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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

50

2020-01-31 | 財団クリスマス 2019


「ああ!もっといっしょにあそびたかったな~!」
「キュウ!」
「カルル!」
「またみんなであそびにこようね!」
「キュあ!」
「カルルっ!」
「ママ!おかし、おかわり!」
「キュウ!」
「カルル!」

「何を勝手な事ばかり言っている!」
「まあまあ、チャンミン。落ち着いて…」

「そうだよ!ママ!プリプリしないの!」
「キュウ!」
「カルル!」

「お前ら!いい加減にしろよ!!」


狼妃はもてなすと言っていた。竜や子達もその気だった。でも、呻る狼帝と保護者の静かで恐ろしい闘いを継続させるのは問題有りだと判断し、俺達は先を急ぐと発つ事にした。 


手土産にと貰った菓子を全て平らげた竜はまだ足りないと喚いている。怒るチャンミンを宥めているけど、効果はイマイチだ。



「白とらちゃん、ももろうちゃんに会いたくなったら、いつでも言ってね?ぼくもいっしょにビューンと飛んでいくから!」
「カルル!」
「あ!でも、こっそりじゃないとユノと赤狼ちゃんがプリプリするね~。こっそり飛んでいこうね~!」
「カオウ!」

「…チャンミン」
「あっ!」

大声でのやり取りは内緒話になっていない。保護者に呼ばれ、ハッとする竜はニマニマしながらチャンミンに飛び付いてくる。

「ママもいつでも言ってね?ももろうちゃんとおとうとちゃんに会いたかったら…。ぼくがユノにおねがいして…いつでもとんでいくからね」
「…ああ」

別れを誰よりも寂しがっていたチャンミンへの優しい言葉は俺からも頼みたい内容だ。協力は惜しまないと、浮かぶ想いを口にしようとした時。チャンミンが急に目を見開き、竜を羽交い締めにした。



「なに、ママ?!くるしいんだけど!」
「二人きりになってから、保護者と何をした?!」
「え?」
「まさかと思うが…深くまで交わったのか?」
「ん?なに?」
「だ、だから…」

言葉を選びながらも聞かずには居られない。そんなチャンミンの問い掛けに、竜は首を傾げ続ける。

「んん?」
「どうやって、保護者を説得したんだ!?」
「ユノをせっとく…?」
「何をして、保護者の機嫌を直したんだ!!」
「ああ!にんむのこと?ん~とねぇ!ママがママのダーリンとしたように…」
「…っつ!?」
「いっぱいあかしをつけてあげたの!!」
「…あ?」  



竜はニマニマして、具体的な説明を始めた。

恐らくだが…保護者はもっと踏み込んだ進展を望んでいただろう。でも、竜の無邪気さに負け…軽めの触れ合いで納得した。そんな推察は間違っているのだろうか。

黙って橇を引く保護者の後ろ姿には哀愁が漂う…と、感じてしまう。



「じゃ、じゃあ…交わっていないんだな?」
「ん?まじわる…?」
「いや、何でも無い!」
「えー?もしかして、ぼく、ユノともっと何かすればよかったの?」
「いいや!それで良かったんだ!まだ何もしなくて良い!!」
「そうなの?」

分かり易く安堵したチャンミンは大きく息を吐き出し、竜を抱き寄せる。

「…まだそのままで居てくれ」
「ん?」
「…まだまだ子供で良い…」 

竜はチャンミンの胸元に埋まり、笑顔を見せる。

「だってね、ママ!ぼく、ぼくのおとうとのお世話がいそがしくなるんだもん!」
「は?」


意味深にニマっと笑う竜と対照的に、チャンミンは唖然としている。  

でもやはり、保護者としては不満があるのだろう。橇は突然わ乱高下を始め…チャンミンは怯え、竜と子虎達は奇声を上げて喜んでいた。









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2020-01-31 | 財団クリスマス 2019


嫌な予感がして振り返ると、何かが勢い良く突撃してくる。



「ママーっつ!!あいたかった!!」
「ううっ!」
「みんなもげんきだった!?」
「キュウ!」
「カルル!」
「…クルル!」
「あ!ももろうちゃんのおとうとちゃんは…  あっつ!!そっか!ママのおなかにかえったのか!!ももろうちゃんのママー!」

竜は狼妃の元へと駆けて行き、勢い余り押し倒している。

傍に居る狼帝との触れ合いはどうなるのか。目を見開き凝視していると、そこに居た筈の狼帝の姿が見えなくなっていた。

「あれ?赤狼ちゃんは?」
「…あ…」

狼妃も一瞬で起った事を理解出来ていないのだろう。竜を抱えながら首を傾げている。


「キュウ!」
「カルル!」
「…クルル」

子達の声に視線を向けると、部屋の端に狼帝が丸まっている。藻搔いても身動きが取れないと呻っているように見える。それは背後にいる保護者の差し金だと思い、緊張感に包まれた。

