世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

アロンダ②

2018-01-24 04:12:37 | 風紋


美しい女だから、男たちの見る目も違うのだが、まだ子供はいなかった。まともに交渉を挑んでくる男がいなかったのだ。またアロンダも、この人と思う男はいなかった。族長のゴリンゴは年が少々離れていたし、同じ世代の男ではものたりないものを感じていた。

なお、ケセン川のことを、ヤルスベ側では、ミタイト川という。こういう歌があった。

ミタイトの水は恋の水
愛しい人を思うてくめば
神のなさけがあふれて
くるぞ 愛しい人が
おまえのもとに

そういう歌を歌いながら、女たちは行列を作り、川の水を汲みにいくのだ。

アロンダはみなと一緒に川岸につくと、川の水を汲みながら、対岸を見た。向こう岸はカシワナ族の村だ。緩やかな岸辺の地形に、茅草が茂っている。そんなに遠くない。舟で渡ればすぐだし、泳いででも簡単に向こう岸にはたどり着ける。だがそれでも、アロンダにとってはどこよりも遠いところなのだ。

壺の中に水を入れながら、アロンダの目は見るともなく遠い記憶を見ている。あのとき、あの男が無理矢理自分を後ろに引き戻し、前に立って自分を守ってくれた。そのたくましい背中が、まだ忘れられないのだ。

馬鹿なことを、と思う。ヤルスベ族の女にとっては、他部族の男など蛙よりも嫌いなものなのだ。絶対に男と女の仲になどなりたくない。はずなのだ。




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