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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

ある日の話。

2021-12-31 | ある日の話。


「ねえ、ユノ~」
「どうした、チャンミン」
「おねがいがあるんだけどね?」
「……駄目だ」
「え?」
「…その願いは叶えられない」
「えー!!ぼく、まだなにも言ってないよ!?」


竜の悲鳴に似た雄叫びが響き渡り、思わず動きを止めた。けれども聞き耳を立てているつもりはない。同じ空間に居る竜と保護者の会話が自然と聞こえてくるだけだ。

甘えた声を出していた竜に対する保護者の態度が気になる。竜には滅法甘い保護者が願いを聞き入れないなんて、有り得るのか?何故だろうか。理由を知りたいと思ってしまう。

動きを止め続ければ、保護者に気付かれる。何も気にしていないように取り繕い、俺は与えられた作業を進める。


竜は保護者の返事を意に介さないと言いたげに、また甘えた声を上げる。

「あのね?ユノ」
「…だから駄目だと言っただろう。親元に子虎を返したばかりだからな。連れ出すのは駄目だ」
「うわっ、すごい!ユノっ!ぼくがしたいこと、分かってる!」
「……」
「あのね?」
「…チャンミンは俺との約束を守らないのか?」
「え?」
「…今日は俺と二人きりで過ごすと言っただろ?」
「うん!そうだよね~!ふわふわなユノにうずまって、のんびりするんだよ!」
「…ならば…」
「でもね?ふわふわなユノにうまったらね?ぼくもふわふわな白とらちゃんをだっこしたいな~って思ったの!」
「……」
「あっ!ユノのしっぽもぎゅっとするよ?でもね?それだけじゃ…ちょっと足りないの!」
「……」
「うしろもまえも!ふわふわがいいの!」
「……」
「おねがい~、ユノ!!」
「……」

保護者の溜息が聞こえてきそうだ。

竜のお強請りは…単なる我が儘だったとしても僅かに感じる。何より可愛さの方が勝つ。俺やチャンミンでもそう思うのに、誰よりも竜を溺愛している保護者なら、間違いなく、そう思う筈だ。 

