大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「所有者不明土地を隣接地とする土地について分筆の登記等を可能とするための筆界特定手続の取扱要領(案)」について

2016-09-02 17:07:49 | 日記
タイトルの「案」(略して「所有者不明土地用筆界特定」・・・・あまり略したメリットを感じない長さですが・・・)ができていて、その検討がなされている、ということを今月の「Eメールマンスリー」で初めて知りました。情報に疎くなってしまっていていけません。

「案」を読んでみての感想は、「目指しているものはいいのに、なぜこういうことになっちゃうの?」 です。以下、そう思う理由等について書きます。

まず、そもそもこの「所有者不明土地用筆界特定」とは、どういうものとして考えられているのか?ということを紹介します。

冒頭に「目的」が明らかにされています。
「昨今、相続の発生や地方から都市への人口移動などにより、不動産登記簿等から所有者が直ちに判明しない、または判明しても連絡を取ることができない土地(以下「所有者不明土地」という)が増加しており、今後、隣接地所有者による筆界の確認ができないために分筆の登記又は地積更正の登記が事実上困難となる事案が増加することが懸念される。このような所有者不明土地を隣接地とする土地の分筆の登記又は地積更正の登記を可能とするための方策として、筆界特定制度を活用することが考えられる。」
というものです。

隣接地の所有者が所在不明の場合に分筆登記等ができなくなってしまうのであれば困る、と言うか、そんな状態にしてしまうことがよくないのは明らかですので、どうにかしなくてはいけない、ということが考えられるのはいいことです。
そして、そのために筆界特定制度が有用である、というのもその通りだと思います。
だから、「目指しているもの」はいいのだと思います。

しかし、ここで考えておかなければならないのは、隣接地所有者が所在不明だと分筆登記等ができない」というのは、現実の問題として、分筆登記等を行おうとする土地と隣接地との筆界を確認するためには「隣接地所有者」との立会によって同意を得ることが必要とされている、という「現実」「実態」が一般的なものである、という前提のうえでのことだ、ということです。
この前提の上で問題を立てていたのでは、本質的な問題の解決に近づくことはできないように思えます。
それは、「土地所有者が自分の土地の筆界を知っている」ということがかつては一般的であったけれども、そういう時代が終わろうとしているからです。「案」の「目的」の冒頭に言われているように、まさに問題は「相続の発生や地方から都市への人口移動などにより」生まれているものです。これにより、所有者が不明になるだけでなく、所有者自体は判明して連絡を取ることができるにもかかわらず筆界については何も知らずしたがってその「確認」のしようがない、という事案も増加することが懸念されるわけです。
このような場合には、筆界の位置を客観的に明らかにする、ということが重要になります。その一つの形態が筆界特定制度であり、そのようなものとして「筆界特定制度を活用すること」の意味は大きい、と言えます。
問題は、単に「所有者不明」ということだけには限られないのであり、「所有者不明」を生み出す社会の環境変化への対応、ということとして考える必要があるのでしょう。

筆界特定制度が所有者不明土地との筆界を特定するために有用である、ということは、別にいまに始まったことではありません。制度発足当初に調査した時点でも、全体の6%は「隣接地の所有者不明」を理由とする申請でした(日調連平成21年調査)。このペースだと、これまでで1500件ほどは「所有者不明」を理由に筆界特定申請がなされ、筆界特定の上で分筆登記等が処理された、ということになるのかと思われます。
では、なぜ今、「所有者不明土地用筆界特定」というものが改めて問題にされるのでしょう?
おそらく、筆界特定手続に時間がかかりすぎる、という「現実」がある、ということなのかと思います。「普通の筆界特定手続」をすると、大体6ヶ月くらいはかかってしまう、これでは分筆登記等の必要性に十分に答えられないので、迅速に処理ができるようにしなければならない、ということなのでしょう。
そのために「所有者不明土地用筆界特定」という、「普通の筆界特定」とは違う類型を考えた、ということなのかと思われるわけです。

たしかに、ただ隣接地の所有者が不明だ、というだけで、分筆登記をするのに6ヶ月も待たなければならない、というのは納得できることではありません。もう少し早く筆界特定がなされてもいいのではないか、と思います。
しかし、これは単に「隣接地の所有者不明」の場合だけではありません。筆界の位置が表面的な資料からはなかなか判断が付かず、当事者同士の紛争性も高いような場合には、「6ヶ月」くらいの期間を要してもしかたないと思いますが、筆界の位置は資料上も現地の状況からも明々白々なのに隣接地所有者が対応してくれない、とか、まったく荒唐無稽なことを言って筆界確認ができずにやむを得ず筆界特定申請に及んだ、というような場合にも「6ヶ月」かかってしまう、というのも納得できるものではありません。
要するに、事案の特性をしっかりと把握して、それに応じた手続がなされるようにする、ということが重要なのだと思います。

このことは、「案」においても意識されてはいるようです。たとえば、「①現地復元性のある資料がない、②公図等と占有状態が大きく相違している等」の事案については「本取扱いによる筆界特定手続が可能か否かも含めて検討を行う」ものとされています。迅速で簡易な手続で済ませるかどうか、ということは「所有者不明」かどうかによるのではなく、筆界を特定することの困難性の程度による、ということを明確にするべきなのだと思います。

なお、この「所有者不明土地用筆界特定」において、手続を迅速に進めるために必要とされていることは、「申請代理人による事前準備調査に準ずる調査及び意見書(案)の作成」だとされています。
これについても、「所有者不明土地用筆界特定」だけに限られる問題ではありません。私たちは、すべての筆界特定手続において、代理人である土地家屋調査士は、事前の調査とその結果の意見書としての提出が必要だ、としてきました。そして、その提出のなされた事件においては、その提出のない事件に比べて迅速な筆界特定手続を行うようにするべきだ、と考えてきました。
残念ながら「現実」はそのようには進まないものが多かったのですが、そのような「現実」こそが見直されなければならないのだと思います。問題を「所有者不明土地用筆界特定」だけに限ってしまうのは、その水戸をかえって閉ざしてしまうように思えてしまいます。
「所有者不明土地用筆界特定」だけに限らず、事案の特性を踏まえて、また、代理人による調査結果を有効に活用して、その事案に即した迅速な手続を目指す、ということを明らかに須べきだと思います。

以上のように、「所有者不明土地用筆界特定」は、目指すべきものはよく、その意味で推進されるべきものだとは思うのですが、「案」のようなものだと、結局実際に役立つ場面をあまり得ずに終わってしまうような気がします。
それは、本質的には、社会の構造的な変化に対する根本的な対応ではなく、「所有者不明土地」という現象への対症療法的対応に過ぎなくなっていることによります。また現実の問題としては、筆界特定事件に関する内容的な分析・判断の上で具体的な方針を考えるのではなく、「所有者不明土地」かどうかという形式的・外形的な事柄への判断の上で定型的な処理をしようとするものであること、において方向性が違ってきてしまっているのではないか、と思えるのです。
このような傾向というのは、やっぱり行政機関的な(官僚機構的な、と言ってもいいのですが)考え方だな、という気がします(そういえば、「案」の中で「法務局職員」という用語が頻出しています。実質的な判断ではなく、形式的な適合性を問う文脈の中で出てくる用語のような気がします)。

民間の資格者である土地家屋調査士としては、行政的な手続が形式的なものに流れていくのに対して、実質的な有効性を持つものになるよう、積極的な提案やサポートをしていく必要があります。
私たちはそういう役割を果たせてきているのか?・・・問い直す必要があるのでしょう。



コメントを投稿