温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

板留温泉 森のあかり

2016年10月05日 | 青森県
 
2015年晩秋の某日、青森県黒石市板留温泉の「森のあかり」で一晩お世話になることにしました。東北をメイングラウンドとして情報発信なさっている温泉ファンの方々を中心として既に口コミが広がっていますが、こちらはかつて「西十和田ユースホステル」として使われていた建物をリノベーションし、同市大川原にある「お山のおもしえ学校」の姉妹施設として、2014年10月に開業した素泊まり専用宿泊施設です。多くの温泉ファンからポジティヴ評価が上がっていたので、私も是非泊まってみたかったのでした。



上の写真は、お宿の方に見せていただいた、工事前の旧ユースホステルの姿です。ユースホステル閉館後、30年近くも放置され続けていたらしく、完全に藪に飲まれていたんですね。この廃墟を快適に宿泊できるような状態にまで復活させた関係者の皆さんの尽力には頭が下がります。


 
「森のあかり」という名前の通り、館内には自然の素材を活かした照明が随所に設けられています。たとえば玄関前に置かれている木をイメージしたこのオブジェは、山に夜の帳が下りるとイルミネーションアートとしてぬくもりある優しい光を放ってくれました。この宿のオーナーさんは、ランプの宿として有名な近所の秘湯宿の関係者だったらしく、それゆえ照明には造詣が深いんだそうです。



こちらは館内の見取り図。特徴的な中央の丸い部分の2階に食堂が、1階に浴室などが配置されています。旧ユースホステルがいつ頃開業したのか存じ上げませんが、当時としてはかなり思い切った設計だったのではないでしょうか。


●客室と共有スペース
 
昔懐かしい学校のような廊下を歩いて客室へ。枯葉を使った照明が廊下を照らしていました。


 
客室は9室あり、2人用と4人用の2種類が用意されています。私が泊まった2人用の個室で、この部屋を一人で使わせていただきました。かつてはユースホステルだったため、客室は元々ドミトリーだったのですが、現在では2段ベッドの上段を取り払って普通のベッドとして使えるようになっていました。
室内には利用案内が掲示されており、客室に関しては、布団は各自で敷いてください、浴衣が必要な場合は別途料金で承ります、などといったことが記されていました。


 
枕元の小物置き場やフックなど、ドミトリー時代の設備は今でも残されています。コンセントもありますから、各種電子機器の充電も問題ありません。また2つの寝台を仕切るスペースには簡易的なテーブルが新たに取り付けられていました。



こちらは4人用の個室です。かつてはキャパ8人のドミトリーだったのでしょうけど、ここでも上段の寝台を撤去して4人用にしていました。そして晩秋という季節柄、部屋の中央にはコタツが用意されていました。


 

ユースホステルには欠かせない共有スペースも、現在では談話室として開放されています。室内にはテレビの他、電子レンジ・ガスコンロ・オーブン・トースターなど簡単に自炊できるような備品が備わっており、廊下に置かれた冷蔵庫も利用可能です。近所にはコンビニがあるので(※)、お弁当などを買って持ち込むのも良いでしょう。あるいは車で黒石の市街に出ちゃえば、食事に困ることはありません。
(※)国道102号と国道394号が交差する十字路の角にローソンがあります。宿からは約800メートル。徒歩10分弱といったところでしょうか。


 
ちなみに私は夜に車で黒石市街へ出かけ、黒石の駅前にある「すごう食堂」でモツ炒め定食をいただきました。
なおこの食堂は黒石名物の「つゆ焼きそば」で有名です。



話を宿に戻しますと、館内の共有水場には洗濯機があります。宿の運営母体ではアウトドアアクティビティーを催行していますので、山で思いっきり遊んで汚れた衣服を洗うにはもってこいですね。
なお私が宿泊した日はまだwifiの整備ができていませんでしたが、現在では全館でwifi利用可能だそうです。


●朝食
 
素泊まり専用の宿ですが、別途料金で夕食や朝食をとることも可能です。ただし事前予約が必要です。
お食事は真ん丸い食堂でいただきます。円周の窓が特徴的ですね。


 
夕食は仕出しのようですが、朝食は食堂のキッチンでスタッフの方が作ってくれます。
この日の宿泊客は私一人だけだったのですが、わざわざ朝早くから用意してくださいました。宿ご自慢のランプを見ながらの食事です。ご覧のように、提供されたのは目玉焼き・ソーセージ・サラダがお皿に載せられた洋風の献立で、リンゴやラ・フランスといった果物は自家農園で採れたもの、また、画像右手前に写っている山ぶどう入りのイチジクジャムもスタッフの方の手作りです。このジャムが実に美味しく、テーブルの上に出されたパンを全て食べてしまいました。


●お風呂
 
さて、拙ブログの主題である温泉へと話を進めましょう。丸い部分の1階に浴室があり、きちんと男女別に分かれています。
暖簾を潜り、階段を下って浴室へ。なお、お風呂は貸切で使うため、入室時にはドアにさがっている札を裏返して利用中である旨を示しておきます。また入浴可能時間には制限があり、夜は22:00まで、朝は6:00〜8:30となっています。


