竜が藻掻いていても、俺に出来る事はない。保護者を止める術を持たない。だからと言って呆然としている場合ではないと知らせるように、胸元に居る子虎が不満げに唸った。
「あうあ~」
「あ、ああ、すまない。早くミルクを用意しないとな」
我に返り、子虎を抱えたまま立ち上がった時。明らかに怒り顔をしたチャンミンが近付いてきた。
「直ぐに戻ると言ったよな!?直ぐの意味を理解しているのか!!」
チャンミンの傍に戻れなかった俺は責められている。数十分前の自分の発言を思い出し、また唖然とする俺を睨みつけるチャンミンは視線を落とした瞬間、目をカッと見開く。
「何だ、その子は!何処から攫ってきた!」
「あ、あのな?この子は…」
予想外な状況を説明しようとしたが、それよりも早く…竜の雄叫びが響いた。
「あっ!ママーっ!たすけて~っ!」
「は!?」
竜の叫びを聞いたチャンミンは直ぐさま向きを変え、保護者の元へと突撃していく。
「何をしているっ!離せっ!!」
母は強し…と言うべきか?チャンミンは臆すること無く保護者に凄み、手を延ばし…包み込まれていた竜を強奪する。
「大丈夫か!?」
「ママ~!ありがとっ!!」
竜を抱き寄せたチャンミンの顔は違和感を示している。
「…お前…誰だ?」
「ママ、なに言ってるの!ぼくだよ?んふふ~。ちょっと大きくなってみたの!」
「……」
「ちょっと大きなぼく、かわいい?」
「……」
チャンミンは竜の肩を掴み、距離を開けて凝視する。
離れた位置からでも分かる。見慣れた竜とチャンミンのバランスとは異なる。けれど、明るい笑顔は変わらない。ニマッと笑う竜を背後に回したチャンミンは、あからさまに不機嫌な保護者に向かい口を開いた。
「少し成長したと言っても、まだ深い触れ合いは許さないからなっ!!」
経過を知らなくても、状況把握は可能らしい。チャンミンは恐れを知らない強い意志を示す雄叫びを上げていた。