世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

春②

2017-12-06 04:12:57 | 風紋


精を出して色を塗って、子供のためにいいものをもらって来よう。色を塗った魚骨ビーズは、いろいろなものと交換できるのだ。エマナは子供を深く愛していた。トレクとのトラブルはあったが、もうそんなことはきれいに忘れるほどだった。

エマナは持って来た茅袋の口を開け、摘んだミンダの花をどんどんその中に入れていった。山の方から誰かが歩いてくるのに気付いたのは、その袋が半分くらい膨らんできたときのことだ。

「アシメック!!」

エマナはその人影を見て思わず叫んだ。人影がそれに答えて手を振った。アシメックがイタカの野を歩いている。何をしていたのかは、人づてに聞いて知っていた。彼はオラブのことが心配で、このところ毎日のように山に行っては、オラブに呼び掛けているのだ。

ちなみに、このころには尊称というものはない。族長や役男という身分はあったが、きつい身分制などはなかった。原始的平等というものだ。だから人々はえらいことをした族長であろうが役男であろうが、みんな呼び捨てにしていた。

「おお、エマナ、花を摘んでいるのか」

近づいてきて、自分を呼んだのがエマナだとわかったとき、アシメックは言った。あたたかい声だ。エマナはこの声が好きだった。

「子供を産んだところだ、まだ不自由だろう。手伝ってやるよ」

そういうと、アシメックは、野にしゃがみこみ、ミンダの花を摘み始めた。エマナは、有頂天になるほどうれしかった。アシメックはこういう男だ。相手が女だからと言って、偉そうになどしない。いつも自然に、いいことをしてくれる。




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