まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.なぜ生体移植に反対するんですか?

2011-11-10 18:06:53 | 生老病死の倫理学
看護学校で脳死臓器移植についての話をして、
そのついでに生体移植についても触れ、私は生体移植には反対ですと述べました。
それに対して、次のような質問というか、反論をいただきました。

「先生は、生きている人から臓器提供することは傷害罪にあたるとか、
 やってはいけないとか言いますが、
 自分の大切な人のために自分の臓器をわたすこともおかしいと思いますか?
 私は、自分のもっているもので大切な人が助かるなら全然おしみません。」

この意見は、完全にドナー (あげる方) の立場から論じていますね。
その観点に立つならばたしかに、大切な人のために自分の臓器をあげたいと思う気持ちは、
私にも理解できます。
しかし、この問題はただドナーの立場から、
「あげたいからあげる」 で片付く問題ではありません。
レシピエント (もらう方) と医療関係者 (取り出す方) の側からも考えてみる必要があります。

自分が人から臓器を提供してもらわなければならない難病にかかってしまったとき、
あなたは自分の大切な人に自分のほうから 「腎臓を1個ください」 とか、
「肝臓を少し切り分けてください」 とお願いするでしょうか?
また、相手のほうから 「私のを使ってください」 と切り出してきてくれたとき、
じゃあと言って、そんなにほいほいと軽々しくもらうことができるでしょうか?
自分のをあげるというのはわりと快く決断できる場合が多いですが、
人からもらう、特に自分の大切な人からもらうというのは、
そんなに簡単なことではないように思うのです。
ここにもパターナリズムが発生していますね。
「私の中のあなた」 という映画をぜひ見てみてほしいと思います。
この映画は表面上は、あげたいとは思わないドナーのことを描いていますが、
実はレシピエントの側からこの問題がどう見えるかも描かれていて秀逸です。

しかしながら、私が生体移植に反対するのは、ドナーやレシピエントよりも、
医療者の立場に立って考えたときに容認できないと考えるからです。
臓器移植というのは、必ず医療者が媒介となって、ドナーから臓器を取り出し、
レシピエントに移植するという医療行為をしなければなりません。
自分で取り出して相手に移植してあげるというわけにはいかないのです。
つまり、自分と相手の気持ちだけで何とかなる問題ではありません。
間に医療者が入るのです。
医療者はレシピエントを助けたいと思って移植をするわけですが、
それはたしかに医療行為かもしれませんが、
ドナーから臓器を摘出するという部分は、ドナーにとっての医療行為ではないのです。

一番わかりやすい例は、心臓移植が必要な難病の患者とその家族の場合でしょう。
例えば自分の子どもが心臓移植が必要で、自分の心臓がその子に適合しているとしましょう。
そのとき多くの人は、自分の心臓で子どもが助かるならぜひ自分の心臓をあげたいと思い、
主治医に心臓移植をしてくれるように頼むかもしれません。
しかし、医療者としてはそれは絶対にやってはいけませんね。
心臓を摘出してしまったらその人は死んでしまいます。
そんなことをしたら殺人になってしまうのです。
どんなに本人たちが希望していたとしても、それをやってはいけないということは、
誰にでも理解してもらえるのではないでしょうか。

では、ドナーが死にさえしなければ何をやってもよいのでしょうか?
腎臓が2個あるというのは人間にはみんな1個よけいに腎臓がついているのでしょうか。
肝臓があの大きさであるというのは、肝臓は不必要に大きいのでしょうか。
そんなことはないはずで、腎臓が1個になってしまえば血液浄化能力は落ちてしまうし、
肝臓を小さくしてしまえば、脂質やアルコール等々の分解能力は落ちてしまうでしょう。
つまり、健康ではなくなってしまうのです。
人の身体を切り裂いて臓器を摘出し、その健康にダメージを与えるとするならば、
それは傷害行為以外の何ものでもないと思うのです。
レシピエントにとっては臓器移植かもしれませんが、
ドナーに対しては臓器摘出は傷害行為なのです。
だからこそ、臓器移植は死体からのみ行うべきだと思うのです。
ドナーがあげたいと思っているかどうかは関係ありません。
ドナーの思いとは関係なく、医療者にはやっていいことといけないことがあると思うのです。

以上が今回の質問に対するお答えになります。
とはいえ、これで決着がつく問題とも思っていません。
現実に医療の世界では生体移植が当たり前のように行われています。
そうしなければならない現実があるのも事実です。
それらをふまえてさらに考え続けていきたいと思います。


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