Reverse

一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

今日は何の日。愛妻の日編

2017-01-31 | ケーキ屋さん








『ちょっと、旦那!』

「……ん?」



まだ開店前の作業中。コツコツと窓を小突く音がして、誰かが俺を呼ぶ。徐に視線を上げると、窓の向こう側には…煩い鳥がいる。



チャンミンなら、店先にいる。そう言い掛けて、鳥はそれを知らない筈がないと、口篭もる。



「何の用だ」

少し、窓を開けてやれば、反応が遅いと呟きく鳥は厚かましくも侵入してきた。





「今日は何の日か、知ってるか!」
「今日は1月31日だろ」
「今日は愛妻の日だ!」



いきなり叫ぶ鳥は、ハッとして翼で口元を覆う。





「ユノ様?今、キュちゃんの声がしましたか?」


ヒョコッと顔を覗けるチャンミンに気付かれたくない。そんな素振りを見せる鳥を不思議に思いながら、何も聞こえないと答える。



「それより、チャンミン。開店準備は出来たのか?」
「あっ!まだです!!」
「焦らなくても良いからな」
「はい!」



チャンミンが店先に戻ると、背後から安堵の溜息を洩らす鳥が口を開く。




「今日はさ。愛妻の日なんだよ」
「そうか」
「だから、旦那!チャンミンにお花をプレゼントして!」
「は?」
「ボクはチャンミンの喜ぶ顔が見たい!」
「……」


鳥に教わるまで、そんな日があるとは知らなかった。けれど、鳥から促されて行動するのは…どうなのだろうか。素直に受け入れられない。




「言っておくがな。お前に言われなくても、俺はいつだって、チャンミンを笑顔に…」
「そんな事、分かってる!これ、使って!」
「え?」




細かな部分は気にするなと言った鳥が窓の向こう側に合図を送る。それと同時に様々な花が投げ込まれ…窓辺が急に華やかになった。




「それ、食べられる花なんだって!」
「……」
「じゃあ、チャンミンをよろしくね!」
「……」



煩い鳥は勝手な事を言い残し、兄貴達と飛び立っていった。
















「ユノ様!やっぱり、さっき、キュちゃんの声がしませんでしたか?」



開店まであと少し。準備が終わったと報告するチャンミンを手招きして、引き寄せる。


「ユノ様?」


不思議がるチャンミンの目の前に、今、用意したプレートを置く。




「ユノ様…これ…」
「いつも、ありがとうな…。チャンミン」
「…どうしてですか?」
「今日は一番近くで、いつも支えてくれる存在に感謝する日なんだ」
「……」
「だから、チャンミンに…ありがとうなんだ」
「……」
「その花は食べられるからな」
「ユノ様っ!!」



プレートの上には様々な花びらを飾り立てた。ケーキまで花の形にしたのは…やり過ぎたか?今になって、完成度を考察していると、チャンミンの泣き声が上がる。




「チャンミン、どうした」
「ユノ様~っ」



突然のプレゼントに感極まるチャンミンを抱き寄せていると、煩い鳥がまた姿を現す。




「あっ!旦那!チャンミンを泣かせたっ!」
「どうしよう!キュちゃん!今日もユノ様が物凄く優しいっ!」
「そう?」
「キュちゃん!僕、嬉しくて堪らないの!どうしよう!」
「チャンミン、泣いていたら、お花ケーキを食べられないよ!」
「大丈夫…っ、ユノ様が食べさせてくれるから…」


しゃくり上げるチャンミンを見て、鳥は焦り、苦笑いして、結果的に満足そうだ。



いつも何かを運び込む鳥に、翻弄されつつ、感謝もしながら。

今日も賑やかな幸せに満たされていた。















おしまい。




ホットケーキ編の続きの続き

2017-01-25 | ケーキ屋さん






「チャンミン!ボクのホットケーキ、完成した!?」

「っんん!!」



何処かへ飛んで居なくなっていた鳥が賑やかに羽ばたき戻ってきた。焼き立てのホットケーキを味見中のチャンミンが咽に詰まらせそうになるから、急いでミルクを差し出す。



「チャンミン!?大丈夫?!」
「…っと、キュちゃん!まだ完成してないの。ごめんね!」


自分の事より、鳥の要求を優先させる優しいチャンミンを引き寄せながら、組み立て途中のホットケーキを指差して見せた。



「苺クリームとチョコレートソースに…アーモンドスライスだったよな」
「あと、大っきな苺!それから、くるみ!」
「悪いが大きな苺はない。代わりに小粒ないを二つで良いか」
「あっ、そこにある大っきな苺はチャンミンのか!なら、仕方ないね!」



チャンミンの為なら理解がある鳥は、一応の納得をし、仕上げを急げと催促する。

作業は進めていても、やはり、気になるのは…チャンミン用のホットケーキだ。





「チャンミン、キャラメルソースもかけるか?」
「え!良いんですか!」
「あと、バニラアイスと…ベリーソースも添えて…」
「ユノ様っ!僕、嬉しいですっ!」



チャンミン用の…増えていく一方のデコレーションを眺める鳥は、やけに冷静な口調で呟く。



「チャンミン!美味しいホットケーキを食べられそうで良かったね!」
「うん!ありがとう、キュちゃん!」
「何で?ボクにお礼を言うの?」
「キュちゃんのお手紙のお陰だから。ありがとうね、キュちゃん!」



何故か、頭を下げるチャンミンは、鳥に近寄り、唇を寄せた。




「こっちこそ!ありがとう、チャンミン!」


可愛らしいキスで単純に喜ぶ鳥は…何かしたか?

