実務家弁護士の法解釈のギモン

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時効の効力は権利の取得?消滅?(3)

2017-05-19 09:37:26 | 民法総則
 以上とは別に、時効の存在根拠は何かという問題がある。一般に3つの根拠が言われており、①権利の上に眠る者は保護しない、②事実状態の法的保護、③証拠の散逸からの救済、の3つが併存しているような状況である。
 かつては、このうち、①権利の上に眠る者は保護しないという点が強調されていたやに思われるが、最近は、③証拠の散逸からの救済に主力がおかれているであろうか。
 しかし、①と③では意味合いが大分異なる。①は、消滅時効で言えば、もともと存在していた権利も、長い間権利行使ないでいれば、裁判所はそのような者を保護しないというのであるから、有が無に変身する理屈である。取得時効は逆で、無から有が生じることを是認する理屈である。これに対し、③は、消滅時効で言えば、本来は債務が消滅しているのであるが、長期間経過したことにより証拠が散逸し債務消滅を証明できなくなってしまうことがあるから、これを救済するために時効の援用をすることを認めたものと理解することになる。要は、本来無であるものについて無の効力を維持させるものである。取得時効は逆で、有であるものについて有の効力を維持させるものと理解される。②の、事実状態の法的保護という存在根拠は、特に取得時効で問題となりやすいが、どちらかというと無から有を生じさせるものと理解されがちである。そうだとすると、時効の存在根拠の中で、③だけが異質ということになるが、近年はこれが強調されることになっていると言うことだろう。

 しかしである。それでは、時効の存在根拠を③を中心に考えたとして、これと時効の効力に関する学説との関係はどうなのか。時効の存在根拠として③を中心に考えて無は無のまま、有は有のままと言っているにもかかわらず、時効の効力に関する学説では、有を無にする関係、無を有にする関係を一生懸命議論しているのである。まるであべこべである。
 もちろん、学者は、いくら時効の存在根拠を③を中心に考えたとしても、有が無になる場面、無が有になる場面が現実に起こりうるから、そのような場面も想定した上での議論であると言いたいのであろう。それはそれで分からないわけではないのだが、では、時効を援用せずに本来無であったものに対して弁済してしまったらどうなのか、あるいは時効を援用せずに本来有であった所有権を行使しなかったらどうなるのか。これは、時効の効力に関する学説が想定する場面に対する裏の問題である。表があり得るなら当然裏もあり得るはずである。この裏に対する答えはあるのだろうか。