「国内初の患者発生」とマスコミは大騒ぎ(関係ありそうな土地に集結して騒ぎまくったり、何も情報を持っていない人や校長に返事を強要したり)ですが、私があきれたのは、学校や教育委員会に「抗議の電話」をする人がいる、というニュース。その「抗議の電話」で日本の何がどのくらい良くなるんです? 何かが良くなる期待はなくて、忙しくしている人の時間を一方的に奪うだけの行為は、不安を言い訳や大義名分にしたただの「有害無益な行為」でしかないと、私には思えます。やっても仕方ない行為は慎んで、少しは静かに経過を見守れないのかなあ。
【ただいま読書中】
『深海のYrr(イール)(下)』フランク・シェッツィング 著、 北川和代 訳、 ハヤカワ文庫、2008年、800円(税別)
イールは単細胞生物が集合してニューラルネットワーク・コンピューターのように機能しているのではないか、と科学者たちは推測をします。人が多くの細胞(DNAは共通でもそれぞれは異なる細胞)から成り立っているように、様々な異なる単細胞生物が情報を何らかの手段で交換することで一つの知性体として成り立っているかのようなのです。
また著者は、人類を「それぞれが異なった様々な個人の集合体」として描きます。その人間関係も「現在の結びつき」だけではなくて「過去の結びつき」も重視しているようです。
イールとついにコンタクトができた夜は、人々にとっての議論の夜でした。進化論・誤解された進化論・創造論が入り乱れます。同時に(例によって)人間の間での権力闘争も進行します。権力への野望と対立する組織の足を引っ張るための陰謀と……「そんなことをやっている場合か」と言いたくなりますが、人には「どうしても譲れない一線」があるのでしょう。自分の野望のためには他人が何人死のうとあるいは地球が壊れようと気にしない人がいるのです。さらに、コンタクトに対するイールの行動は、直接的な攻撃でした。
イールの超変異DNAは複雑です。どうやら「獲得形質(DNAの変化)」を情報としてやり取りしているらしいのですが、それは「イール」の同一性を脅かします(DNAが常に変化するのですから)。ところが集合生物としてのイールはずっとイールのままです。同一性の維持と獲得形質の情報化とを両立させるためにどのようなトリックを使っているのか、が一つの大きな謎です(生物学的にはあり得ないのですから)。さらに、イールに地表の破壊をやめさせる手段はまだ見つかりません。人間同士のいがみ合いも進行します。
イールからの最初のメッセージ(人類が送った数学の問題に対する返答)は、海底から見た水面の画像。地表や人類のDNAデータなどに対する二つ目のメッセージは、一億八千万年前(パンゲア大陸の時代)の地球の姿の画像でした。イールは自らの遺伝子に「種の記憶」を持っているのです。そして、対イールの本部であるヘリコプター空母に嵐の夜がやってきます。人間同士の殺戮の夜です。さらにイールからも、海底から魚雷が空母に撃ち込まれます。
人類はイールに二つの相反するメッセージを届けようとします。一つはイールを全滅させるもの、もう一つは人類とイールの共存。はたして深海に届けられるのはどちらか、そしてその結果は……
本書をひとことで言ったら……海洋冒険サスペンス科学環境生態ホラー小説かな。ひとことで言えていませんが、これは、あまりに多くの要素を盛り込んだ著者の責任です。面白くて読み始めたら止まりませんよ。警告だけはしておきます。
そうそう、本書ではほとんど言及されませんが、日本がどうなったのかが気になります。貿易も漁業も壊滅状態では、おそらくとんでもなく悲惨な状況になっていたと想像できるのですが、だれか番外編を書いてくれないかなあ。「深海のYrr(イール) 蚊帳の外の日本編」を。
【ただいま読書中】
『深海のYrr(イール)(下)』フランク・シェッツィング 著、 北川和代 訳、 ハヤカワ文庫、2008年、800円(税別)
イールは単細胞生物が集合してニューラルネットワーク・コンピューターのように機能しているのではないか、と科学者たちは推測をします。人が多くの細胞(DNAは共通でもそれぞれは異なる細胞)から成り立っているように、様々な異なる単細胞生物が情報を何らかの手段で交換することで一つの知性体として成り立っているかのようなのです。
また著者は、人類を「それぞれが異なった様々な個人の集合体」として描きます。その人間関係も「現在の結びつき」だけではなくて「過去の結びつき」も重視しているようです。
イールとついにコンタクトができた夜は、人々にとっての議論の夜でした。進化論・誤解された進化論・創造論が入り乱れます。同時に(例によって)人間の間での権力闘争も進行します。権力への野望と対立する組織の足を引っ張るための陰謀と……「そんなことをやっている場合か」と言いたくなりますが、人には「どうしても譲れない一線」があるのでしょう。自分の野望のためには他人が何人死のうとあるいは地球が壊れようと気にしない人がいるのです。さらに、コンタクトに対するイールの行動は、直接的な攻撃でした。
イールの超変異DNAは複雑です。どうやら「獲得形質(DNAの変化)」を情報としてやり取りしているらしいのですが、それは「イール」の同一性を脅かします(DNAが常に変化するのですから)。ところが集合生物としてのイールはずっとイールのままです。同一性の維持と獲得形質の情報化とを両立させるためにどのようなトリックを使っているのか、が一つの大きな謎です(生物学的にはあり得ないのですから)。さらに、イールに地表の破壊をやめさせる手段はまだ見つかりません。人間同士のいがみ合いも進行します。
イールからの最初のメッセージ(人類が送った数学の問題に対する返答)は、海底から見た水面の画像。地表や人類のDNAデータなどに対する二つ目のメッセージは、一億八千万年前(パンゲア大陸の時代)の地球の姿の画像でした。イールは自らの遺伝子に「種の記憶」を持っているのです。そして、対イールの本部であるヘリコプター空母に嵐の夜がやってきます。人間同士の殺戮の夜です。さらにイールからも、海底から魚雷が空母に撃ち込まれます。
人類はイールに二つの相反するメッセージを届けようとします。一つはイールを全滅させるもの、もう一つは人類とイールの共存。はたして深海に届けられるのはどちらか、そしてその結果は……
本書をひとことで言ったら……海洋冒険サスペンス科学環境生態ホラー小説かな。ひとことで言えていませんが、これは、あまりに多くの要素を盛り込んだ著者の責任です。面白くて読み始めたら止まりませんよ。警告だけはしておきます。
そうそう、本書ではほとんど言及されませんが、日本がどうなったのかが気になります。貿易も漁業も壊滅状態では、おそらくとんでもなく悲惨な状況になっていたと想像できるのですが、だれか番外編を書いてくれないかなあ。「深海のYrr(イール) 蚊帳の外の日本編」を。