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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

その138

2020-05-31 | Beauty and the beast


「…っつ」
「どうした、チャンミン。早く帰ろう…」

ユノさんの急激な変化について行けない。動揺が大きくて、鼓動が煩くて…何をどうすれば良いのか分からずにパニック状態だ。

只でさえ、カッコいいユノさんを直視出来ない。なのに、強引に手を引かれ、早く帰ろうと促されても、元気な返事なんて出来ない。無理だ。

思い切り、視線を逸らし、呼吸を整えようとしていると、ユノさんが笑い声を響かせる。



「動かないなら…抱き上げる」
「え?」
「この姿でもチャンミンを抱えられるからな」
「な、何を言ってますか!」

慌てて顔を上げ、止めようとしたら…目が合った。それだけで体温が上昇し、動悸が激しくなる。僕は目が眩みそうになったけど、何とか踏ん張った。



歩かなければ、本当に抱え上げられる。まだ周りにある視線が恐ろしくて、僕は何とか歩き出した。

「あ、あの、ユノさん。急にどうしましたか?何がありました?」

上げられない視線を繋いだ手に向け、僕は弱々しく尋ねてみる。

「俺も成長したいと思ったのだ…。いつまでもチャンミンに不安を抱かせたくないからな」
「…僕に…不安を…?」
「俺はこちらの姿にも慣れて欲しい。堂々と寄り添い歩きたいと思ったのだ…」
「…でも」
「俺がチャンミンへの想いをはっきりさせていれば、チャンミンが周りに何か思う事もなくなるだろう?」
「それは…」
「白狼達との約束を楽しむ為にはこう言った努力も必要不可欠だと思い、実行している。まだ慣れなくて…違和感があるだろうが、俺の努力に付き合って欲しい」
「…だけど…」
「駄目か?」

キラキラのユノさんに駄目かと聞かれて、駄目だ!なんて言える人なんて、多分、多くはないだろう。
僕には無理だ。駄目だなんて言えない。ユノさんの想いを否定したくないし、必要な事だとも思う。

だけど、恥ずかしさは簡単に消えるものでもない。



「チャンミン…?」

不安そうに呼ばれると、黙っていられなくなる。

「だ、駄目じゃないです!」
「本当か?」
「で、でも… 人前での抱擁は…出来れば避けたいと言うか…」
「ああ、あれはつい…身体が勝手に動いてしまったのだ」
「…過度なスキンシップがなければ…と言うか…徐々になら…慣れていきたいと言うか…」

弱々しい声になってしまうのも、羞恥心のせいだ。言い訳をしたくて、視線を上げたけど、ユノさんの綺麗な顔を見ると、一気に身体が熱くなり…慌てて逸らしてしまう。


「…どうして、そんなにカッコいいんですか…」
「何?」
「や、やっぱり離れたとこから見る練習をした方が!」
「チャンミン…?」

落ち着けようとしてみても、動揺はまた湧き上がってくる。しっかりと繋がれた手を嬉しく思いつつも、僕は慌てふためいていた。






その137

2020-05-30 | Beauty and the beast


「ユノさん、そろそろ教室へ戻りましょうか」
「ああ、そうだな」

昼休みも残り僅かになり、チャンミンと共に席を立つ。いつもなら別れてから人の姿となるが、今日は直ぐに姿を変えた。すると、チャンミンは分かり易く動揺を見せる。

「ユ、ユノさん?」
「少しずつでも慣れて行く方が良いだろうからな…」
「あ…」

強引に手を取り、歩き出す。相談に乗ってくれた優しい人は、母親の鋭い視線を遮るように手を振り見送ってくれた。




廊下を歩いているだけでも、チャンミンの様子が異なる。口数が極端に少なく、視線も落とし気味だ。

「やはり、街中を歩くなら、人の姿の方が良いだろうと思う。だから、これは練習だ。暫く、登下校はこちらの姿でしようと思う」
「え…?」
「それに…そろそろはっきりさせなければとも思う」
「何を…はっきりさせますか?」
「俺には心に決めた相手が居ると。それがチャンミンだと言う事を隠す事無く堂々と振る舞いたい」
「えっ!?」
「だから、このまま教室まで送っていく」
「ちょっとユノさん!?待って下さい!」

二人の未来に繋がる事をチャンミンに頼るばかりでは申し訳無い。俺も成長しなければいけない。そんな想いが大きくなり、行動に移したくなった。

動揺の余り…なのか、無理矢理に止まろうとするチャンミンの手を強く引き、前に進む。次第に周りからの視線が増えて行くが問題ではない。チャンミンの教室まで突き進み、別れ際に軽い抱擁をした。

