暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

思い出の茶事  一客一亭

2009年08月05日 | 思い出の茶事
京都での茶会を終えて、着物のまま姫路行き準急に飛び乗りました。
午後5時には姫路に着くはず・・・と思ったのですが、
その先の○○駅に着いたのは6時をかなり過ぎていました。

陽はとうに落ちて、降りる人もまばらな、真っ暗闇の無人駅です。
でも、輝くような笑顔で茶友(ご亭主)が出迎えてくれました。

荷物を置いて、すぐに庭の腰掛で迎え付けを待ちました。
今日のお客は私一人。憧れの一客一亭です。
ちいさな蝋燭が置いてある腰掛は12月だというのに寒くなく、
葉が少し残った樹木が煌々と月に照らされて、神秘的な夜でした。

月の光を浴びてうっとりしていると、かぐや姫ならぬご亭主が現れました。
蹲の水で身辺を清めてから、迎え付けです。
お互いに少々緊張気味で、無言の挨拶を交わしました。

にじり口から席に入ると、夜咄の設えです。
床には絵が掛けられていて、日本のものではないようです。
あとでお尋ねすると、フィリピンの女の子が描いた絵とのこと。
椿の花がかわいらしく活けられていました。

手作りのお菓子を頂戴し、流し点で薄茶を一服いただきました。
炉の流し点は客と向き合う形なので、一客一亭にぴったりです。

席中で静かに音楽が流れ、聴き入りました。
とても心地よいBGMで、茶席で音楽は始めての経験でしたが、
亭主が立ち働かなくてはならない一客一亭にはとても良い工夫
と感心しました。
もう一服所望し、美味しく頂戴しました。

それから、別室に移り、にぎやかに歓談しながら
イタリアンの夕食をご馳走になりました。
今日はこちらでお泊りです。

次の朝、朝茶事のおもてなしを受けました。
昨夜食事をした部屋へ通されて、思わず息を呑みました。

庭に面して広縁のある部屋は障子が全て開け放たれ、
清新の朝の気に満ちた茶席は山中の庵のようです。
存在感のある花器の風炉に雲竜釜が松風を奏でていました。

思わず深呼吸したくなるような、清々しいお席で
朝の一服をいただきました。

至福の茶とはこういう一服では・・・と思い、
ご亭主のあたたかなおもてなしが今でも忘れられません。


                      
                        


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