温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

両神温泉 国民宿舎両神荘

2013年07月25日 | 東京都・埼玉県・千葉県
 
前回前々回と源泉そのままの冷鉱泉を浴びることができる施設を取り上げてまいりましたが、いくら暑くたって水風呂はどうも苦手、という方もいらっしゃるかと思いますので、そんな方向けに、加温はされているものの加水や循環の無い放流式の湯使いを実現している両神温泉の「国民宿舎両神荘」を今回ピックアップさせていただきます。
まずは秩父鉄道の三峰口駅より小鹿野町営バス「両神庁舎行」に乗車します。画像をよく見ますとバスのナンバーは白ですが、これは小鹿野町が自主運行している所謂80条バスってやつですね。車内はガラガラで、この時は私以外に乗客がいませんでした。



約20分ほど乗車して「薬師堂」バス停で下車します。ここよりちょっと手前にある道の駅「両神温泉薬師の湯」にも温泉施設がありますが、そちらでは掛け流しの槽が無いため、今回はパスしました。


 

見るからに歴史のありそうなこの薬師堂は、室町末期の建立と推定されており、埼玉県の文化財に指定されています。守護尊の薬師如来は秩父十三仏の一つであり、目薬師として眼病に霊験あらたかなんだそうですよ。宝暦年間に奉納されて現在もお堂の正面に掲げられている額には江戸小伝馬町の地名が残されており、江戸の町人たちが遠く離れたこの秩父の奥地に佇む薬師様を篤く信奉していたことがわかります。それだけご利益があったんですね。



薬師堂から看板に従って路地へ入ると、純然たる日本の山奥には不釣り合いな中華風の大きな建物が現れました。中国山西省友好施設「神怡館」なんだそうでして、どんな施設なのか興味津津なのですが、今回はお風呂を優先したかったので、残念ですがこちらも今回はパス。


 
バス停からのんびり歩いて5分程度で「両神荘」に到着しました。建物自体はいかにも昭和後期の公営宿泊施設っぽいちょっと無機質な感じですが、低層ですので周囲の景観を邪魔することはありませんし、館内に入って入浴をお願いした際のフロントの方の対応も良かったので、もし秩父で宿泊する機会があればこの宿を候補の一つに選んで良いな、という第一印象を抱きました。
ロビーやその右手に広がるエリアは本館で、左手に進んだ先には別館があるのですが、浴場は別館に設けられていますので、まずは別館へと移動し、更に階段(もしくはエレベータ)で下の階へ下ります。



階段下りてすぐに浴場入口となります。その傍の通路壁にはスタッフのお手製による鉱泉の解説が掲示されており、お湯の特徴や入浴方法の他に湯使いも明示されており、鉱泉に対する施設側の誠実さや温かいハートが伝わってきます。



浴室は露天風呂の違いによって「岩の湯」「檜の湯」に分かれており、男女日替わり制で、この日は「岩の湯」に男湯の暖簾がかかっていました。なお「岩の湯」入口前にはコインランドリーが設置されていますので、両神山などの登山後にこちらで宿泊する場合、お風呂で自分の体の汗を流すついでに、汗や泥で汚れた衣類を洗濯することもできますね。


 
脱衣室はちょっと風変わり。普通は棚を壁際にピッタリくっつけて設置するものですが、こちらでは敢えて2つの棚を向かう合わせにして背面を空け、右側は洗面台スペースとのパーテーション代わりにし、左側は通路としての空間を確保しています。左側になぜ通路があるのかと言えば、こちらのお風呂は内湯と露天の入口が別々になっており、両方を利用するには一旦脱衣室を通過する必要があるため、ビショビショの入浴客が脱衣エリアへ入ってこないようにすべく、わざわざ専用の通路を確保しているものと想像されます。


 
まずは内湯から。山の緑を映すガラス窓に面して、10人以上は同時に入れそうな大きな浴槽が無色透明のお湯を湛えています。浴槽の縁は緩やかな曲線を描いており、見た目に優しい印象が伝わってきました。洗い場に関してはシャワー付き混合水栓がL字形に計8基配置されており、ボディーソープ・シャンプー&リンスの他、試供品の洗顔フォームやピーリングクリームなど、おばさま向きの品々が揃っています。


 
浴槽の中に立つ太い柱に石積みの湯口が据え付けられており、加温されたお湯が湯船へ落とされているのですが、この湯口はどちらかと言えば装飾的な意味合いが強く、浴槽の縁付近の底部にあけられた2つの穴から、湯面が盛り上がるほど勢い良くお湯が噴き上げられていました。石の湯口も、底部の穴の回りもほんのり赤く染まっていたのですが、これって泉質由来なのか、はたまた単に配管内の錆によるものなのか…。内湯のお湯はしっかり加温循環消毒されており、人が浴槽へ入った瞬間以外はオーバーフローも見られず、きちんと槽内吸引されています。お湯自体は無色透明無味無臭で、味や匂いの面ではこれといった特徴は感じられなかったのですが、消毒に関しては塩素系薬剤ではなく紫外線消毒を行なっているため(館内掲示にて明記あり)、カルキの不快な臭いが全くしない点は大いに評価できるかと思います。当然ながらカルキ剤を投入した方がはるかに安く保健所の指示をクリアすることができるわけですが、もし資金面で余裕がある施設ならば、是非このような知覚面への影響を最低限に抑えられる方法で消毒を実施していただきたいものです。一方で浴感については「美人の湯」の名に相応しいヌル感を伴うツルスベ感を有しており、最初に湯船の湯に触れた時には「あれ、これって石鹸水?」と勘違いしてしまったほどでした。