嫉妬からくる不満を抱き、顰め面になる俺の頭上を賑やかに飛び回っていた。









「代金は後日、持ってくる!」
「いや、それは良い」
「え?」



箱詰めが完了した。一応の礼をと、頭を下げた鳥は俺の答えに驚いている。




「お前が言ったように…チャンミンが喜ぶなら、それだけで良いからな」
「でも、それじゃ…」
「心配は無用だ。喜ぶチャンミンを俺も楽しむからな」
「え?」


キョトンとする鳥の横から、店を早めに閉めてきたチャンミンがしがみついてくる。





「ユノ様!クリームたっぷりのホットケーキ、一緒に食べましょう!」
「ああ、そうだな」
「ユノ様のお口には僕が運びますからね!」
「ああ」
「それから、クリームも…大っきな苺も!」
「ああ」




あれもこれもがてんこ盛りの皿を目の前にして、チャンミンは思い切り、表情を緩ませている。



「ユノ様!お口、開けて下さい!」
「俺はチャンミンごとが良い」
「……あっ」



待ちきれないのは俺も同じ。クリームをチャンミンの唇に撫でつけてから、舌先で舐め取る。

いつもの睦み合いを始める俺達に、存在を忘れ去られたと嘆く鳥は大きな溜息を吐いていた。




それから、また来ると叫び、いつも知らぬ間に現れる、荷物を運ぶ兄貴達を引き連れ、おまけの箱もきっちりと抱え、飛び立っていた。



俺はチャンミンと一緒に、甘くて美味しい時間をしっかりと味わっていた。














おしまい。



ホットケーキの続き

2017-01-25 | ケーキ屋さん







卵に砂糖に小麦粉にバター。さっくりと合わせた生地を熱したフライパンに落とす。



「うわ!」
「どうした、チャンミン」
「ユノ様!もう美味しそうです!」
「まだ少しも焼けてないのにか?」
「はい!」


かなり気の早いチャンミンは、お皿を手にし、待ち構える。


「チャンミン。ふわふわに焼くには弱火で時間をかけないと駄目だ。お皿は置いて…苺のヘタを取ってくれるか?」
「はい!ユノ様!」


チャンミンは大きく頷いて、お皿を台に置いていた。

言い付け通りに苺を並べ、ヘタを取る間にも。チャンミンはちらちらと視線を向けてくる。

それはアーモンドを取り出す時も、くるみやナッツを刻む時も。

何をしていても、フライパンの中身が気になるようだ。





「ユノ様!甘い香りがしてきましたよ!もうひっくり返しますか!」
「ああ、そうだな」
「ユノ様!傍で見ても良いですか!」
「ああ」



返事を喜ぶチャンミンは、ペタリと背中にくっつく。そんな位置での観察は…身動き取れず、問題な気もした。

でも、そんな事はないと…幸福感に包まれながら、ホットケーキにフライ返しを差し込んだ。




「うわっ!」


無事に返ったホットケーキを見て、チャンミンが嬉々とした声を上げる。



「ユノ様、美味しそうな焼き色です!」
「ああ、そうだな」
「ユノ様っ!ふわふわです!」
「もう少しだからな。焦るのは駄目だ」 
「ああっ。ユノ様!早く食べたいですっ!」

 

芳ばしく漂う甘い香りと、均一についた綺麗な焼き目に夢中で、注文品の事はすっかり忘れたのか。チャンミンは、背中に張りついたまま、短い声を洩らしてばかりいた。








 





今日は何の日。ホットケーキの日編

2017-01-25 | ケーキ屋さん



「ユノ様っ!」
「どうした、チャンミン」


いつものように、勢いよく飛び込んでくるチャンミンを受け止めながら、苦笑いを浮かべる。

店先から聞こえた鳥の声に、こうなる事は予想出来た。

何度、同じような事を繰り返しても…チャンミンの反応は初々しい。緩む口元を自覚しながら、問いかけてみた。



「また鳥から何かを聞いたのか?」
「まだ聞いてません!」
「聞いていないなら、何があった?」
「お手紙です!」
「え?」
「キュちゃんがお手紙を持ってきました!」
「…手紙?」


