まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.倫理学を教える上で難しいと感じることは何ですか?

2009-09-30 19:26:28 | 哲学・倫理学ファック
例年より1日早いですが、今日から看護学校の授業が始まりました。
いつものように初日は、「倫理学の先生に聞いてみたいこと」 からスタートです。
今日もなかなかいい質問や鋭い質問を受けて、なんとか答えてきましたが、
授業中に代表質問として選ばれなかった質問にお答えしていきます。

こんな質問もありました。
「Q.倫理学の教員になってよかったと思うことと、大変だと思うことは何ですか?」
よかったことのほうはまたにして、今日は大変なほうだけお答えします。

これは倫理学に限らず、哲学も同じなんですが、
哲学や倫理学は、実証科学のようにはっきりと答えが出ません。
というよりも、学問のなかで実証的に証明することができずに残された問いが、
哲学や倫理学の問いなのです。
だから、実験や観察やアンケート調査をしてスパッと答えを出すということができません。

しかし、学生の皆さんは小・中・高とずっと答えを出すことを要求されてきましたし、
答えを見つけようとがんばってきたはずです。
だから、そんなところへ、ひとつの正解があるわけじゃないよ、
でも考え続けなければいけないんだよ、と言われても、
今までやってきたこと、やらされてきたこととあまりに違いすぎるので、
なんでそんなことをしなきゃいけないのか、わかってもらえない場合が多いのです。
というわけでお答えは次のようになります。

A.ひとつの正解があるわけではない、けれども考え続けなければいけない、
  そういう問題がこの世にはあり、それを考え続けることには意義がある、
  ということを学生の皆さんに納得してもらえるように説明するのが難しいです。

(ここから先は長くなっちゃいますので、飽きちゃった人は読まなくても大丈夫です)

例えば 「自衛戦争は正しいか正しくないか?」 という倫理学の問いがあります。
これに対しては大ざっぱに言うと2種類の答えが可能で、
「自衛戦争は正しい (または許される)」 という答えと、
「自衛戦争も含めてすべての戦争は正しくない」 という答えがありえます。
この手の自分からは遠い (?) 質問に対しては、
多くの人がどちらかが正解でどちらかは不正解であると考えます。
つまり、自分の意見が正解で、反対の意見をもっている人は間違っていると考えるのです。
しかし、現在までのところ倫理学の中でこの問題に対して結着はついておらず、
正解は出されていません。
もちろん、私もこの問いに対しては自分なりの意見はもっていますが、
それが正解であるとは断言できないのです。
いずれ答えが出る日が来るのか、絶対にひとつの正解がないのかもわかりませんが、
しかしこの問題については世界中の人が考え続けていかなければなりません。
このように聞いて、うん大事な問題だから考え続けていこう、
とみんなに思ってもらえるといいのですが、
たいていの人は、なんだよだったらいいよオレはオレで自分の意見だけもっとくから、
とそこで考えるのをやめてしまうのです。

ここが難しいところだなあと思います。
しかし、もう少し自分に近い問いだったら、正解がなくても考え続けなければいけない、
ということを理解してもらえるのではないでしょうか。
例えば、「自分はどんな職業に就いたらいいのか」 とか、
「AさんとBさん、どちらを選んだらいいのか」 とか
「自分はどのように生きていったらいいのか」 といったような問題です。
これらも、こちらを選べばいいとか、こう生きればいいなんて、
実証的にひとつの答えを決めることができません。
でも考え続けなければならない問いのはずです。
たとえ、いったん看護師になってしまったり、誰かと結婚してしまったとしても、
それで永久に問いが解消するわけではなく、
つねにつねに、どのように生きたらいいかを考え続けなければならないのです。

それほど、ひとりひとりに近い問題を哲学や倫理学が考えてくれるわけではなく、
そういう問題は自分で考え続けなければいけないのですが、
それと同じような種類の問題がこの世にはまだいろいろあって、
それを考え続けていくのが哲学・倫理学なのです。
正解は出ないけれども、大事そうじゃないですか。
と思ってもらえたでしょうか?
うーん難しいなあ、これを説明するのは…。
大変だあ。でもがんばらなきゃ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 三春病院合同研修会 「倫理学... | トップ | Q.人生で一番の失敗はなん... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

哲学・倫理学ファック」カテゴリの最新記事