温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

谷川岳の西黒尾根から土樽へミニ縦走 2017年8月 前編

2017年09月06日 | 旅行記
※今回記事に温泉は登場しません。あしからず。

このブログを書き綴りはじめた2009年当初、拙ブログは当然ながら誰からも見向きもされなかったので、執筆している私としては自分の備忘録として何の気負いもなく割り切って続けることができたのですが、その翌年の2010年、ある記事をアップしたことをきっかけにグーグル検索経由のアクセスが急増しました。その記事とは、群馬県と新潟県の上越国境に聳える谷川岳へ初めて登った時の記録「登山初心者の登山記 その2 2010年夏 谷川岳(天神尾根コース)」です。

谷川岳とは言わずもがな日本百名山のひとつであり、アクセスの手軽さや峻厳な景色の美しさが大いなる魅力となって、老若男女を問わず人気の集めている有名な山岳です。そんな山を、当時はまだ登山初心者で且つ不摂生と運動不足によって衰えきっていた情けない私が、登山のノウハウもろくに知らない状態で単独行での登頂にチャレンジ。無事たどり着いた頂上で食べたおにぎりの美味さとパノラマの素晴らしさに感動して、以来登山にはまるようになりました。そして、その時の感動を個人的な備忘録としてこのブログに登山記を書き綴ったのですが、「谷川岳」という人気の山、そして「初心者」というワードが世間の需要とマッチしたのか、2011年の夏登山シーズン頃から、その記事だけが異様なヒット数を弾き出すようになり、それにつられて他の記事の閲覧数も増えていきました。備忘録として無責任にブログを書いていた私としては、世間様に評価されるようになって嬉しい半分、ちゃんとした文章を書かなければという責任を負って面倒臭さを覚えるようにもなったのですが、なんだかんだでブログを続けるモチベーションになり現在に至っております。つまり、谷川岳は私に登山の魅力を教えてくれたのみならず、拙ブログの存在意義を飛躍的に向上させてくれた立役者なのでもあります。

今年(2017年)8月のお盆休みは、諸般の都合で宿泊を伴うような旅に出ることができなかったのですが、その代わり日帰りでどこか登山しようと画策し、その目的地として思いついたのが谷川岳です。正直なところ、いろんな事情があってこのブログもそろそろ潮時を迎えつつあるように感じているのですが、そんなタイミングだからこそ、私とこのブログに大きな影響を与えてくれた谷川岳に登って、気持ちの整理をつけたくなったのです。
2010年に登ったときには、麓からロープウェイを使って一気に標高を稼ぎ、そこから谷川岳登山のメインルートである天神尾根をピストンするルートを辿りましたが、あれから色々な山を登ってそこそこ経験を積んだ今の私にとって、天神尾根コースは優し過ぎますから、もっと登り甲斐があって且つ日帰り可能なルートを辿ってみたくなりました。そこで今回選んだのは以下の道程です。

 土合口 → 西黒尾根 → 谷川岳頂上(トマの耳・オキの耳) → 一ノ倉岳 → 茂倉岳 → 土樽駅 → JR上越線に乗車 → 土合駅 → 土合口


(↑地図をクリックすると拡大されます)
(昭文社『山と高原地図 谷川岳(2017年版)』の一部をコピーした上で加工。本記事に関係ない部分はモザイク処理しています)

 つまり群馬県側の土合口から、日本三大急登と称されている「西黒尾根」を登って谷川岳頂上へ向かい、頂上で県境を越えて新潟県に出て、一ノ倉岳や茂倉岳とつづく山脈の稜線を辿り、茂倉岳から土樽まで下って、土樽駅から電車で群馬県側の土合へ戻るという循環ルートです。一応、山脈上の3つの山頂を踏破するので、ちょっとした縦走の形にもなります(そのためタイトルではミニ縦走と表記させていただきました)。これなら登り甲斐がある上、短いながらも縦走ができ、踏破する距離も長いため、充実した山行が楽しめるはずです。しかも日帰りが十分可能です。ただし、今夏の関東地方は天候不順による長雨でアウトドアには不向きな日が続いており、この日も天候が非常に気掛かりでしたので、天気がこのルートを踏破できるか左右するカギになるだろうと思われました。
雲行きを心配しながら早朝に自宅を出発し、関越道を飛ばして、群馬県側の登山口である土合へと向かいました。

なお記事は時系列に従い記載しております。キャプションに記した標高は地理院地図に基づいています。

登山日:2017年8月某日(お盆休み期間中)
天気:曇り(時折小雨)
人数:一人(単独行)


