【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ちょっとペースが落ちます

2017-03-07 19:32:45 | Weblog

 なんだか急に多忙になってしまって、3月中はおそらく今までの読書ペースは保てないことがほぼ確実になってしまいました。せっかくこの読書日記を読んで下さっている方たちには申し訳ないのですが、しばらく1週間に3〜4冊のペースに落ちてしまう予定です。申し訳ない。4月になったら、なんとか元に戻れる……かもしれません。

【ただいま読書中】『ヴォルテール、ただいま参上!』ハンス=ヨアヒム・シェートリヒ 著、 松永美穂 訳、 新潮社、2015年、1600円(税別)

 プロイセンのフリードリヒ王子はドイツ語は苦手でフランス語の方がよく理解できました。特にヴォルテールの著作を愛読し、フランスで逃亡者になっていたヴォルテールに“ファンレター”を送ります。次々に送られる手紙の内容は、ファンレターというよりもラブレターに近いものになっていきます。フリードリヒは何度もヴォルテールをベルリンに招待します。ヴォルテールは上手くその誘いをかわし続けますが、フリードリヒが王子から王になろうとしたとき、ついにヴォルテールはその招待を受ける決心をします。
 初めての出会いの日、フリードリヒは高熱で震えていました。ヴォルテールはキニーネの服用を勧め、侍医たちの反対を押し切ってフリードリヒは服用し、熱は下がりました。
 ヴォルテールの愛人シャトレ公爵夫人エミリーは、知性と教養と美貌に恵まれた女性でしたが、フリードリヒの狙いを「王座にある哲学者」の名前に箔をつけるためにヴォルテールをプロイセンに置いておきたいだけ、と看破します。しかしヴォルテールには、行き場所がなくなったフランスよりもプロイセンで若い国王の助言者として名を上げたいという野心がありました。
 フリードリヒは、哲学者としての面をヴォルテールに見せ続けていましたが、同時に大軍を派遣しての大量殺戮を繰り返していました。ヴォルテールと文通をしながら、フリードリヒのプロイセンはオーストリア方面に拡張をしていきます。では、次の目標は? フランス王室は「密偵」としてヴォルテールをプロイセンに送り込むことを考えつきます。ヴォルテールはふらふらします。
 愛人のエミリーを喪ったとき、ヴォルテールはついにプロイセンに行くことを決意します。フリードリヒは狂喜します。ルイ15世も喜びます。「こっちの宮廷から狂人が一人減った。フリードリヒの方には一人増えたというわけだ」と。
 フリードリヒは特別待遇をヴォルテールに与えます。ヴォルテールは妬みをかいますがそれでは満足せずにさらに経済的自立を目指して投機を行い、そのため訴訟沙汰にも巻き込まれます。また、プロイセンの宮廷に充満していた男性同性愛の雰囲気よりも、フランスの美女に囲まれた生活を懐かしみます。
 やがて二人の「蜜月」は「不仲」「反目」へと転落してしまいます。フリードリヒはヴォルテールのことを「オレンジをぎゅうぎゅうに絞って、皮を捨てる(利用するだけしてからヴォルテールを捨てる)」と近くの者に述べますが、それはそのままヴォルテールにも伝わります。「オレンジの皮」を守るためにヴォルテールは金をフランスに移します。そしてついに決別。しかしその別れも、すんなりとはいきません。ねちねちどろどろと「別れの儀式」は続きます。さらに、プロイセン王の不興を買った人物を、ルイ15世も喜んで受け入れたいとは思いませんでした。ヴォルテールは行き場所に困ります。
 「1734年にシレーに移った」「1741年に『マホメット』を出版」「51年に『ルイ14世の世紀』」などと年表には書かれますが、そのときに誰とどこでどんな生活をしていたか、それが活動にどのような影響を与えたか、を残されている情報を活用して実に生き生きと描き出している本です。本当にあったことをそのまま書いただけで、どうしてこんなに面白い本になるのでしょう。文才というのは、恐ろしいものです。



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