 
一旦脱衣室に戻ってから露天風呂へ向かいます。屋外に出て、屋根掛けされているL字形のアプローチを歩いた突き当りに露天風呂が据えられていました。改修されてあまり年月が経っていないのか、露天エリアはどこもかしこも綺麗で清潔感に溢れ、屋根に用いられている白木の木材も美しく、滑り止めのために敷かれている人工芝も、上手い具合にこの屋根と調和していました。


  
「岩の湯」という名勝の通り、浴槽は岩(というか石)で縁取られていますが、屋根などに明るい暖色系の木材が多用されているため、他の旅館で見られる岩風呂の無彩色感は無く、周囲の山の緑とマッチして、緑・木・岩という3素材が綺麗なトリコロールを生み出しているようでした。
長方形の浴槽は、横に並んで足を伸ばせば7人位は入れそうな容量でして、なぜか手前側の縁には段が無いため(反対側には段があるのですが…)、手すりのあるステップ部分から入浴してくださいという旨の看板が、浴槽手前に立てられていました。

浴槽中央の上部壁面より50℃近いと思しきかなり熱く加温されたお湯が落とされています。掛け流しの温泉を紹介する拙ブログとしては、何が何でもこの露天風呂をフューチャーしないといけません。というのも、こちらのお宿の露天風呂は加温こそされているものの、加水循環濾過消毒は一切行われていない純然たる放流式の湯使いなのであります。湯口から注がれて湯船を満たしたお湯は、谷側の縁から静々と溢れ出ていました。秩父には鉱泉自体は多く存在していますが、源泉掛け流しのお風呂は僅少であり、しかも水風呂ではなく入浴に適した温度(40℃以上)で利用できる入浴槽はとても貴重です。
お湯は無色透明でほんのり甘く、微かな塩味を帯びています。分析表によれば総硫黄は1.3mgなのですが、加温によりイオウらしさが飛んでしまったのか、たまに砂消しゴム的な知覚が感じられたものの、神経を研ぎ澄まさない限りは殆どイオウ感は伝わってきませんでした。その代わり、内湯同様に石鹸水を彷彿とさせるヌルツルスベ浴感は素晴らしく、殊に露天は循環されていない源泉だけあって、その感触は内湯よりも強く、入浴中は誰しも美人肌になれること必至です。

とても素晴らしい鉱泉なのですが、お湯の投入量が少ないため、私が訪問した時のように空いていれば問題ないのですが、繁忙期の夕方などお客様が集中するときになると、お湯が相当汚れそうで心配です。とはいえ湧出量や加温用の燃料など、投入量を増やしたくてもできない問題を抱えているのでしょうから、こればかりは致し方ないのかもしれません。



浴槽縁の石に腕を乗せ、その上に顎を載っけて木枠の小窓から渓谷を眺めると、窓枠効果によって小森川の清流や周囲の山々の緑が、まるで風景画のように映えて映ります。
上述のようにお湯は湯口では直接触れないほど熱いのですが、外気による冷却の影響を受けて湯船では41℃くらいまで下がっており、じっくりと長湯することができました。



休憩スペースのテラスは床がすのこ状になっており、山の清らかな涼風があらゆる方向から吹き抜けてゆくので、腰掛けに座ってクールダウンするととっても爽快です。


 
露天風呂の下の渓谷を流れる清流小森川。お風呂から谷底まで結構な高低差があるのですが、水が清らかなのでお風呂から川底まで目視できちゃいました。訪問した時季(6月下旬)には川原で蛍が飛び交い、夜になれば宿泊客はこぞって蛍狩りを楽しむんだとか。


 
湯上りにロビーに置かれているビン牛乳の自販機で、小鹿野町産の「戸田牛乳」を一気飲み。この牛乳は前回の記事でも紹介しましたね。もちろんフタには「彩の国牛乳」の文字が記されています。


すすきの湯
規定泉(フッ素イオン・メタホウ酸) 24.3℃ pH9.2 280L/min(掘削自噴) 溶存物質0.940g/kg 成分総計0.940g/kg
Na+:333.6mg(97.45mval%),
F-:4.5mg(1.61mval%), Cl-:431.7mg(81.58mval%), S2O3--:1.3mg(0.13mval%), HCO3-:85.8mg(9.44mval%), CO3--:10.3mg(2.28mval%), BO2-:29.4mg(4.62mval%),
H2SiO3:33.8mg,
内風呂:加温・循環濾過・殺菌装置による消毒あり
露天風呂・加温あり・循環濾過消毒なし(放流式)

三峰口駅もしくは西武秩父駅より小鹿野町営バス(三峰口・西武秩父駅線)で「薬師堂」下車、徒歩徒歩3~4分
埼玉県秩父郡小鹿野町両神小森707  地図
0494-79-1221
ホームページ

立ち寄り入浴時間11:30~20:00(土曜や繁忙期などは短縮営業)
800円(西武鉄道発行の「秩父漫遊きっぷ」を提示すれば600円)
(火曜日も600円になるようです。詳しくはお問い合わせを)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 秩父川端温泉 梵の湯 | トップ | カワイイ&懐かしい 宝登山... »

コメントを投稿