「ねえ、ユノ~」
「どうした、チャンミン」
「おねがいがあるんだけどね?」
「……駄目だ」
「え?」
「…その願いは叶えられない」
「えー!!ぼく、まだなにも言ってないよ!?」
竜の悲鳴に似た雄叫びが響き渡り、思わず動きを止めた。けれども聞き耳を立てているつもりはない。同じ空間に居る竜と保護者の会話が自然と聞こえてくるだけだ。
甘えた声を出していた竜に対する保護者の態度が気になる。竜には滅法甘い保護者が願いを聞き入れないなんて、有り得るのか?何故だろうか。理由を知りたいと思ってしまう。
動きを止め続ければ、保護者に気付かれる。何も気にしていないように取り繕い、俺は与えられた作業を進める。
竜は保護者の返事を意に介さないと言いたげに、また甘えた声を上げる。
「あのね?ユノ」
「…だから駄目だと言っただろう。親元に子虎を返したばかりだからな。連れ出すのは駄目だ」
「うわっ、すごい!ユノっ!ぼくがしたいこと、分かってる!」
「……」
「あのね?」
「…チャンミンは俺との約束を守らないのか?」
「え?」
「…今日は俺と二人きりで過ごすと言っただろ?」
「うん!そうだよね~!ふわふわなユノにうずまって、のんびりするんだよ!」
「…ならば…」
「でもね?ふわふわなユノにうまったらね?ぼくもふわふわな白とらちゃんをだっこしたいな~って思ったの!」
「……」
「あっ!ユノのしっぽもぎゅっとするよ?でもね?それだけじゃ…ちょっと足りないの!」
「……」
「うしろもまえも!ふわふわがいいの!」
「……」
「おねがい~、ユノ!!」
「……」
保護者の溜息が聞こえてきそうだ。
竜のお強請りは…単なる我が儘だったとしても僅かに感じる。何より可愛さの方が勝つ。俺やチャンミンでもそう思うのに、誰よりも竜を溺愛している保護者なら、間違いなく、そう思う筈だ。
保護者の抵抗はどれだけ続くのか。次の展開が気になる。どのようにして、竜は保護者を懐柔するのか。そこも気になる。
興味本位って訳じゃない。今後に役立つ経験として知りたい。直接、視線は向けないまま、背後の気配を感じ取る事に集中していた。