どっちが上で どっちが下
そんな物差しばかり使うから
ちっとも本当が見えない (呼ぶ)
何かを蹴落として
掴み取ったものを
幸せと呼ぶには少し
違うような気がするよ (呼ぶ)
知れば知るだけ孤独になって
もう何も信じられない (明け星)
選ばれなかった僕らの
何気ない日々はどこへ向かうの (No caster)
LOST IN TIME1年半ぶりのニュー・アルバム「DOORS」、
さわやかで美しいジャケットとは裏腹に相当切実でセンシティブで、そして良い意味で“必死”なアルバムに仕上がっています
ロックンロールの「ロール」的な部分、つまりは転がるように生きる感触から
誰にも触れられたくないようなナイーブな感情まで
ポジティブな曲はより前向きに、かつ必死に
ネガティブな曲はより後ろ向きに、かつ達観的に
人の持つ様々な感情に触れる事の出来る傑作になっているな、と
今作はそういう風な「割り切り」が気持ちの良いアルバムだと思います
福音のようなアッパーで多幸感溢れる楽曲もあれば
沁みるバラッドもあって
冷徹でひんやりした作中観の曲もあるし、
ただただ寂しい印象の曲や、大人らしい達観と哀愁に満ちた曲があったり、必死に繋がりと存在を求めるナンバーも点在していたりと
一つの方向性でまとまっているのではなく、多角度から人間そのものを切り取った印象のアルバムで
だからこそ生々しく、かつ誠実に響いている・・・というのが個人的な印象ですね
ポジティブに振り切るのでもなく、ネガティブに振り切るのでもない
そのバランス感覚に優れているのが今のロストであり
それがより理想的なバランスになって来ているのが今作「DOORS」だと自分的には感じています。
また今作は歌詞がいつにも増してキレッキレですね
冒頭に挙げたフレーズはどれも大好きなフレーズの数々ですが
良い言い方をすれば「嘘の無い」、悪い言い方をすれば「身も蓋もない」(笑)
そんな内容の歌詞が多いアルバムでもあります
勿論足掻くような歌詞もありますけれど、
心の中で本当は思っていること
どんなに大げさな言葉で取り繕おうが拭い切れない空しさのような感情も多数切り取られているので
聴いていてすごく沁みますし、感情移入の隙間が広い、聴いている人の感情に訴えかける言葉の多いアルバムになっていると思います
だからこそ、前述の「足掻くような歌詞」が対となって光っている感覚もあります
そういうシビアで隠しきれない虚無感を歌っているからこそ
「それでも」が先立つ歌詞の楽曲が沁みる節があり
陽があるから陰がある
陰があるから陽がある・・・と
そういう意味でも実に理想的なバランスのアルバムなんですよね
散々くたびれて失って何もかもが分からなくなっても、だからこそ歩まんとする“力強さ”のある作品でもある
落ち込んだ時には暗い部屋(曲)に入れば良いし、進みたい時には明るい部屋(曲)に入れば良い
その鍵が12個(曲)あるような、自由度と包容力に満ちているアルバムだと聴き込んでみてそう感じました。
人を信じたい時には「22世紀」を聴けば良いし、逆であれば「明け星」のフレーズに気持ち泣けば良い。
どっちが正解不正解だとか、そういう価値観ではなく
「両方あるんだよ。」とそう告げているような
「366」と「No caster」の真逆過ぎる方向性もそうですけどそれもまたロストの“誠実さ”が如実に出ていて素敵だと思います。
一人一人の道があって素晴らしい、と思える日もあれば単に路傍の石の一つでしかない、としか思えない日もあるという事。
でも、それがまた実にロストらしくていちファンとしては信頼できる、嬉しくなる感覚なんかもあったりします。
また、単純に一曲一曲が良いアルバムでもあります
祝福のようなハピネスに満ちたキラーチューンでありアルバムを代表する名曲「366」(ライブでも盛り上がる)、
アップテンポだが噛み締めるように歌われるサビのフレーズが印象的な“足掻く”ナンバー「Synthese」、
牧歌的で感傷的なAメロの時点で沁みてくるバラッド「燈る街」は、
“あの日”というフレーズを聴いた人個々で設定してイメージしながら聴ける自由度があってその意味でも素敵な一曲
今作でも随一に厳しい歌詞が光る「No caster」はロストの自棄的な部分が如実に出ている退廃的でひんやりとしたロックンロール
情感溢れる「小さな隣人」は寂しくもその中に付随する小さな希望を歌ったこれまた沁み入る感じの楽曲
間間に入っている小気味良いインストも新境地かつ聴きやすさに貢献しているし、
必死さ、切実さなら随一な「22世紀」の熱量もまた凄い
個人的に歌詞が大好きな「呼ぶ」に関してはもう歌詞を完全掲載してしまいたいくらいに(笑 バラッドでありながらキレッキレのフレーズが並んでいる名曲
壮大な「home」はファンとバンドとの絆(のようなもの)を実直に思わせる新しいロストのアンセム
最後の「明け星」は寂しくてシビアなフレーズが並びながらもそれでも笑っていたい~という感情が胸を打つナンバー・・・と
どの楽曲も派手さ、というよりは洗練されている、という印象が強く
だからこそ新しいロストインタイムを感じられる
シックでありながら沁みる、
確かな進化を感じる~、
と、「らしさ」を保ちながらも一歩アップデートされたメロディや歌詞のセンスを味わえる類のアルバムにも仕上がっています
どちらかと言えば聴けば聴くほど味が出て来る、長く聴ける温度感と距離感のアルバムだと思うので
興味のある方は是非聴き込んで聴き込んで“その人自身のアルバム”にしてやって欲しい。ですし、
実際そうなれるだけのタフさと(表現力の)豊かさとポテンシャルに満ち溢れたアルバムになってると敢えて断言したいです
「No caster」や「明け星」を聴く限りまだまだ開けてない引き出しもありそうな気がしましたし、
お世辞抜きでロストインタイムは「今の」であり「これからの」バンドだと思いました
個人的には今のLOST IN TIME、大好きです。絶対支持。
一歩一歩 もっともっと
誰も出したことのない答へ
ずっとずっと 何度だって
立ち上がれることの証明
一歩一歩 もっともっと
誰も辿ってはいないルートで
ずっとずっと 何度だって
やり直せることの証明 (Synthese)
こういうロストの“距離感”、すごく好きです。
間接的に「ちょっと頑張るか。」と思える一つの方法論。
今作のツアーも発表されましたが、今からめちゃくちゃ楽しみですし
一箇所だけとは言わず数箇所是非参加したいですね。
全体的にシックで洗練されつつも、
確かな熱量もしっかりと響いている新たな傑作だと思いました。聴き続けます。