 
【6:30 土合口 谷川岳ロープウェイ駐車場 出発】
まずは土合口の拠点である谷川岳ロープウェイの駅からちょっと離れたところにある駐車場に車をとめました。この青空駐車場は、日中は料金を徴収されるらしいのですが、私が到着した早朝6:30には無料で駐車できると看板に表示されていたので、登山口まで若干歩くものの、ここで車を留守番させ身支度を整えて出発することにしました。



【6:35 谷川岳ロープウェイ土合口駅を通過】
青空駐車場から徒歩5分でロープウェイの土合口駅を通過です。天神尾根へ向かうロープウェイは既に運転されており、登山者を山の上へと運んでいました。前回谷川岳へ登った時にはこの文明の利器で一気に標高を稼ぎましたが、今回はこれに乗らず、自分の脚力で上まで登ります。


 
【6:38 谷川岳登山指導センター(標高762m)】
ロープウェイ駅からクランク状の坂道を上がったところには谷川岳登山指導センターがありますので、施設内に設けられているポストにあらかじめ記入しておいた登山届を投函しました。なおここのポストには用紙も用意されているので、この場で記入することもできます。また施設前には水場もありますから、ここで給水することも可能です。


 
【6:45 西黒尾根登山道 スタート】
国道291号は登山指導センター前で一般車両通行止め。その先も舗装されているものの、国道とは名ばかりの狭隘な林道然とした道が続きます。そんな道をしばらく進むと、左手に俄然現れるのが西黒尾根の登山道。ここから本格的な登山がスタートします。鬱蒼と茂る樹林帯の中をひたすら登ります。


 
【6:53 水場】
まだ標高が低いので蒸し暑く、早くも汗まみれになってしまいました。真夏の登山はすぐに体力を消耗してしまいます。そんな登山者の苦悶に山の神様は救いの手を差し伸べてくれるらしく、登り始めて数分のところで水場があり、さっそくここでゴクゴク飲んで喉を潤しました。


 
【7:00 高圧電線の鉄塔(標高926m)】
樹林帯の途中で高圧電線の鉄塔の下を通過します。ここだけは茂みが刈られているので、特に南方向の見晴らしが効きましたが、でも空には鉛色の雲が立ち込めており、ちょっとでも機嫌を損ねると泣き出しそうな感じです。


 
【7:27 小さな道標】
さらに登ると路傍に小さな道標が立っていました。これによれば土合へ1時間、谷川岳山頂まで3時間とのこと。この道標の先でも視界の広がる箇所があり、晴れていれば山頂方向を望むことができるのでしょうけど、この時は真っ白な雲が視野を遮り、谷川岳の山頂と思しき姿が、勢いよく流れてゆく雲の切れ間にチラチラと見え隠れするばかり。今日はこのまま眺望を楽しめずに終わってしまうのでしょうか。


 
お盆休みなのである程度の賑わいを期待していましたが、とても人気のある山とは思えないほど、この日の西黒尾根コースには登山者の姿が見られません。この時も樹林帯をひたすら登る途中で先行する老夫婦2人と単独行の男性の計3人を追い抜かしましたが、僅かそれだけです。日本三大急登と称されるようなコースですから、みなさん回避するのでしょうか。往きかう人が少なく踏み荒らされる心配が少ないためか、登山道の真ん中では、タマゴタケが真紅の大きな傘を開いてました。


 
【8:03 樹林帯を抜ける】
湿気が多くて蒸し暑い樹林帯の登山は発汗が止まらず、しかも汗が蒸散しにくいので、全身ビショビショになり、かなりストレスが溜まります。登り始めて1時間半弱でようやく樹林帯を抜け、低い灌木が山を覆うゾーンへと植生が変化しました。真夏の登山なので樹林帯の中ではアブの襲来を覚悟し、事前にハッカ油などで対策しておいたのですが、どういう訳かこの日は虫に襲われることがほとんどなく、虫の鬱陶しさに悩まされずに済んだ点はラッキーでした。


