温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

寒河江温泉 割烹旅館吉本

2015年07月20日 | 山形県
 
一般的に温泉街というものは、地域の主役として温泉が君臨しており、その街において圧倒的な存在感は誇示しているものですが、JR寒河江駅前に位置する寒河江温泉は、言われなければそこに温泉があるとは気づかないほど温泉街としての色彩が弱く、道路の側溝から立ち上る湯気、そして駅から数百メートル離れたところにある足湯が、辛うじて温泉の存在感を主張している程度です。温泉宿が点在しているエリアを、何の意識もせずに歩いても、飲み屋や料亭が軒を連ねる地方の寂れた歓楽街にしか見えません。そんな状況が影響しているのか、当温泉で日帰り入浴を受け入れている施設は多くないのですが、そんな中でも比較的日帰り入浴しやすい宿である「割烹旅館 吉本」へお邪魔して、お風呂だけ利用させていただきました。歓楽街の路地に面している鉄筋造の建物は、中小規模の旅館らしい地味な佇まいなのですが、大正11年創業の老舗旅館だけあって、館内は和の趣きたっぷり。玄関にて入浴をお願いしますと、フロントの方がわざわざ浴室の前まで案内して下さいました。


 
 
廊下には掛け軸、江戸時代の有田焼や漆器などの骨董品がずらりと展示されていました。いずれも実際にお宿の創業家にて使われていたものなんだとか。お宿の風格もさることながら、こうした旧家の文化を育んできた寒河江という土地に対しても、尊敬の念を抱かざるを得ません。


 
クネクネと長く奥へ伸びる廊下の先には、小さな枯山水に2頭の鹿の置物が配されている小ホールがあり、その両側に紺と紅の暖簾が掛かっていました。緋毛氈の腰掛けも置かれていて、純和風のお茶屋さんみたい。
和風でウッディーな脱衣室は、よく手入れされており、気持ち良く使えました。隅々まで清掃が行き届いているところに、老舗旅館としての矜持が伝わってきます。


 
お風呂は男女別の内湯のみ。入室時は床が乾いていましたので、おそらく私がこの晩の最初の入浴客だったのでしょう。つまり実質的な一番風呂ってことですね。しかも浴室内には芳醇なモール臭が香っており、私の好みのタイプである匂いが確認できましたので、お湯への期待が急激に高まりました。
温泉由来の芳香は漂っていますが、換気の状態が良いためか、冬季だというのに湯気篭りが無く、快適な入浴環境が保たれていました。床には十和田石が敷かれており、足元は滑りにくくて快適です。露天は無いものの、窓の外には石灯籠や池を模した岩のオブジェが置かれていて、ガラス窓越しに和の庭園風情を感じることができました。


 
浴室内で最も目を引くのがこのさくらんぼの大きな壁飾り。脱衣室にはこれをデザインした方の原画と意趣が掲示されています。寒河江といえば日本屈指のさくらんぼの産地ですもんね。


 
洗い場は2手に分かれて配置され、シャワー付きカランが計7基取り付けられています。カランから出てくるお湯から温泉のような感触が得られたのですが、はっきり温泉であるという確信持てず…。


 
「美肌の湯」と書かれた湯口より寒河江温泉のお湯が滔々と注がれており、目測で3m×4m強の浴槽はモール臭が香る琥珀色のお湯で満たされていました。こちらに引かれているのは組合の2号源泉。お湯を口に含んでみますと、薄い塩味+ほろ苦み+非鉄系の新鮮金気味が感じられ、湯口に鼻を近づけると、いわゆるモール臭の他、ちょっとオイリーな感を有する臭素臭と弱い金気臭も嗅ぎ取れました。入浴中の泡付きなどは特に見られませんが、湯中では琥珀色の微細な浮遊物が舞っており、お湯の色合いをより強く見せています。なお浴槽の縁は黒御影石で、槽内はタイル貼り。丁度良い深さで入り応えがあり、私が肩まで浸かると、縁の全辺から勢い良くお湯が溢れ出て、豪快な気分を味わうことができました。


 
浴槽の縁には黒御影石が用いられているのですが、オーバーフローするお湯によって成分が付着し、本来黒く光沢しているはずの表面は、ベージュ色にコーティングされていました。縁には切欠が2箇所あり、その両方からお湯が流れ出ています。湯使いは完全掛け流しであり、その甲斐あってとてもフレッシュです。お湯の芳香も良ければ、浴感もまた素晴らしく、モール泉らしいはっきりとしたツルスベ浴感が全身を覆い、あまりの滑らかな感覚につい興奮して、入浴中は何度も自分の腕を擦ってしまいました。湯上がりの爽快感もまた良好であり、にもかかわらず体の芯までしっかり温まるという一挙両得なお湯です。

なおこちらのお宿では湯船にバラを浮かべる「バラ風呂」が名物とのこと。寒河江はさくらんぼの他、バラ栽培も盛んですから、当地の特産を活かしたイベントなのでしょうね。不定期開催らしく、私の訪問時は実施されていませんでしたが、関心のある方は事前にお問い合わせの上で利用なさってみてはいかがでしょうか。私は何も浮かべずに、お湯そのものが持つ芳香に包まれている方が好きなので、室内に漂うモール臭を嗅げただけで十分に満足。寒河江のお湯の個性をしっかり楽しめる素敵なお風呂でした。


寒河江温泉協同組合第2号源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 49.3℃ pH7.3 蒸発残留物1346mg/kg 溶存物質1524mg/kg
Na+:419.7mg, Mg++:14.4mg, Ca++:36.3mg,
Cl-:550.4mg, Br-:1.3mg, I-:0.2mg, HCO3-:371.4mg,
H2SiO3:100.7mg, CO2:31.2mg,

JR左沢線・寒河江駅より徒歩5~6分(500m)
山形県寒河江市本町2-1-23  地図
0237-84-2138
ホームページ

日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5

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2 コメント

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Unknown (Dan)
2015-07-20 07:36:17
ここに温泉があるんですか?って感じがしますよね(^_^;)
でもこれが寒河江の温泉なんでしょうね
とてもいい温泉でした
モール臭、ヌルスベな浴感、キレイなお湯の色
全てに満足なお湯って記憶があります
また、ご紹介の如く、伝統文化を継承した日本人のもつ
気配り・和のテイストが感じられるいい旅館でした
ここは間違いなくお勧めですよね(^o^)
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Unknown (K-I)
2015-07-21 20:50:50
>Danさん
日がとっぷり暮れた後に現地へ着き、夕食のお店を探しがてら、ついでに日帰り入浴でもしていくかという片手間な発想で入ったので、正直あまり期待していなかったのですが、上品な佇まいと素晴らしいお湯にものすごく感動してしまいました。ご近所に名湯「ゆ~チェリー」があるので、どうしても存在感が薄くなりがちですけど、お湯の良さで捉えたら、寒河江はもっと注目されても良いですね。
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