「…じゃあ、あの声は…悪魔の声だったの?」
「ええ…。恐らくは…」
侍女が語ってくれたのは、この国に残されている歴史書の一部と重なる、今でも語り継がれている遠い過去の出来事だった。
この国を統べてきた王族は、それぞれ不思議な力を産まれながらに持っている。
生涯で一度だけ、自ら選ぶ相手。一目で分かる運命の相手にも、同等の秘められた特殊な力が眠っているそうだ。
惹かれ合う両人が想いを通わせ、心を繋げた時、それぞれの能力が開花する。合わせて完璧になる、お互いの力を持って、国の安定を図り、皆に平穏を約束してきたそうだ。
けれど、それを良しとしない存在もいる。それが…悪魔。
王族に直接、手が出せない悪魔は…選ばれし相手に近付き、秘められた力を先に奪おうとする。
もし、その相手が悪魔の誘いに乗り、負けてしまえば、秘められし力は徐々に失われ…国は乱れ…傾く。
実際、長い歴史の中には…悪魔に相手を奪われ、国が荒れ果てる時代もあったそうだ。
何代か前の王の頃から時間を掛け、国を立て直し、漸く平穏が訪れたのは…祖父の代。
僕の父様も…母様と結ばれる前に苦難な試練を乗り越えたと、初めて知った。
いつの時代も悪魔は隙を狙っている。
父様に負けたその瞬間から、悪魔は…次のチャンスを窺っていた。
成人の儀を兼ねていた宴を終えるまで、未熟な僕より先にユノを見つけ、少しずつ…追い詰めていた。
…僕とユノが結ばれる前に。ユノを諦めへと導き、ユノが秘める力を手中に収めるのが目的だろうと侍女が言った。
「それを止める術はないの!?」
「…幾つかの方法はあります」
「僕はどうすれば良いの?」
焦りを抑えられず、詰め寄る僕に、侍女は変わらず穏やかな口調で話を続ける。
「…何があろうと…信じ抜く事です」
「え…」
「…決して、後ろを振り返ってはいけません」
「……」
「チャンミン様が選んだお相手なら、間違いなく、素晴らしい方です」
「……」
「…二人で共に歩く未来を信じ、疑わない事です…」
「……うん」
侍女からの言葉に深く頷く。
何も分からなくても、ユノを信じ抜く事なら、不可能じゃないと…確信出来たから。
それから、侍女は更に具体的な話を聞かせてくれた。
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