夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『痛くない死に方』

2021年05月02日 | 映画(あ行)
『痛くない死に方』
監督:高橋伴明
出演:柄本佑,奥田瑛二,坂井真紀,余貴美子,大谷直子,宇崎竜童,大西信満,
   大西礼芳,下元史朗,藤本泉,梅舟惟永,諏訪太朗,田中美奈子他
 
観逃していた作品を観る機会に恵まれる緊急事態宣言発令下。
大阪では2館しか営業していないのですから、どちらかに行くしかない。
九条はやっぱりちょっと遠くて十三へ。
サンポードシティの6階が第七藝術劇場、
その1階下、5階に入っているシアターセブンにて。
以前は別経営でしたが今は同じだから、会員カードも共通です。
 
尼崎市で長尾クリニックを経営する長尾和宏氏。
鑑賞前、私はその長尾さんをモデルにした作品だと思い込んでいました。
若かりし日の長尾さん役を柄本佑が演じているのだと。違った。
本作は長尾さんの著作『痛い在宅医』と『痛くない死に方』をモチーフにしており、
彼をモデルにしているのは、柄本佑の先輩である奥田瑛二演じる役でした。
監督は『BOX 袴田事件 命とは』(2010)の高橋伴明。
 
若き医師・河田仁(柄本佑)は在宅医となることを選択するが、
昼夜関係なく鳴る電話に妻(梅舟惟永)は辟易、離婚を言い渡される。
別居後は払えそうにもない額の生活費を要求されて悶々。
 
今さら病院勤務に戻ることもできず、在宅医を続ける河田は、
在宅医療を希望する患者の家族に対しておざなりな態度。
患者が家族に看取られて逝くのを待ち、形式的に臨終を告げるのみ。
 
そんなある日、河田が看ていた患者・井上敏夫(田村泰二郎)が亡くなる。
娘の智美(坂井真紀)とその夫(大西信満)が献身的な介護をおこなってきたが、
智美からSOSが発せられても河田が駆けつけることはなく、
敏夫は苦しんだまま凄絶な最期を迎えてしまう。
 
「在宅医療で河田先生に看てもらうことを選んだ私の心が痛い」。
そう言って泣く智美を見て凹む河田は、先輩在宅医・長野浩平(奥田瑛二)に相談。
長野の患者の最期に立ち会わせてもらい、その看取り方に驚くのだが……。
 
序盤は少し苦手でした。
事実に基づいている部分はいくつもあるのでしょうけれど、
坂井真紀の泣きわめく姿などにちょっと胡散臭さを感じてしまって。
大西信満が義父を介護する姿も出来過ぎというのか、
こんなに協力的で優しい旦那さん、そうそうおるもんかとも思い(笑)。
 
ところが、肝癌末期患者・本多彰(宇崎竜童)が登場すると、その胡散臭さが吹っ飛ぶ。
河田と、彼に同行するベテラン看護師・中井春菜(余貴美子)、
それに本多自身と彼の妻・しぐれ(大谷直子)との間の会話が非常に楽しく温かく、
こんな人生の終え方ができたらなぁと思えます。
おざなりなときの河田に同行していた看護師・梅村典子(藤本泉)にもここにいてほしかった。
もとは河田よりも彼女のほうがよほど親身だったのに。
 
河田が欠かさず井上の墓参りに訪れていたことを智美が知るシーンも好きです。
声をかけるでもなく、ただ河田の背中を見守る智美の表情の柔らかいこと。
序盤、胡散臭いなんて言ってごめんね坂井真紀様、と思いました(笑)。
 
腹水は無理に抜かない。体内に水がある間、人間は生きていられる。
利尿剤で自然に外に出して、上手に枯れていくのを待つのみ。
体を溺れさせてはいけないのだと知りました。

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