高く適温に冷ますため)、加温循環消毒なし
(本館や別館のお風呂については「その2」を参照)
大分県玖珠郡九重町大字湯坪659
0973-79-2014
ホームページ
日帰り入浴不可
私の好み:★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます