常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

シオンの咲くころ

2023年09月19日 | 読書
本棚から整理すべき本を、一冊、また一冊と取り出している。もう読むことはないな思う本にも、過去の記憶が体内の深いところで眠っていることがある。ちょっと、ページを繰ってみると、そこのは思いもよらない宝石のような記憶がよみがえってくることがある。シオンが咲いて、いよいよ秋が来たな、と思う日の午後であった。この日、手に取ったのは岩波文庫、ラム『エリア随筆』。本の帯に岩波文庫創刊60周年記念リクエスト復刊と大書されている。

ラムがイギリスの随筆家であることはつとに知られている。ラムについて、その人となりをチャットjtpに聞いてみた。ラムはロンドで1782年に生まれ、1834年に52年の生涯を閉じている。クライスト・ホスピタル校に学び在学中に、著名な詩人と親交を結んでいる。卒業後は南海会社から東インド会社に転職、30年もの長い期間勤めている。恩給をもらって退職したというが、ほぼ生涯をこの貿易会社に勤めていたことになる。エリア随筆は、仕事をしながら書いたエッセイ男である。ラストエッセイとして1833年の執筆されたものがあるから、書き始めて10年、死の前年まで書き継いだものだ。

何故、自分の本棚に、この一冊があるのか。思い返せば、40年も前に参加していた読書会がこの本を買うことになった動機と思われる。ビブリアの会と名付けられていた。会員は主に、高校の先生方であった。一時期のテーマがシェイクスピアであった。ラムはシェイクスピアを敬愛し、『シェイクスピア物語』という本も書いている。ページを繰ると、「私の初めての芝居見物」という一項がある。ラムが6歳から7歳ころ、親に連れられて芝居見物に行った回想が書かれている。ラムが行った小屋は、舞台と土間、そして土間に被さるようにのびる桟敷。そこには高貴な、ご婦人方が大勢いた。芝居の始まるのを、期待をこめて待つ少年の姿が描かれている。

「ついにオーケストラの光明があがると、あの「美しい曙の女神よ」との声がきこえる。鐘が一度響き渡った。もう一度それは鳴らなければならない。待ち遠しくてたまらなくて、私はもう思い切ったというようにして、目を閉じ母の膝の上に身を伏せてしまった。すると二度目のが鳴った。幕が上げられた。(中略)するとそこに古代のペルシャの宮廷があらわれたのである。かくして過去の光景の中に入るを許されたのであった。」

ラムは芝居でシェイクスピア劇も見たに違いない。その頃、私はテレビで流れるシェイクスピアの映画を何度見たことか。劇中に出てくる役者の息づかい、荒々しい言葉。役者の演じる悩みは、自分の悩みにつながってきた。ラムの子どものころの芝居体験が、当時テレビのなかで共有できた。いま、「寅さん」シリーズもこんな体験と重なって見えてくる。
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