俺達の焦りに気付かない竜は相変わらず呑気だ。狼妃の腹部を撫でてから、優しく抱擁してこちらへと戻って来る。

「あ!そうだ!白とらちゃん!あいさつできた?」
「カウ!」
「赤狼ちゃんはゆるしてくれた?」
「クルル?」

子虎が首を傾げていると、狼帝が咆哮を上げる。それにハッとした竜が辺りを見回し、漸く、狼帝の存在に気付いた。パッと笑顔になり、突撃しようとしたけれど、保護者に抱え上げられた。

「あ!ユノ!」
「…約束しただろう。ここへ来る事に同意はした。けれど、奴との接触は許していない」
「えー!ちょっとくらいいいでしょ!」
「いや、駄目だ」
「もう!ユノのケチ!」

渋る保護者の機嫌を直し、ここにやって来たのは竜の力だあってこそ。でも、保護者の嫉妬は根深いみたいだ。

狼帝との触れ合いは幾ら強請られようと受け入れない。保護者は珍しく語気を強めて言い切る。

もし、竜が本気で願えば保護者は折れたかも知れない。でも竜にも何か思うところがあるのだろうか。やけに素直に諦める。保護者にしがみつき直し、頬へと唇を押し当ててから、元気な声を響かせた。



「赤狼ちゃん、ごめんね!だいじなももろうちゃんとおとうとちゃんをかってに連れ出して!でも、いっしょにいられて、すごくたのしかったよ!ありがとう!こんどはみんなでお出かけしようね!!」


いつの間にか、狼帝の傍に寄りそう狼妃が代わりに返事をする。



「…はい。お腹の子が産まれたら。是非、皆さんとご一緒に。お茶会をしましょうね」

動きを封じられた狼帝のくぐもった声が聞こえた。それを返事だと理解した竜は笑顔を煌めかせてから、鼻をぴくつかせる。

「んん~!?なにか、いいにおいがする!」
「カルル!」
「…クルル」
「キュウ!」

「ああ、それはきっと…」

何も知らない従者達がそれぞれに何かを運んで来る。


「うっっわ!おかしだ、おかし!!」
「カルル!」
「え?白とらちゃん、ずっとまえからこのにおいがわかってたの?」
「クルル!」
「白とらちゃんのママが作ってくれるおかしのにおいに似てるって?」
「カオウ!」

そんな会話をして喜ぶ竜と子達を制するのは俺のチャンミンの声だ。


「お前達!行儀が悪いだろ!!」
「うわ!ママがおこった!」
「カオウ!」
「…クッル!」
「キュウゥ!」

今にも菓子に飛び付きそうな竜と子達は顔を見合わせ、同じように驚き喜ぶ。


「…あ。今、お腹を蹴られたような…」

狼妃のそんな声が耳に届くと

「おとうとちゃんもママがこわいって言った!」
「カルル!」
「…クッル!」
「キュウ!」

「何を言っている!そんな事は無い!!」

緊張感はなくなり、その場には賑やかな笑い声が響いていた。









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2020-01-30 | 財団クリスマス 2019


「な、何だ!?」
「カオウ!」
「キュウあ!」
「これは…」

チャンミンに抱かれていた桃狼は引き剥がされ、フワフワと宙へ浮いている。もしかしてこの風は…。開けた口を閉じられないまま理由を思い浮かべていると、狼妃の笑い声が響く。


「…本当に、何処までもその子を溺愛しているのだから…」


よく見ると、狼妃の膝には何かが居る。布に覆われていたそれが狼帝だと気付いた途端。俺は咄嗟にチャンミンを引き寄せた。


「お、俺達が連れ去ったんじゃないからな!」

誤解され、攻撃されたら堪らない。慌てて叫ぶと、狼妃の声が響く。


「…これはご先祖様のお導きなのでしょう?貴方達を疑ってなどいませんから。御安心ください…」

狼妃はそう言っているが…まだ油断は出来ない。緊張を解かず、身構えていると、狼妃は言葉を続けた。


「…僕達の子が居なくなってしまって…ユノはとても心を乱していました。でも、こんな風に眠ってしまった。ユノが抗えない力を持つのは…他に心当たりがありませんから。ご先祖様の意思なのだろうと…ここで大人しく待っていました…」

