新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

6月19日 その2 M&Aの難しさ

2017-06-19 07:55:56 | コラム
M&Aの難しさと問題点:

畏友尾形美明氏が最近の日本郵政の海外におけるM&Aの結果で4,000億円の損失を計上し、野村不動産の買収を延期した等の事例を挙げてM&Aの難しさという問題を提起された。そこで、今や創立当時の木材会社に回帰した我がW社と、世界最大の製紙会社International Paperの例を挙げてみよう。

Weyerhaeuser Company(1900年創立)の例を顧みると、8代目のCEOにしてウエアーハウザー家4代目の当主だったジョージは会社をForbesの40位以内の企業に大発展させた過程で決してM&Aをしないことを社是としていた。(海運部門などの別会社は設立し、十條製紙=現日本製紙との合弁会社は設立したが)因みに、ジョージとファースネームで呼ぶ理由は、彼がそう呼べと我々社員に求めていたことに従っているのだ。

ところが、ジョージがリタイヤーした後の一族以外のCEOが、同業他社から勧誘してきた10代目のCEOは禁じ手(?)のM&Aを続々と敢行し、売上高をジョージ時代の2倍に近く増加させた。しかし、その後アメリカの景気が変わってICT化が進んでいく中で、買収したカナダ最大の紙パルプ林産物メーカーM社を売却し、2000年代に入っては紙パルプ事業部門の整理にまで着手しただった。私は既にリタイヤーした後のことでその経緯は不明だが、M&Aが成功したのではなかった様子だ。

そのリストラをW社の経営陣が機を見るに敏だったと見るのか、または事業拡張の失敗だったのかは不明でだ。だが、少しでも業界の将来を予見してあれば無用な拡張だったと言えなくもなかったかと危惧する。今や、アメリカの上位10社以内の大手メーカーで紙パルプ部門を残している会社はないどころか、大手の新聞用紙と段ボール原紙メーカーのほとんどがChapter 11になってしまった。その辺りを見れば、M&Aは兎も角、紙パルプ事業からの撤退は、遺憾ながら正しい経営判断だったことになる。

世界最大のInternational Paperでさえも、中国で現地資本と合弁で設立した板紙の大型メーカーへの投資を引き上げて、撤退する羽目に陥ってしまった。アメリカで完全に言わばdying businessと見做されている製紙事業ではあっても、中国ならばgrowing businessと見た海外への投資案件が裏目に出たと思われる。

私には尊敬し崇拝していたジョージがM&Aの難しさと業界の先を見通した慧眼であったかどうかは知らぬが、ICT化が予想以上に速度で発展し、世の中の変化が激しく、科学の進歩の速度が速い現代にあっては「戯れにM&Aを行うべからず」だと思わせてくれる例だと思うが。

なお、念の為確認しておくと、上述のように残念ながら我がWeyerhaeuserは昨年9月末で完全に紙パルプ事業からの撤退を終え、1900年創業時の木材会社に戻り、その所有する広大な森林とその資源を活かすと共に、その所有地を利用する不動産業にも注力するようだ。



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