まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.相手のことが分かってしまうものですか?

2016-09-05 18:10:27 | 哲学・倫理学ファック
さて、また倫理学FAQにお答えする季節がやってきました。
昨日書き忘れましたが、FAQというのは 「Frequently Asked Questions」 の略、
すなわち、「よくある質問」 という意味です。
カテゴリー名称では 「FAQ」 をカタカナ読みしてしまっていますが、
未だこの件に関して突っ込まれたことは一度もありません。
それはさておき。

今日取り上げるのはまさに 「よくある質問」 というか、今年は3人からいっぺんに聞かれた質問です。
標記の質問は正確にはこんなふうに聞かれていました。

「Q.相手のこと (例えば、気持ち、考え) が分かってしまうものですか?」

そのほかこんなふうな聞き方もされていました。

「Q.1回その人を見たら大体こういう人だろうと分かりますか?」

「Q.目の前にいる人が考えていることわかりますか?」

ええっとまあ、看護学校の授業では1コマめに 「汝自身を知れ」 ということで、
自分自身がどういう人間かを知ってもらうワークをやってもらったあと、
2コマめに入ってすぐに 「倫理学の先生に聞きたいこと」 の質問を列挙してもらっていますから、
この授業を心理学の授業と勘違いしたまま質問を考えてくれる人もいるようなので、
こんな感じの質問が増えてしまうのでしょう。
私としては、「汝自身を知れ」 というデルフォイの神殿の箴言の本来の意味や、
それをソクラテスがどう解釈したかという意味も説明して、
倫理学と心理学は違いますよということも説明しておいたつもりなんですが、
なかなかそのあたりのニュアンスを一発で理解してもらうのは難しいようです。
それにそもそも心理学だって、本来は相手の心を読むような学問ではありませんので、
(そのように誤解させる本が出回っているのでその手の混同は広く流布してしまっていますが…)
そんなことはどう考えたってムリなのですが、
若い人たちのあいだには、相手の心を読むことへの願望が根強く残っているのでしょう。
とりあえず端的にお答えしておきましょう。

A.人の気持ちや考えなんてまったくわかりません。
  何度会ったことがあろうが、家族や友人など長年連れ添った仲だとしても、
  本人からはっきりと言ってもらわないかぎりは、
  相手が心のなかで何を考えているのか、その人が本当はどういう人なのかなんて、
  けっして見抜くことなどできません。

心理学者にだって人の心を読むことなどできないのですから、
一介の倫理学者にすぎない私にはけっしてそんなことムリでしょう。
そもそもそんなことに興味ないですし。
たまに誰かと気持ちが行き違ったりしてしまったら、
人の気持ちを読み取ることができたらいいのにと、
オカルト的に望んでしまったすることもないではないですが、
それはあくまでも、空を飛んだり時間を逆戻ししたいという願望と同様の、
子どもっぽい空虚な願いとわかった上での絵空事にすぎないわけです。
実際には人間というのは、他人の思いや相手の本当の姿がわからないからこそ、
悩み傷ついたりもするけれど、生きていて面白いのではないでしょうか。
最初の質問を聞いてくれた人は続けて次のような質問もしてくれていました。

「Q.相手のこと (例えば、気持ち、考え) が分かってしまうものですか?
   もしそうだとしたら、結婚、交際が難しいですか?」

たしかに相手の気持ちや考えがわかるようになってしまったら、
ある意味では生きるのがラクになるかもしれませんが、
それと同時にむしろ人と一緒に生きていくのがツラく、難しくなってしまうかもしれませんね。
こちらの言動に対して相手がチッと心のなかで舌打ちしていたり、
ニッコリ笑ってものすごい腹黒いことを企んだりしているのがわかってしまうわけですから、
むしろ人間不信に陥ってしまうかもしれません。
誰の心も読みたくないと引きこもりになってしまう、なんてこともありえるでしょう。
結婚や交際なんてとてもやっていられなくなるのではないでしょうか。

というわけで、どんな学問を修めたとしても人の気持ちや相手の本性を見抜くことなど、
けっしてできるようにはなりませんので、
私たちにできる範囲内で努力しながら人付き合いをしていってもらえればと思います。
私たちにできる範囲内での努力とは、相手の言語的表現や非言語的表現を一つ一つ読み取って、
それが何を意味するのかを推測し、それにどう対応したらいいかを想像して順番に試してみて、
合っていたか間違っていたかをそのつど確認しながら、
少しずつ自分の推測や想像の精度を高めていくという、
誰もがこれまでの人生でずっと続けてきた努力のことにほかなりません。
そういう地道な努力をすっ飛ばして、簡単に人の心を読めるようになる抜け道なんてありませんので、
安心して何度もつまづきながら、長く険しい人付き合いの王道を歩んでいってください。

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