【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

タイガーマスク運動

2011-12-27 18:48:41 | Weblog

 「3/11」で報道がほとんど吹っ飛んでしまいましたが、そんなものがあったこと、覚えていますか?

【ただいま読書中】『飛行船の歴史と技術』牧野光雄 著、 成山堂書店、2010年、1800円(税別)

 飛行船は一時大ブームでした。飛行機には速度で負けますが、飛行機より大量に輸送できてエネルギーも節約でき、さらに長距離旅行では客船よりも快適で快速。難点は、水素ガスが爆発炎上することと、戦争では弱いこと。
 人が初めて空を飛んだのは、イカロス、ではなくて、モンゴルフィエ兄弟の熱気球です。1783年11月21日のことでした。その10日後には、同じフランス人のジャック・シャルルが水素気球での有人飛行を成功させています。飛行船の登場は1851年、ジファールが蒸気エンジンを搭載した飛行船を作製しました。最高時速は9.6kmでした。蒸気エンジンは重すぎ、電気モーター飛行船も試作されましたが、実用的な飛行船は、ベンツやダイムラーのガソリンエンジン開発を待たねばなりませんでした。はじめは軟式飛行船でしたが構造が弱くて大型化が難しく悪天候にも弱いものでした。1897年にシュヴァルツが当時の最新金属アルミニウムを使った硬式飛行船が初飛行をします。これはアルミの缶詰に水素を詰めたような物でした。ついでツェッペリンが、アルミの枠の中に水素ガス嚢をいくつも詰めた硬式飛行船を1900年に完成させます。初飛行は失敗して不時着。新聞は「狂人伯爵」と書き立てます。最終的に実験飛行は成功しますが、資金が尽き、ツェッペリンは会社を解散します。それでも後援者が登場し、妻の財産まで抵当に入れ、1903年(ライト兄弟が飛行機を初飛行させた年)にLZ2号の製作を開始します。1905年に初飛行には成功しますが、その夜の強風で船体は無残にも破壊されてしまいます。しかし国王が50万マルクの国費を投入、1906年に陸軍の“武器(海軍が弱いドイツ軍の「空の戦艦」)”としてLZ3が製作されます。LZ4では長距離飛行に挑戦。しかしまたも強風で大破・炎上をしてしまいます。さすがの“狂人伯爵”も絶望の淵に沈みますが、情勢が変わっていました。世間が飛行船に大きな期待をするようになっていたのです。激励の手紙と寄付金がどっと集まり、事故現場の名前をとって「エヒターディンゲンの奇跡」と呼ばれます。ツェッペリンは“国民的英雄”になっていたのです。ツェッペリンは「ツェッペリン飛行船有限会社」を設立し、続々飛行船を生産、1911年にはドイツ国内で定期飛行便が始まります。第一次世界大戦では軍用飛行船が大量に生産され(戦中にツェッペリンは88隻、シュッテ・ランツ社は20隻)、たとえばロンドン爆撃に使用されました(最大の爆撃は、1916年9月2日深夜、16隻の飛行船がロンドンとその周囲を襲い460発以上の爆弾を投下したものです)。高射砲や戦闘機の機能が向上したため、飛行船の高度は上げられ、高度5000~7000mを飛行する高空飛行船(ハイトクライマー)も造られます。結局飛行船は戦争には不向き、とわかりましたが、その性能は大きく向上し、戦争“以外”には“使える”ことがわかります。
 1929年にはグラーフ・ツェッペリン号が世界一周を成功させます。34,100km、21日7時間33分でした。北極探検にも使われます。
 相次ぐ事故を重く見たアメリカでは、水素の代わりにヘリウムを使うことにします。アメリカでは油田からのガスにヘリウムが多く含まれていて、他の国よりヘリウムを使いやすかったからでしょう。もしすべての飛行船が水素ではなくてヘリウムを使っていたら、「ヒンデンブルク号の悲劇」はなかったでしょう。大西洋横断の定期航路で巡航していたヒンデンブルク号は、本来はヘリウムを使用する設計だったのが、アメリカからの輸入が間に合わずに水素を入れ、それで浮遊力が増加したのでそのまま使われ続けていたのでした(だからグランドピアノも搭載できたのでした)。
 第二次世界大戦で飛行船の歴史は中断しますが、最近は「飛行機と飛行船」「ヘリコプターと飛行船」のハイブリッドが提案されているそうです。
 省エネという点から、飛行船は飛行機より有利です。エンジンを、揚力ではなくて推進力にだけ使えますから。なお、浮遊力は、地上レベルでヘリウム1立方メートルで約1キログラムです。空中停止もできますし、その時ヘリコプターと違って下降気流を発生させません。問題は、強風事故対策と、格納。格納庫がとんでもなくでかくなります。地上のマストに係留する手もありますが、その場合にはマストを中心に飛行船の長さ分の半径の円の広さを確保する必要があります。また、燃料を消費したり貨物をおろしたらその分バラストを何か入れるかガスを減らす必要があります。
 とても面白いことに、ここで「水素」が再登場します。ただしこんどは「燃料」として。液体水素を搭載して、それをディーゼルエンジンで燃焼あるいは燃料電池で発電するのです。「ちょっと飛行船で観光旅行」という時代は、意外にすぐ近くなのかもしれません。少なくとも私は乗ってみたいな。




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