周りから悲鳴のような声が聞こえる。
真っ赤に染まるチャンミンは何か言いたげにしていた。けれど、何も言わずに教室へと駆け戻る。その様子を微笑ましく見守ってから、俺も自分の教室へと戻った。




昼休みの事でも、噂が広がるのは速いらしい。放課後となり、教室を出ようとした所で数人の生徒達に声を掛けられた。

足を止めず、軽く遇ったつもりでも…引き下がらない生徒達は着いてくる。昨日と同じだと内心、可笑しくなりつつも、昨日と同じにしたくない。足を止め、周りの生徒達に向き直った。


「申し訳ないが…厚意を受けるつもりはない。思わせ振りな事はしたくないからな」

柔らかな表情を浮かべ、そう言うと…周りの生徒達は一瞬、沈黙する。

視線を向けると、案の定…廊下の先にチャンミンの姿を見つけた。俺は急いでチャンミンの元へと進み、

「この人以外からの想いを受け取る事はしない」

はっきり言うと、生徒達だけでなく、何故かチャンミンも悲鳴上げていた。





その136

2020-05-29 | Beauty and the beast


「どうして駄目なんですか!?」
「…何処を直した?昨日と大した変化がないだろ」
「何処が駄目なのか、ちゃんと教えて下さい!じゃないと、いつまでもダブルデートを実行出来ないじゃないですか!あっ!もしかして…それが目的ですか!?それは無いと思います!!」
「煩い!騒ぐな!!」

訂正した計画書を睨んでいたママさんは、容赦なく無表情で突き返してくれた。納得がいかず、抗議していると、背後でユノさんと彼氏さんの声が聞こえる。僕とママさんにそんな穏やかなやり取りは出来ない。一歩も引きたくない僕はママさんに食い下がる。

「竜ちゃんと白狼はもう夫婦なんですよね?だったら、デートも可笑しな事じゃないし、例え何がどうなっても問題にはならないでしょう!?」
「ふざけるな!竜の純潔はまだまだ守られるべきなんだ!」
「ママさんが心配しなくても、白狼は無理強いしないですって!」
「問題はそこじゃない!」
「なら何が問題なんですか!」

向けられる視線は恐ろしい。でも、ここで負けたくない。自分でも不思議な力を発揮して、言い争いを繰り広げていると、空気を一変させる声が響き渡った。

「ママー!おなかすいた-!!あれ?お兄ちゃん!なにしてるの?」
「あ、竜ちゃん!ちょっと聞いてよ。ママさんって酷いんだよ?」
「え?ママがなに?」

竜ちゃんの登場で話は一旦、打ち切られる。直ぐに用意された昼食に、僕とユノさんも誘われて、素直に感謝して席に着いた。



美味しい料理を頂きながら、まだ合格点に至っていない計画書を竜ちゃんに見せ、こっそり相談をしてみる。

「ねえ、竜ちゃん、何が問題だと思う?」
「えー?なになに?」
「美味しいパフェをあーんし合うのって、普通だよね?」
「うん!ママとママのダーリンもいっつも、アーンしてるもんね~!」
「え?そうなの!?」
「うん!」

自分は良くて、こっちは駄目なんて…許されない事だ。ママさんに質問してみようと視線を向けたけど、声は出せない。ママさん達はそれどころじゃないみたいだ。

僕達の味方をしてくれて、何かを言ってくれた彼氏さんが思い切り頬を撲たれている。その光景に驚いてしまい、言葉を失ってしまう。

「…竜ちゃんのママさん…。いつもああなの?」
「ん~?」
「暴力的と言うか…激しいって言うか…」
「ママはママのダーリンとああやっていちゃついてるの~」
「え?そうなの?」
「うん!ママのダーリンもニマニマでしょ?」
「ああ、よく見ると…そうかも…」
「ママとママのダーリンだけの…あいじょうひょうげん?って、ママのダーリンがよく言ってる!」
「あ!そうか。なるほどな…。具体的に書かなくても…それぞれに楽しむって表現にしてみれば良いのかも知れない!!」


竜ちゃんの助言を生かし、僕はササッと計画書の修正を行う。赤い頬をニマニマして擦る彼氏さんが受け取ってくれて、今度は時間を掛けて精査してくれる事になった。





その135

2020-05-29 | Beauty and the beast


「んん~。ここで美味しい苺パフェをあーんし合うってのはどうですか?」
「チャンミン。それを記してしまうと、また突き返されるのではないか?」
「え?そうですか?でも…記述に嘘があったら駄目だと思います!」
「…なら、表現を変えてみるのはどうだ?」
「え?」
「例えば…互いに一部を分け与え、味を共有する…とか…」
「ああ、なるほど!」

