世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

偶数の羽⑥

2018-02-26 04:12:45 | 風紋


近づいて来るカシワナの岸を見つめていると、その上に、見も知らぬ暗雲が漂ってきている気がした。

そして、冬になる前に、アシメックはようやく、オラブを探すための山狩りを実行した。男たちを集め、山の中をオラブの名を呼びながら探させた。境界の岩を超えることはできないが、呼んでいるうちに答えがあるかもしれない。

ほとんど葉を落とした木々が、山を歩き回る人間たちを冷たく見降ろしていた。夏鳥は去っていた。もう少しすると雪が降るだろう。あまり深入りすることはできない。アシメックは境界の岩のそばに立ち、山の奥を見た。山の木々が作る闇も、梢がすいて幾分明るく見えた。だが、わけのわからない闇がそこに巣くっているような気がする。

みんなで何度も声を枯らして呼んでみたが、結局オラブは見つからなかった。

捜索が無駄なことだとわかってくると、アシメックはみなを帰らせた。男たちは悔しそうに帰っていく。アシメックだけは、未練があるように、しばし山に残った。日が暮れる前に帰らねばならないが、まだ何かできることはないかと思うと足が動かなかった。

何もできないのか、おれは。このまま放っておくことはできないというのに。アシメックは足元の土をにらみながら思った。

「オラブはもうすぐ死ぬわ」

ふと、後ろから声がした。アシメックは驚いて振り向いた。すると、少し山を登ったところに女がいる。




この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 偶数の羽⑤ | トップ | 偶数の羽⑦ »
最新の画像もっと見る

風紋」カテゴリの最新記事