「そうなのか?」

「…ユノは不服そうでしたけど…。今も不満を抱えているのかも知れませんけれど…。ご先祖様には敵いませんから…。ああ、そうだ。良ければ…ご一緒にお茶を楽しみませんか?丁度、頼んでいた焼き菓子が届く頃だと…」


狼妃は眠る狼帝を撫でながら、優しく語り掛けてくる。俺達が咎められる事はない。目的は果たした。そう思い安堵した時、それまで宙に浮いていた桃狼が急にジタバタと藻掻いた。



「…クルル!」

狼帝の力から逃れるように桃狼は俺達の元へと飛び降りる。そして、子虎の傍へ寄り添い身体を擦りつけた。

「…ああ、そうだ」
「まだ任務が残っていた」

じゃれ合う子虎と桃狼の様子にハッとしたのは俺だけじゃない。涙を止めたチャンミンも真剣な顔をして、共に頷き合う。


「竜がこの子達を引き寄せた事には色んな意味があったと思う。その中の一つとして、この子達の出会いがあったと…」

「…え?」

チャンミンが狼妃に向かって叫ぶと、眠っていた筈の狼帝がムクリと上体を起こした。本来の姿で凄まれると萎縮してしまう。いや、負けていられない。子虎を守り、応援しなければ。グッと拳を握り締め、口を開こうとしたけど、子虎に先を越されてしまった。

「カルル!クルル…ル… カオウ!!」

子虎はハッキリとした鳴き声を上げ、狼帝と狼妃に向かって頭を下げる。

「…まあ」

驚きを示す狼妃の反応は分かり易く好意的だ。微笑む狼妃と対照的に…狼帝は怒りを隠そうとせず、毛を逆立てる。今にも飛び掛かって来そうな狼帝を止めるのは笑顔の狼妃だ。


「…ユノ、落ち着いて」
「…グルル…」

離れた位置にいても、殺気を肌で感じる。けど、怯えるのはチャンミンだけで、子虎も弟も桃狼も、気に留めないで無邪気にじゃれ合っている。余計に怒りを買うんじゃないかと、焦りを募らせている間にも狼帝の放つ威圧感は増大していく。



「…ここは一先ず、立ち去った方が良いんじゃないか?」
「そうしたいが…立てそうにない…」

しがみつくチャンミンと子虎と弟を抱えて…ここから抜け出せるだろうか。額に汗を滲ませながら真剣に考えていると、背後から別の殺気を感じて身構えた。










47

2020-01-30 | 財団クリスマス 2019


「チャンミン…」
「……」
「カルル!」
「……」
「…クルル?」
「…」
「キュウ!」
「キュウぁ!」

「な、何だ!」

目を閉じているから状況の変化は分からい。それでも周りの空気感で異質な移動は終わったような気がした。

皆の声が聞こえ、身体を揺らされる。賑やかさにムッとしながら、返事をした。怖がっていたのは僕だけ。それを悔しく思いながら、閉じていた目蓋を開けた。

「…ここは…?」
「クルル!」

元気な声が返されるが…桃狼を頭に乗せていないせいか、言葉が分からない。顔を上げ、視線を向けると…ここが何処かの部屋だと気付いた。


「もしかして、ここは城内か?」
「恐らくな…」
「僕達は無事に辿り着けたのか?」
「だと良いけどな」

これまでとは異なる光景でも、見知らぬ場所って事に変わりは無い。無意識に彼の腕を掴み、不安を示したせいか…皆が勢い良く飛び付いてくる。

「キュウ!」
「キュウぁ!」
「カルル!」
「クルル…」
「大丈夫だ、チャンミン。みんながついているからな」

だから、僕が守られる立ち位置なのは可笑しい。そう言って払いのけたい気もしたが…実行に移さず、ムッとしていると…何処からか、優しい風が通り抜けた。

「クルル!」

桃狼が大きな声を上げる。



「…やっと帰ってきたんだね。ずっと心配していたんだから…」

聞き覚えのある声は部屋の奥から響いてくる。僕の胸元から飛び出した桃狼は元気に駆けて行き、また可愛い鳴き声を上げた。

それと同時に風が吹き込み、垂れていた幕がフワリと浮く。その先にいたのは狼妃だ。唖然とする僕達に、狼妃は嫋やかに頭を下げた。




「…お帰りなさい、愛しい我が子…」
「クルル!」

狼妃は桃狼を抱き上げ、頬摺りをする。その様子をジッと見つめる弟に視線を向けた狼妃は驚いた顔をしてから、表情を和らげた。



「…気の早い我が子にこうして出会えるなんて…。ご先祖様と貴方方に…感謝をしなくてはいけませんね」

説明をしなくても、まだ産まれていない自分の子だと分かるのか。狼妃は優しい声を響かせる。

「キュウ?」

不思議そうに僕を見つめ、小さく鳴いた弟の頭を撫で、よく見えるように前に掲げた。


「…あれはお前の母親だ」
「キュウ?」
「…お前の身体はまだ産まれていない。本来ある場所へと戻れ…」
「…キュウ?」

かけた言葉の意味が分からない。そう言いたげに首を傾げる弟の仕草が余りにも可憐で…手放したくないと思った。でも、僕にその権利はない。鼻の奥がツンとしながらも早く戻そうとした。