保護者の抵抗はどれだけ続くのか。次の展開が気になる。どのようにして、竜は保護者を懐柔するのか。そこも気になる。

興味本位って訳じゃない。今後に役立つ経験として知りたい。直接、視線は向けないまま、背後の気配を感じ取る事に集中していた。












クリスマス⑥

2021-12-25 | 財団 クリスマス2021


クリスマスイブ。

賑やかなパーティは終わり、今は静かな時間が流れている。

竜は保護者と共に過ごしている。辺りに気配がないから、恐らく保護者が竜を何処かへ連れ出したのだろう。

サンタからのプレゼントは明日の朝の楽しみ。今夜、竜が保護者へクリスマスプレゼントを渡すのか…。

照れながら喜ぶ竜の様子や嬉しげな保護者の様子が目に浮かぶ。

素敵なクリスマスを過ごせて良かった。なんて事を考えるのはここまでだ。今からは自身の幸せを噛み締めたい。  

グラスとシャンパンを手にして、チャンミンの傍へと急いだ。



「…遅い」
「そうだな、悪かった」

チャンミンは早速、むくれて照れ隠しをしている。グラスにシャンパンを注ぎ、乾杯すると、チャンミンは一気に飲み干した。

ペースが速いだろうと笑うより早く、チャンミンが包みを差し出してくる。勢い良く突き出されたものは、俺が欲しかったものだ。

「ありがとう、チャンミン」
「礼は要らない。…いつも… その… 世話になっているからな」

思い切り顔を逸らしたチャンミンの頬は真っ赤に染まっている。耳まで赤くなりながら、きちんと渡してくれただけで、感激してしまう。


「俺からもクリスマスプレゼントだ。受け取ってくれるよな」
「……し、仕方ないからな」
 
横を向いたままでも、チャンミンはちゃんと俺を見ている。まるで奪い取られるようにプレゼントはチャンミンの手に収まった。

  
今夜は特別な夜だから…少し大胆でも怒られないだろうか。腕を回し、チャンミンの肩を引き寄せてみたが、大丈夫だ。抵抗はない。

「チャンミンからのプレゼント、開けても良いか?」
「駄目だ!」
「…駄目なのか?」
「あ、ああ。僕が良いと言うまで…開けるなよ」
「あはは。分かった」

チャンミンの許可は直ぐに出ない気がした。それでも良い。楽しみを先延ばしするのは得意技だ。

納得はしても、少しばかりの抵抗を示してみたい。そう思うのは、素直な返事に不満げなチャンミンの表情があるからだ。

「なら、チャンミン。開けられないプレゼントの代わりに…俺が欲しいものをくれるか?」
「……な、何が欲しいんだ…」

距離を詰めても怒られない。息が掛かる距離になっても、チャンミンは後退りしない。

「…俺が欲しいのは…」

言い終わる前に、チャンミンの唇を覆う。そのまま押し倒してしまいたいと体重を移動しかけた時。チャンミンが目を見開き、呟く。

「…雪だ…」
「え?」

顔を上げて窓を見ると、カーテンの隙間から外が見える。

竜の機嫌は天候に影響を与える。嵐でなく、穏やかに降り落ちる雪の意味は…きっと。


「…今夜の雪は…竜や保護者が喜んでいる証拠かもな…」


そう言うと、チャンミンは優しく穏やかに微笑む。余りの綺麗さに見とれたのは一瞬の事。直ぐに我に返るチャンミンは険しい表情を浮かべてから、思い切りしがみ付き、俺が欲しいものを幾らでも…与え続けてくれた。









おしまい。

クリスマス⑤

2021-12-25 | 財団 クリスマス2021


「……よし。後、少しで完成だな」

チャンミン達とは離れた場所で、俺は一人、ノートに向かう。

相手の好きなところを書く冊子。その存在を知り、チャンミンに俺の気持ちを形にして、いつか渡したいと思っていた。まさか、こんなに早く機会を与えられると思わなかった。訪れた好機に感謝して、竜とチャンミンに負けないように、俺も真面目に書き連ねる。

チャンミンの好きなところなら、幾らでも見つけられる。過ごしてきた時間を思い返しながら書き記す行為は本当に楽しいだけだ。

集中して書き続けていると、竜の奇声が上がる。またチャンミンが抵抗を始めたのだろうか。

チャンミンが指摘しても、竜は保護者への想いを口にしながら書き記す。チャンミンは良くても、俺が聞くのは宜しくない。そんな保護者の態度を考慮して、離れた場所にいる。

チャンミンにも近づくなと言われた。覗き見なんてするつもりはなくても、嬉しさは漏れ出る。だから…なのか、完成するまで視界に入る事も許されないらしい。


「…チャンミンの分かり易い分かり易さも好きだ…っと」

また一つ、想いを書き記す。賑やかさを耳にしながら、ペンを走らせていた。







**

「ママ、もうかけた?」
「…まだだ」
「ぼくね!おわったよ!」
「なに!?もう完成したのか!?」
「うん!だって、ユノのすきなとこ!いっぱい、いっ~ぱいあるもんね!」
「そ、そうか…」

竜の言葉に思わず落ち込んでしまったのは、まだまだ完成には程遠いからだ。力無く視線を落とす僕の膝に、竜がドスンと乗ってくる。ぐいっと顔をこちらに向ける竜なニマッと全力笑顔を見せる。

「ママ?しんぱいしなくていいよ?」
「…な、何だと」
「ちょっと時間がかかってもだいじょうぶだからね?」
「……」
「ぼく、ママをおうえんしてる!」
「…そ、そうだな。焦る必要はないよな」

膝上の竜の温かさのお陰だろうか。焦燥感は薄れ、肩から力が抜けるようだ。

「ママも口にしてみればいいのに~」
「…何をだ」
「ママのダーリンのすきなとこ!」
「は、はあ?」
「そしたら、いっぱいいっぱい、すきなとこが勝手に出てくるよ~!」  
「……」

いつもなら、ふざけるなと返したかも知れない。
でも、何故だろう。そんな方法も試してみようか…なんて、思ってしまう。

「……彼は…  底抜けに… …優しい」

想いを口にすれば、自然と口元が弛む。竜がニマッと笑うから、僕は気恥ずかしくて唇を尖らせ唸る。

その内に竜の反応が大きくなり、賑やかになり…作業どころではなくなる。だから、結果として、中々、作業は捗らなかった。    

でも、それはそれで…楽しかったのは間違いない。
















クリスマス④

2021-12-24 | 財団 クリスマス2021



「ユノのすきなとこ~!ん~とねぇ、やさしいとこ!」
「口に出さなくて良いから、そこに書け」
「え~?どこにかくの?」
「ここだろ、ここ!さっき説明しただろ!」
「ママはもうかいた?」
「は?」
「ママもママのダーリンのすきなとこ!はやくかかないと!」
「僕は後回しで良いんだ!」