チャンミンがハッとして手を差し出す。握り締められていたのは、小さく折り畳まれた紙。首を傾げていると煩い鳥がやって来て、賑やかに騒ぎ出す。




「それ!注文書!」
「注文書?」
「まあ、読んでみて!」
「……」


胸元へしがみつくチャンミンが興味津々な眼差しを向けるから。仕方なく、鳥の言う事を聞く。


開いた紙には可愛らしい文字が連なっている。最初に見えたのは…ホットケーキの文字だ。


「…ホットケーキの注文なんて、受け付けてない」
「まあ、良いから、続きを読んで!あっ、チャンミンにも分かるように、声を上げて読んで!」

「……」

「ユノ様!僕もお手紙、聞きたいです!!」

「…そうか?」


チャンミンのお強請りなら、応えるだけ。続きを読み進める。


「…トッピングはクリームたっぷりでチョコソースに、てっぺんにはおっきな苺。追加が可能なら、クリームにも苺を。可愛いピンクのクリームにアーモンドスライスと…。

バナナとチョコレートソースの組合せも捨てがたい…

って、何だ、これは…」


最後まで読み上げてから、鳥に視線を向ける。



「だから、それ、作って!ボクのファンの兎ちゃんに持っていくから!」
「は?」
「いつも遊んでくれる兎ちゃん、今日がホットケーキの日だって言ったらさ。食べたいなって、話になって!美味しいホットケーキの店を知らないかって言われたから、ここを紹介した!」
「だから、うちは…」


ホットケーキを商品として扱っていない。勝手に注文を受けてくるなと言うつもりだった。

けれど、鳥は器用に羽根を動かし、合図を送る。

その先にあるのは…



「ユノ様っ!」

「チャンミン…」

「僕もホットケーキ、食べたいです!」
「……」

「あっ、そうじゃなくて…注文なら、喜んで用意したいです!」



ハッとして、本音を訂正し、はにかみながらの…キラキラ眩しい瞳を見てしまえば…断る選択肢は打ち消される。



「チャンミンはバナナと苺と…クリームとアーモンドで良いのか?」
「えっ!?僕のもありますか!」
「そこの鳥。トッピングは何が良いんだ」
「ボクはくるみとピーカンナッツ!」




まんまと鳥の策略に嵌まった。けれど、チャンミンの笑顔が見られるから。俺は笑いながら、注文品とチャンミンの為の特製ホットケーキの準備を始めていた。
















今日は何の日。ケーキの日編

2017-01-06 | ケーキ屋さん





「ユノ様、ユノ様!!」
「どうした?チャンミン…」


昨日、見たばかりの…殆ど同じ光景に苦笑いしながら、作業場に飛び込んできたチャンミンを受け止める。






「今、鳥が来たんだろ?お礼に何かを貰ったのか?」
「あ!そうなんです!みんな喜んでくれて、クッキーのお礼にって、木の実や野菜をくれたんですよ!キュちゃんのお兄ちゃん達も運んでくれたんです!」
「だから、いつもより賑やかだったのか」
「そうですけど、そうじゃないです!!」



報告したかったのは、それじゃない。腕の中で跳ねるチャンミンは、目を輝かせ、俺を見上げる。




「ユノ様、今日はケーキの日です!!」
「…ケーキの日?そんなのがあるのか?」
「キュちゃんが教えてくれました!」



笑顔のチャンミンが一際大きな声を上げた時、煩い鳥が飛び込んでくる。




「チャンミン!流石に今日は旦那の日じゃないよね!」



鳥は嬉しげに叫ぶ。その言葉に被せるように、俺もチャンミンに囁いた。




「今日がケーキの日なら…ケーキが大好きなチャンミンの日だな」



イチゴの日が俺の日なら、今日はチャンミンの日。昨日、チャンミンが言った事をなぞってみた。

向けた微笑みに、可愛い笑顔を見せてくれただけでなく、元気な返事が飛んでくる。



「ユノ様!ちょっと違います!今日はケーキを好きな僕が…大好きなユノ様の日です!」

「……」

「ユノ様が作ってくれるケーキが大好きです!」
 
「……」

「僕にとっては毎日がユノ様の日です!」

「…チャンミン」




チャンミンの答えに煩い鳥は唖然としている。俺は込み上げる愛しい気持ちを抑えきれず、思い切り、抱き寄せる。



「…ユ、ユノ様、苦しいです!」
「チャンミン、何が食べたい?今から何でも好きなケーキを用意するから、何でも言ってくれ」


俺の言葉を真剣に受け止め、考え始めるチャンミンの後ろで、煩い鳥がけたたましく叫ぶ。



「ボクは木の実入りケーキが良い!クリスマスの時より、胡桃を沢山、追加して!」
「お前のリクエストは聞いていない」
「ユノ様!僕も胡桃を追加に賛成です!」
「え?」
「キュちゃん!木の実たっぷりケーキ、僕も味見していい?」
「もちろん!」



勝手に纏まる話を拒否出来る訳はなかった。飛び回る鳥用に、木の実のケーキを焼きながら、チャンミン用のクリームを泡立てて。


今日も甘い香りに包まれて、幸せな時間が流れていた。












おしまい。