夕食後、チャンミンと真剣に計画書の手直しをしている。

合格ラインは想像より高い。竜の母親の厳しさは計り知れないと分かり、まさに溺愛と言う表現が相応しいのだと感心する。

チャンミンが俺の為にと提案してくれた店に行く予定を組み込んだまでは良かったが、中々、作業は終わらない。


「そんなに心配なら、ママさん達も一緒に来れば良いと思いませんか?」
「それもそうだな…。けれど、母親が一緒だと竜はあちこちを行ったり来たりになり…結果として白狼の機嫌を損ねる事にならないか?」
「ああ、そうか。デートって感じが減っちゃいますね」
「こっそり尾行なり、監視なり…して貰うのも良いが…。あの母親は事ある毎に突撃してくるのでは…?」
「そうかも知れませんね!もう既に追跡の段取りを進めていたりして!」
「…それは…」

ないとは言い切れない。そうなった場合、どのような問題が起こるのか、考えようとしていると、チャンミンがハッとして表情を変える。



「ああ、そうだ!もっと重要な問題があります!」
「何だ?」
「ユノさんの姿!それに白狼も。人の姿じゃないと…周りの人達を驚かせてしまいますよね」
「…ああ、そうだな」
「で、でも!こっちじゃないユノさんとデートするなんて!僕にはハードルが高すぎます!」
「…そうなのか?」
「だ、だって!人のユノさんは滅茶苦茶かっこよくて…正真正銘の王子様ですよ!?…周りから意味有り気な視線が集まり過ぎて…僕は威嚇に忙しくなります」
「…チャンミン」

ふて腐れたように視線を落とし、チャンミンは唇を尖らせる。学園での事を思い出し、俺は反対に表情を緩めてしまった。

「どうして笑ってますか!」
「次からは気を付ける…」
「え?」
「極力、誰とも関わらないようにする」
「え?どうしてですか?」
「俺が誰かと接するのは嫌なのだろう?」
「い、嫌ですよ!でも、そんな事…不可能だし…しなくて良いです」
「…そうなのか?」
「だって、ユノさんは王子様で、いずれは王様になるんでしょう?誰とも関わらないなんて無理だし、有り得ないです。偏屈な王様にならなくて良いです」

チャンミンは自身に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す。

「でも!ユノさんは何がどうなっても…僕のですから!!」

突如として雄叫びを上げるチャンミンが背中へしがみついてくる。計画書の手直しだけに集中出来ず、俺達は似たようなやり取りを続けるのだった。








その134

2020-05-27 | Beauty and the beast


早くユノさんと話したい。新たな提案をして計画の修正をして、ママさんからハッキリとした許可を得たい。何より、竜ちゃんの喜ぶ顔と…ユノさんの笑顔が見たくて堪らない。チラシを握り締め、急いでいると…信じられない光景が視界に入り、足が止まる。

「…何だよ…あれは…」

いつもの待ち合わせ場所にはまだ距離がある。その途中の廊下で見つけたのは…人の姿のユノさんと、その周りを取り囲む生徒達だ。

何をしているんだろう。遠くから様子を窺ってみる。ユノさんは困惑しているように見えるけど、周りの子達はお構いなしで絡んでいる。

…僕のユノさんに…何してるんだ。苛立ちが急激に膨張して破裂しそうだ。だけど、その場に乗り込んで、ユノさんを奪還するのは容易な事じゃない。唇を噛みながら、事の推移を見守る。

…んん。馴れ馴れしく、ユノさんに触らないで欲しい。あっ…。だから、勝手に話し掛けるなって…。…っつ。距離が近いんだって。文句は幾らでも積み重なり、イライラが増幅していく。

いっその事、踏み込もうか。でも、人の姿のユノさんに突撃するのは…やっぱりハードルが高い。

…ん?良く考えたら、デートはどちらのユノさんとする?不意に浮かんだ疑問が大問題すぎて、僕は思わず雄叫びを上げてしまった。

「ユノさんっ!!」

何事だと、こちらに視線が集まる。一気に焦りが駆け巡るけど、これはチャンスだと思う事にする。

一か八か、賭に出る。集めてしまった注目を消し去れないと判断した僕は勢い良く走り出し、ユノさんの手を引き、その場を去る事に成功した。




人気のない場所まで駆け抜けて、一旦停止してみる。時間差でやって来た緊張感に襲われ肩で息をしていると、ユノさんが心配そうに声を掛けてくる。


「チャンミン?」
「ユノさん!新たな課題に気付きました!」
「課題?」
「それよりも!」

ユノさんは僕の訴えを見抜いてくれて、姿を変え、背中を向けてくれる。

「待たせて悪い…
「はああぁ… 落ち着く…」

大きな背中にしがみ付き、僕は思い切り安堵していた。