 
円形の建物を適宜仕切って部屋割りしているため、脱衣室は扇型のような形状をしています。ひとり貸切で使うのは申し訳ないほど広い室内です。


 
浴室は建物の大きさからすると意外なほどコンパクトで、湯船も家庭用のバスタブと大差ないようなサイズです。お風呂を貸切利用にしているのは、このキャパの問題が絡んでいるのでしょう。浴槽に接して洗い場があり、シャワー付きカランが1基取り付けられています。浴室内のタイルや石積みの飾りなどは明らかに古いものなので、おそらくユースホステル時代のものをそのまま居抜きで綺麗に磨き直して使っているのでしょう。


 
浴槽は1〜2人サイズで、側面は以前から流用のピンク色タイルが張られていますが、底面はコンクリに打ちっぱなしになっていました。専用の混合栓から温泉が投入されているのですが、給湯配管はシャワーとつながっているため、どちらか一方を出すと、他方は弱くなってしまいます。尤も、このお風呂は貸切で利用しますから、どちらかの吐出圧力が弱くなっても支障は無いでしょう。お宿の方が湯量を調整してくださったおかげで、私が利用した時には丁度良い湯加減となっていましたが、投入する温泉や水の量は自由に加減できるので、試しにお湯を全開させたところ、カランから出てくるお湯は50℃以上の激熱となり、湯船もあっという間に熱くなっていきました。そして私が湯船に入ると、ザバーッと豪快に音を轟かせながら、お湯が洪水のように溢れ出ていきました。言わずもがな完全掛け流しの湯使いです。

お湯は板留温泉の共有源泉(3号泉)を引いており、無色透明で湯の花は見られず、お湯を口に含むと微かな塩味と石膏甘味、そして弱い芒硝感と僅かなタマゴ臭が得られます。湯の中に浸かると優しく滑らかなスルスベの中に少々の引っ掛かりが混じる浴感が肌に伝わり、湯上がりはよく温まりつつも粗熱の抜けが良く、長い時間にわたってぬくもりと爽やかさが絶妙なバランスで共存してくれます。肌に馴染むしっとり感といい、湯上がりの穏やかな温まりといい、実に上品でウットリさせてくれる素晴らしいお湯です。先述したようにこの晩の客は私だけだったので、ひたすら温泉を独り占めすることができ、誰にも触れられていない新鮮なお湯を存分に堪能させていただきました。


●周辺
 
宿泊した翌朝、朝食をいただく前に、スタッフの方の案内を頼りに、宿の周りを散策することにしました。敷地内にはリンゴ畑があり、大きくて真っ赤なりんごがたわわに実っていました。また周囲の木々は紅葉の盛りを迎えており、モミジの樹は燃えんばかりに色づいていました。この宿の近くには青森県屈指の紅葉の名所である中野もみじ山があるのですが、そこまで行かずともここで十分に秋の自然美を楽しめました。


 
宿の裏手の木立を抜けて板留の集落へ出ると、農家の軒先にでは沢庵用の大根や赤カブが干されていました。また、その近くの切り株には天然のエノキダケが生えており、本能的に胃袋が鳴いてしまうような芳香を放っていました。長閑なランドスケープに味覚の要素が加わると、風景としての面白みがより一層増し、眺めているだけで気分が高揚するものです。


 
宿の真裏には集落の鎮守があり、朱塗りの鳥居の前に立つと、温泉宿が立ち並ぶ板留の軒並み、そして浅瀬石川の対岸に広がる落合温泉や下流側の温湯温泉など、いわゆる黒石温泉郷の一帯を一望することができました。


 
鎮守の神社境内で黄色く色づくイチョウのそばにはコンクリの大きな躯体が設置されているのですが、なんとそこから湯気を立てて路地の側溝へ大量のお湯が捨てられているではありませんか。現在の板留温泉では、神社の上の方にある源泉で湧くお湯を各旅館で分配しているのですが、そのお湯を分配前にストックしているのがこのコンクリの貯湯槽であり、ストックした余剰がこのように捨てられているのですね。余って捨てているなら、各宿への分配量を増やすなど、もっと良い活用方法がありそうな気もしますが、大人の事情が絡んで、止むを得ず捨てざるを得ないんだとか。あぁ、勿体無い・・・。

ま、そんなことはともかく、長閑で麗しい景色の中を歩いていると、まるで風景画の中に迷い込んでしまったかのような気分を楽しめ、日々のストレスで疲労困憊の我が心はお蔭ですっかり癒されました。私が訪れたのは秋でしたが、宿周辺の自然環境は、季節によって様々な姿を見せてくれるに違いありません。もちろん、景色だけではなく完全掛け流しの温泉も実にブリリアント。小さなお風呂ゆえにお湯が持つ品の良さがよく伝わってきました。綺麗な施設で肩肘張らずリーズナブルに宿泊することができる使い勝手の良いお宿でした。観光にはもちろん、ビジネスにも使えますね。


板留3号源泉(代替泉)
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 60.6℃ pH7.39 438L/min(動力揚湯) 溶存物質1.861g/kg 成分総計1.871g/kg
Na+:238.1mg(42.58mval%), Ca++:265.4mg(54.42mval%),
Cl-:176.5mg(20.39mval%), SO4--:873.6mg(74.49mval%), HCO3-:71.1mg,
H2SiO3:102.4mg, CO2:10.0mg,
(平成23年10月12日)

弘南鉄道黒石駅より弘南バスの大川原行か温川行で「板留」バス停下車、徒歩2〜3分
青森県黒石市板留長坂下17-1  地図
0172-54-8028
ホームページ

原則的に入浴は宿泊のみ(日帰り入浴の可不可は不明。要相談)
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (4)
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