部族の神カシワナカは、鷲の目と翼をもつ、とても立派な大きな男の姿をしているという。死者の霊魂が住むという美しいアルカラの国と、このカシワナ族の住む土地を作り、カシワナ族の人間とそれが生きるために必要なものを、すべて作ったという。
部族にはその神の偉大さと勇猛さを伝える話がいくつもあった。アシメックは幼い頃、それを母から何度も聞いた。そのすばらしい神が、いかにうまくカシワナ族の人間を作ってくれたか、カシワナ族を食おうとする魔物から、どんなに苦労をして守ってくれたか、母はすべてを知っていた。
アシメックの心の中には、いつも、大きな鷲の翼をもつ神カシワナカの姿があった。あのように生きたいと、思っていた。みなのために、よき知恵を教えてくれるフクロウを作ってくれたことの話など、美しいと言ったらない。思い出すたびに涙が出てくる。
カシワナカは、夜の森に迷い込み、寒さをしのぐ知恵すらもない人間を見て哀れと思った。そこで枯れ葉を集め、そこに水に映った月を込めた石を二つ入れて、命を吹き込み、フクロウを作った。そしてフクロウに不思議な歌を教えた。人間はそのフクロウの声を初めて聴いた時、自分の中に不思議な知恵の泉ができたという。その泉から、いろいろなことを考えることができる力がわいてきた。そして人間は初めて、火を起こすことを考え付いたのだ。
カシワナカは、人間のためになることをなんでもやってくれた。アシメックにとってカシワナカは、自分の生き方そのものだった。カシワナカがしてくれたようなことを、族長として、みなのためにすべてやっていきたかった。