そこへ温かな風が舞い上がり…弟の身体を包み込む。

風に乗り…弟は母と桃狼の元へと運ばれていく。そして、母の腕の中へ届いた瞬間。可愛い鳴き声が響き渡り、光と変化した弟は母の胎内へと戻って行った。
 




「…っつ」

これは別れじゃない。また直ぐに再会出来る。そう思っても、目の前から居なくなってしまった事は寂しい。勝手に込み上げる涙を拭えないでいると…桃狼が駆けて来て、手の甲に落ちる涙を舐めてくれる。

「…カルル!」
「お前…」

桃狼の気遣いが嬉しくて愛おしい。小さな身体を抱き上げ、思い切り、抱き寄せているとそれまでとは異なる強い風が吹き抜けた。







46

2020-01-30 | 財団クリスマス 2019


「カオウ!」
「何?もう少しだって?」
「…クルル!」
「…何かを感じると言っているのか?」

子虎と桃狼の声に、僕と彼が反応する。

目に見えていても赤い虹との距離はかなりあるのだろう。見え方は変わらないから、近づけている気がしない。そう思いながらも悲観的にならないのは頭にある温もりのお陰だろう。


「カルル!」
「さっきから言っている良い匂いってどんな香りだ?」
「…クルル!」
「…何処かで嗅いだことのある匂いだと?お前も感じているのか?」

子虎と桃狼は似たような事を言い、僕と彼も同じように疑問を問い掛ける。

「甘い香り?」
「優しい香り…?」

僕や彼にはピンと来ない説明を聞いていると、子虎が一際、大きく鳴いた。

「カオウ!!」
「クルル!」

呼応する桃狼が身を乗り出すから、慌てて手を差し伸べる。

「危ないだろう!」
「こら、暴れるな!」

子虎も同じように頭から落ちそうになっている。彼の慌てた様子を横目に見つつ、僕も急いで桃狼の身体を支えた。

子虎と桃狼の過剰な反応には理由がある。それは直ぐに分かった。

赤い虹はまだ先にあるが、そこへ続く光の帯が少し先にある。 


「何だ、あれは…」
「兎に角、そこへ行けば良いのか?」
「クルル!」
「カオウ!!」

何でも良いから先を急げ。子虎と桃狼に急かされ、彼と僕は走り出した。



「チャンミン、大丈夫か?」

僕より多くを抱えている彼は…毎度の事ながら僕の心配をする。出来れば走りたくない。焦るのも体力を消耗する事も好きじゃない。そう返したいけど、今は止めて置こう。問題ないと短く言い切り、懸命に足を動かす。


「もしかして…光が薄れていないか?」
「早く辿り着かないと、道が閉ざされてしまうのか!?」

彼の指摘は間違いじゃない。地上に降りた光の帯は段々と薄れて消えかけている。

「急ごう!」
「…でも、これ以上は…」

言われなくても急ぎたい。けど、元々の運動能力には限界がある。まだ残る距離を走り抜けられるのか、不安しかない。

足がもつれそうになり自信を失いかけていると、彼が手延し、僕の手を思い切り強く引いた。


「ほら、行くぞ!」
「…っつ!」

既に抱えていると言うのに、僕まで引っ張って行くのか。

彼の逞しさと優しさに感心して…心の奥を掴まれる。やっぱり…僕は彼が好きだ。こんな時に思わなくても良い事を脳裏に浮かべてしまい、ハッとして意識を集中させた。
 
「カルル!!」
「…クルルっ!」

僕一人じゃ、恐らく間に合わなかった。光の帯の端かが次第に解け…小さな粒となって溶けていく。
でも、彼に率いられたから間に合った。その少し先へと飛び込むと、僕達の身体は一気に空へと舞い上がる。

「キュウゥ!!」
「キュウぁ!」
「カルル!」
「クルル!」
「間に合ったのか…」
「う、うわあ!!」



子達は喜んでいるが浮遊感に驚く僕は冷静な彼にしがみつく。そのまま光に包まれた僕達は赤い光に吸い込まれる。その瞬間から激しい恐ろしさに襲われた僕は固く目蓋を閉じていた。