 
天神尾根のロープウェイ駅が見通せる斜面の岩場で腰を下ろし休憩。


 
西尾尾根は花の宝庫。花の盛りを過ぎているお盆でも、可憐な花々があちこちに咲いていました。


 
【8:13 鎖場】
西黒尾根では3〜4ヶ所ほど鎖場があり、滑りやすい蛇紋岩の岩場に鎖が垂らされているため、注意して通行しないと危ないよ・・・。書籍やネットの情報ではそのように書かれていました。その急な傾斜こそ「日本三大急登」たらしめているのでしょうけど、少なくとも私が登った実感では、さほど危険性を覚えませんでした。このルートの鎖場で注意すべきは、どうしても足元のグリップが効きにくい雨天時、そして滑落の可能性が大きい下りの時なのでしょうね。今回の私のように、岩の表面が乾いていて、しかも登りである場合は、登山経験者ならば恐れるに足りません。


 
鎖場を登りきると、一時的に雲が晴れ、湯檜曾川が流れる直下の谷あいを見下ろすことができました。また尾根の北側には小さな雪渓が残っていました。


 
さらには、湯檜曾や水上方面も一望できたのですが、周囲の稜線上は厚い雲で覆われており、すっきり爽快なパノラマを楽しむことはできません。景色は諦め、再び尾根の上をたどって先に進みます。


 
【8:25 鎖場】
再び眼前に鎖場が現れました。長年にわたって登山者が踏ん張ってきたためか、鎖が垂れている岩の表面は白っぽく変色しています。この鎖場は足をかけられるような場所が少ないので、腕力に頼まないと滑っちゃうかもしれません。


 
【8:30 ラクダの背(標高1516m)】
鎖場を越えてしばらく進むと、霧の中から「ラクダの背」と縦書きされた杭が現れました。その名前から想像するに、この辺りの尾根の稜線はラクダのコブみたいな凹凸があるのかもしれませんが、あまりに霧が濃いため稜線の全容がわからず、ただ何となくその姿を想像するほかありませんでした。いや、自分でその尾根を歩いているのだから稜線の起伏を把握できても不思議ではないのですが、この辺りまで登ってくると、息が切れ、喉が渇き、ただ目の前の坂を登ることで精一杯ですから、ラクダのようになっていたのか、ちょっとも憶えていないのです。


 
【8:37 厳剛新道分岐(標高1495m)】
ラクダの背から若干下ると厳剛新道が分岐する鞍部に至ります。なお現在の厳剛新道は崩落箇所があり、滑りやすい箇所も多いため、不安の方は西黒尾根を通行するようにという旨の注意書きが、分岐点の標識に掲示されていました。


 
可憐な花々に励まされながら頂上を目指します。


 
雲が晴れたと思った次の瞬間、たちまちかき曇って元に戻ってしまうのが山の天気。「ラクダの背」から先の尾根上では、より一層視界不良がひどくなり、まさに五里霧中。数十メートル先すら判然としません。登山というものは、苦しい登りの先に素晴らしい景色を望めるからこそ頑張れるのですが、今回は景色というご褒美に与れないまま、頂上を目指すことになりそうです。もっとも、真夏のこの時期に晴れていたら直射日光による体力消耗が激しいでしょうから、それは無いだけマシなのかもしれません。岩にペイントされた黄色い印を頼りに先へ進みます。


 
荒々しいこの岩場は氷河の跡なんだとか。引き続き黄色い目印を辿って岩をよじ登ります。


 
山頂に近づくほど私の余剰体力は減ってゆきますが、それと反比例するかのように、高くなればなるほど活況を呈するのが高山植物の花々たち。辺り一面お花畑状態なのです。この日は景色に期待できませんが、そのかわり花々が私に元気をもたらしてくれ、私を奮起させてくれる素晴らしいご褒美になってくれました。


 
【9:50 ザンゲ岩(標高1825m)】
ザンゲ岩と称する岩の横を通過。オーバーハングしている巨大な岩が、あたかも懺悔しているように見えるのかな。
さて、このザンゲ岩を過ぎたあたりで勾配が緩やかになり・・・


 
笹薮に覆われた快適な道を進んでゆくと、雲の中から見覚えのあるモニュメントが姿を現しました。


 
【10:05 天神尾根ルートと合流】
そのモニュメントの下で、谷川岳登山で最も人気のあるメジャーコース「天神尾根ルート」と合流します。登山者の少ない西黒尾根と違い、天神尾根は人の姿が多く、今日は登山者が多いお盆休みであることをここに至ってようやく実感しました。「肩の小屋」を横目に先へ進み・・・


 
【10:12 谷川岳頂上・トマの耳(標高1963m)】
西黒尾根を登り始めてから約3時間半で、谷川岳に2つある頂上の一方であるトマの耳に到着しました。でも頂上一帯は完全に雲の中。周囲を見回したところで何にも見えません。ここが高いところなのかも判然としません。かといって、迂闊に崖の上から身を乗り出して足を滑らせたら、山の下へ転落して私の人生はそこでオシマイ。天国と地獄、どちらに近いのかよくわかりません。


