世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

鷲①

2018-02-03 04:12:46 | 風紋


アシメックは山の中にいた。オラブを探しているのだ。

春になれば一度人を繰り出して山狩りをせねばならないと思っていたが、みな忙しく、結局できないまま秋になっている。それが気になっていたので、アシメックは一人で山に来ていたのだ。

オラブはこの山のどこかに住んでいるのだろう。姿を見たものはいなかったが、それらしい痕跡を見たものはいた。誰かが木の皮を無理矢理引き裂いたあとがあったというのだ。

山を大事にする村のものは、木を引き裂いたりなどしない。山の木は大切にしなければならないという、カシワナカの教えをちゃんと守っているからだ。木は人間に恵みをくれるのだ。大事にしなければ罰があたる。子供でも、そんなことはしない。

なぜ木を引き裂いたのか。おそらくネズミの巣か何かを探すためだろう、とミコルが言った。馬鹿な奴は飢えるとネズミでも食うのだ。だが村の人間はネズミだけは食わない。それは魔の使いだという言い伝えがあった。見るだけでぞっとするのだ。

ネズミを食べるフクロウは、それゆえに神性を持っていた。魔の使いをやっつけてもくれるのだ。

アシメックは境界の岩に立ち、そこから先に行こうかどうか迷った。オラブはこの岩の向こうのどこかにいるに違いなかった。だが行こうとしても足が動かなかった。一度踏み込んだことはあったが、それは見事に自分の中に痛い記憶として残っていた。

先祖や神の教えを破るのは、やるべきことではない。自分の何かが汚れるような気がする。




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