世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

偶数の羽③

2018-02-23 04:12:43 | 風紋


翌日、アシメックは楽師たちに言って、川べりで歌を歌わせた。明日おわびにいくということを、ヤルスベ側に知らせたのだ。品物は整った。ソミナに頼んで自分の衣装も整えた。正式なお詫びとして、族長がヤルスベの女の家を訪ねねばならない。

これが終わったら、本気でオラブの山狩りを考えねばなるまい。アシメックは楽師たちのそばで向こう岸を見つめながら思った。放っておいては、また同じことが起こる恐れがある。

彼はその足でイタカに向かい、野の端からアルカ山を眺めた。あそこでオラブは暮らしているのだろう。神にも人にも背を向けて、永遠の闇に向かおうとしているのだ。死んでアルカラに行くことはできまい。ここまで来たら、アシメックも彼を何とかしてやろうとする気持ちが起きてこなかった。

エルヅのように生きる道を探ってやりたかったが。何度も何度も、それを試そうとしたが。

思いをかけてもかなわぬことはある。熱を入れてやってもできないことはある。前の族長が言っていた。頑張っても無駄だったことは、たくさんあったと。そこをなんとかしていくのが、族長だと。

翌日、彼はソミナに手伝ってもらいながら、衣装を整え、正式の伺いの格好をした。四連の首飾りをつけ、六枚の羽の冠をつけた。偶数なのは、自分を低めるという意味だ。カシワナ族には、人に謝りに行くときは、偶数のもので身を飾るという風習があった。偶数は奇数より低いという感覚があったのだ。もちろんそんなことは、ヤルスベ族に伝わりはしない。だがそれでもやるのが、人の心というものだ。




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