 
このトマの耳では、天神尾根コースを利用してきた人が多くの休憩していたため、私はここで休憩をせずに先へ。


 
トマの耳とオキの耳を結ぶ稜線上も花々の宝庫。私がこの区間を歩いていると、小雨がパラパラと降ってきましたが、全身が濡れることなんて気にすることなく、途中で何度も花々にカメラを向けつつ、足取り軽くオキの耳へと向かいました。


 
【10:25 オキの耳(標高1977m)】
もうひとつの頂上であるオキの耳にたどり着きました。さて、ここで私は腰を下ろし、雨具を纏いながらおにぎり等を頬張って栄養補給し、しばしの間、体を休めます。雲の流れは早く、先ほど降り出した小雨は数分で止み、上空の雲の隙間からは僅かながら青空も覗いていました。もし雨が本降りになったら、土樽方面への縦走を諦め、天神尾根を経由してロープウェイで土合へ戻るつもりでしたが、雨がやんだので、一か八か、この先にそびえる一ノ倉岳や茂倉岳を経て、当初の予定通り、新潟県の土樽へ縦走することにしました。
いま私は谷川岳の頂上にいます。でも、土樽へ向かうとなると、距離的には全体の3分の1を消化したにすぎません。土樽からは1日6本しか運転されないJR上越線の電車に乗って、自分の車をとめている土合へ戻るつもりです。6本とはいえ、実際の下山後に乗れる可能性があるのは2本だけ。ということは、電車の時刻に間に合うよう、土樽へ下山しなければなりません。果たしてこの先、雨に見舞われることなく無事下山し、電車に乗ることができるのでしょうか。

次回(後編)へ続く

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 蔵王温泉 すのこの湯 かわ... | トップ | 谷川岳の西黒尾根から土樽へ... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (山登温子)
2017-09-06 22:28:05
はじめまして
いつも温泉参考にさせてもらってます。(*・ω・)*_ _))ペコリン
山も登られるのですね。
西黒尾根から縦走とはきつそうですね。
後半も楽しみにしています。
返信する
Unknown (K-I)
2017-09-07 21:42:10
山登温子さん、はじめまして。
いつも拙ブログをご覧くださりありがとうございます。秘湯へ到達するために山登りをはじめたら、いつの間にやらその面白さに目覚め、ブログではあまり記事にしていませんが、ちょくちょく登っています。
西黒尾根を登った時には大したことなかったように感じていたのですが、実は疲労がボディーブローのように効いていたらしく、後半の記事ではその愚痴が連続しております。実際に途中で泣きべそをかきたくなりましたが(笑)、それでもやっぱり山は面白いなと改めて実感しました。
ウェブサイト拝見しました。温泉へ山へとたくさんお出かけになっていらっしゃるのですね。特に一人で登山なさるところはとても共感しました。私も参考にさせていただきます。今後とも宜しくお願いいたします。
返信する
Unknown (ぬる湯マスター)
2018-06-03 21:09:38
こんばんわ^^。
前記事の蔵王滞在より読み進めて参りました。
しかしK1殿は本格的な登山もやられるのですな!
いつも万歳のポーズで温泉に入りまくる玄人、
そうお見受けしておりましたが、驚きました^^。
美味しそうなタマゴタケがひっそりと佇む、
谷川岳と言えば素人の私でも知っている険しい山。
やはり温泉マニアは体力勝負なのですね!
しかしこのブログが潮時とは何と言う事を!
密かに楽しみにしている者は居ますぞ~^^!
私もそのうちの一人です。頑張って下さい^^b
返信する
Unknown (K-I)
2018-06-04 13:49:26
ぬる湯マスターさん、こんにちは。
本格的な山登りをするようになったのも、山でしか入れない秘湯を目指すためですので、温泉ありきなんです(笑)。でもそれが高じて、最近は温泉無関係でも登るようになりました。一人で人里離れた険しい山道を歩いている時間が何とも言えず、私にとっては貴重なひとときだったりします。

>潮時
最近は温泉へ出かける時間が激減し、ネタが尽きてきているんです(涙)。諸々の面倒なことも重なり、つい「潮時かな」なんて思ってしまいました。でも、できる限り、続けてまいります。これからも宜しくお願いします。
返信する

コメントを投稿