早く、吸い付いてくれ。期待と願いを込めて祈った時。モニターから声が響く。
『ママ~!!』
「はっ!?」
チャンミンの耳を塞ぎたいと思ったけど、間に合わない。チャンミンは我に返り、竜の声に反応する。
『お腹空いたよ~!ママ、聞こえてるんでしょ?』
こちらが監視していると分かっている竜はキョロキョロしながら、チャンミンを呼ぶ。他の生徒達に不審がられる訳にいかない。それより何より竜を放っておけないのだろう。チャンミンはスクッと立ち上がり、部屋を飛び出していく。チャンスを逃し、悔しさを抱えたまま、俺も後を追った。
「あっ!!ママ!!」
「早くこっちに来い!!」
竜はチャンミンを目に為ると、大きく手を振る。チャンミンが竜を急かすのには意味がある。早く周りに集まる生徒達から離さないと、保護者が何をするか分からないからだ。
独占欲が強く、過保護な保護者が集まる子達を排除しようと呟いた時の恐ろしさを思い出しただけでも身震いする。
人的被害を出さない為にも、竜を保護するのは優先されるべき事だ。
それは分かっている。
…分かっているけど、不満は燻る。
避難場所である特別室へ向かうと、豪華な昼食の時間が始まる。
財団は他の誰よりも厚遇している。一流シェフの料理を用意した事もある。でも、竜が望むのはチャンミンの手料理だ。チャンミンの手料理をチャンミンに食べさせる事を要求するから…俺はいつだって、羨望の眼差しを向けるだけだ。
「ほら、口を開けろ」
「はい、ママ!あーん!」
無邪気な竜が…チャンミンの言う事を聞く。可愛さに溢れた光景だ。それは間違いない。
でも…我慢ばかり続くと…笑顔でいるのは難しくなってくる。ムスッとして、悶々としていると、竜が俺を手招く。
「ママのダーリンも、アーンして貰う?」
「おい、何を…」
「ああ!して貰う!!」
被せ気味に返事をして、駆け寄り、竜の隣へ腰を降ろす。チャンミンは分かり易い笑顔とは言えない…一見すると怒っているような表情を浮かべている。でも、そこは気にしない。俺は竜に負けないで口を大きく開く。乱雑に運び込まれた後、幸せを噛み締める。
「ママにアーンして貰うと、すっごく美味しいね!」
「ああ、そうだよな!」
激しく同意していると、竜は俺に要求をしてくる。
「今度はママのダーリンがママにアーンして!」
「ああ、分かった!!」
チャンミンは何を言うんだと、不服そうな顔をした。でも、竜のお強請りに逆らえる筈はない。頬を赤くして、口を開くから…俺も破顔するしかない。
「じゃあ、ぼく、今度はユノにして貰う!!」
竜の一言で、保護者は姿を現す。思いきり、深く懐へ飛び込む竜を見て、チャンミンの表情も変った気がした。
遠慮無く、俺の胸へ飛び込んでくれば良いと腕を広げてみせると、思い切り睨まれた。だけど、それだけじゃない。チャンミンはムスッとしながらも、飛び込んでくれる。
「こ、これは…仕方なくだからな!」
「ああ、分かってる」
まだまだ素直さはほんの少しだけ。それでも、前より見せてくれるから、幸せには間違いない。
竜のお陰で進展しているような…停滞しているようなチャンミンとの関係だけど、竜達よりは早く結ばれるように惜しまぬ努力しよう。そんな決意を固めていると、身体が勝手に動いていたらしい。
「ど、何処を触っている!」
【バチン!】
気紛れにお見舞いされるビンタにも幸せを感じる俺は、痛みにもめげず、ニヤニヤと盛大に笑っていた。
一旦、おしまい。