明日にしようと言っても聞き入れず、やる気満々な竜は隣に座り、ニマニマな笑顔を見せている。僕は目の前に広げて置かれた冊子を眺め、まだむくれている。

彼がこっそり取り寄せていたもの。相手の好きなところを100個書き入れ、プレゼントするメッセージブックなるものに、保護者が興味を示したなんて…未だに信じがたい。

「ユノのすきなとこ~2!かっこいいとこ!」
「……」
「ユノのすきなとこ~3っ!きれいなとこ!」
「……」
「ユノのすきなとこ~4!ふわふわなとこっ!」
「だからな?声に出さなくても良い!」
「え~?」
「ちょっと待て。ここに書いてないじゃないか」
「え~?」
「順番に書け!分からなくなるだろ!」
「んもう!ママもはやくかいてよ!!」

書き方を注意すると、竜は頬を膨らませて抗議してくる。ペンを差し出され、受け取りを拒否すると…竜は勢い良く飛び付いてくる。

「ママもかくの!」
「後で書く」
「いま、かくの!」
「だから…」
「いっしょにかくの!!」
「……だから…」

真剣な訴えも可愛いだけだ。早く書けと言われ、抵抗するのは…羞恥心以外に理由はない。

「ママのダーリンのすきなとこ、いっぱいあるでしょ?」
「……」
「じー」
「……
「あっ!どれからにすればいいのか、決まらないの~?」
「…そんな事は…」
「なら、ぼくがかいてあげようか?」
「いや、自分で書く」

思わず返事をしてしまい、ハッとする。チラリと見れば、竜の目がキラキラ輝き、期待感に溢れている。

「はやく、かこ!」
「…し、仕方ない」
「ユノのすきなとこ、5!つよいとこ!!」

竜のペースに巻き込まれ、やっとペンを手にした。
彼の好きなところ…。具体的に考えようとした瞬間。彼の声がする。


「順調に進んでいるか?」
「あ、ママのダーリン!」
「ホットミルクを用意した。飲むか?」
「ありがと!」

竜の明るい対応とは真逆で、僕は彼を威嚇したくなる。

「あのね?ママがね~」
「どうした?」

「余計な事を言うなよ!それから!!集中力が低下するから暫く、接近禁止だからな!


気恥ずかしさを押さえ込めず、彼に当たってしまう。

けれど、それも慣れた事なのか。竜も彼もニコニコ笑顔で僕の喚きを聞いていた。











クリスマス③

2021-12-23 | 財団 クリスマス2021


「な、何だと!?」

「驚きだよな?まさか、保護者が答えをくれるなんて」

「ち、違う!問題はそこじゃない!!」

「え?あ、ああ、そうか。でも大丈夫だ。専用の冊子なら用意してあるからな。失敗するかも知れないと思って、沢山、買っておいたんだ。予備は沢山ある!だから安心してくれ!」

「あ、安心なんて出来るかっ!!」

先に結果報告をしたいと言われ、風呂上がりの竜を保護者の元へと返し、彼と二人で対面していた。肩を上下させ叫んだのは、動揺や恥ずかしさが理由だ。

彼の言ったように、保護者の反応には驚いた。けれど、そこより問題なのは、求められたもの自体だ。

「まだ竜には説明していないが、一人で書き上げるのは難しいだろ?だから、チャンミンも一緒に。ついでに俺へのプレゼントを制作して貰えると嬉しい」
「だ、だから!何故、そこがセットになっているんだ!!」
「チャンミンが手本を示すのは良い事だろう?それに竜も喜ぶ」
「だ、だからって…」
「大丈夫だ!俺もチャンミンへのプレゼントを用意するからな」
「何が大丈夫なんだ!」
「保護者の了承を得ているからな。そこも安心してくれ!」
「…っ」

きらきら光る笑顔を向けられ、言葉に詰まる。
彼は困難な任務を無事に果たした。そこを否定してはいけないと思うけれど、手放しで喜ぶ事も難しい。複雑な心境を唸り声で示そうと試みる。


「……っ」
「そろそろ戻ってくるかもな」
「え?」

視線を移す彼が呟いた途端。竜の雄叫びが響き渡る。間を置かず、ドアが開き…パジャマ姿の竜が突撃してきた。


「ママ、ママっ、ママーっ!!」
「おわっ!」
「はやくいっしょにかこ!!」
「は、はあ!?」
「ママはママのダーリンに!ぼくはユノに!!すきなとこ、100こ!」
「な…」
「ユノもたのしみにしてるって!だからはやく、はやく!!」
「っ!」

既に保護者は竜へ要望を伝えたようだ。

こうなれば、逃れる事は不可能だ。弾ける笑顔を浮かべる竜の勢いに押され、早速、段取りを始めると叫ぶ彼を止められなかった。