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一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

ある日の話。15

2022-01-19 | ある日の話。



「保護者と何を話していたんだ」
「え?」
「とぼけるな!密談していたのは分かっているんだぞ」
「…密談…した覚えは…」

チャンミンの隣へ腰を下ろすと、直ぐに絡まれる。
竜だけでなく、チャンミンも嫉妬しているのか?そんなに保護者とのやり取りが仲良く見えたのか?疑問は浮かぶけれど、喜びの方が勝る。

「心配しなくても大丈夫だからな。俺がときめくのはチャンミンだけだ」
「な、何を言う…」
「でも可愛い嫉妬は嬉しい。もっと、どんどん嫉妬してくれ!ああ、でもチャンミンを裏切るような事はしない。そこだけは間違いないからな?覚えていて欲しい」
「…だ、誰が嫉妬なんて…」

頬を赤くして唸るチャンミンの胸元で丸まっていた子虎が可愛い鳴き声を上げる。

「クアウ~」
「ん?どうした?」
「カウカウ!」
「退屈なのか?」
「カウウ~」

表情から察し、声を掛ける。子虎は小さく頷き、遊べと言いたげに小さな脚をばたつかせた。

チャンミンから子虎を受け取り、絨毯に下ろす。元気に戯れ付く子虎の相手をしていると、チャンミンがボソリと呟いた。

「…人の姿になった子虎は…父親似…だったよな」
「そうか?」
「…だから…もし… その… いつか… その時が訪れたとして…」
「可愛かったよな。ああ、もしかして、子虎の成長が待ち遠しいのか?そうだよな。会いたいよな。でも、時間が経てば成長するだろうから、また会える」
「……」
「少し先の楽しみがまた増えたと思えば…」
「違う!僕が言いたいのは…」

何故か、チャンミンは不満げに唇を尖らせる。理由を考えようとしたが、飛び跳ねる子虎の勢いにバランスを崩し、チャンミンに向かって倒れ込んでしまった。

一瞬の事でもチャンミンに負担を掛けない努力をした。しかし、努力を打ち消すように子虎が更に飛び跳ねてくる。

頭に乗られたから、通さないよう低くする。すると、まるでチャンミンに迫っているような体勢になる。

「こ、これはだな」
「…非常事態だから…仕方ない」
「そうか… そうだよな…」
「んん…っ!?」

子虎の安全を守る為…だけでなく、自身の望みを叶えたくなる。更に距離を詰め、唇を重ねると、チャンミンは驚き、身を固くする。

「キュアゥ~!」


けれど、弾き飛ばされる事は無い。頭に張り付いたまま居てくれる大活躍な子虎のお陰で、俺はチャンミンと長く濃いキスを交わす事を許されていた。














おしまい。


ある日の話。14

2022-01-18 | ある日の話。



「白とらちゃん、はい、どうぞ~」
「…キュアァ… ンッ!」

「うわあ、ママ!みてみて!白とらちゃんがかわいいっ!!」
「こら!余所見をせずに集中しろ!」
「ん~?」
「きちんと飲めているか、確認しないといけないと言っただろ。全部を飲み終えるまで、子虎から目を離すな」
「うん!わかった!!」

ミルクを与える役目を務める竜はチャンミンからの指導に頷き、子虎を見つめる。竜の胸元で勢い良くミルクを飲み干す子虎は元気一杯だ。

竜が買って出た、子育ての練習にも見えなくも無い、微笑ましい光景を眺め、表情を緩ませながらも…同じように離れた位置にいる保護者の様子が気になる。

何故か背中を押された俺は、余計なお世話だと分かっているが、歩み寄ってみた。




「あの、残念だったな。竜が元の姿に戻ってしまって…」

単刀直入に声を掛けてしまってから、一気に焦る。
保護者は予想通りにギロリと睨み、殺気を放つ。しかし、殺気は直ぐに途切れ、保護者は僅かに口角を上げる。

「え?」

予想外の出来事に驚いてしまう。

「……何を驚く」

「い、いや…」

睨みつけられるより、恐ろしいものを目にしたような気分になり、緊張感に襲われる。

保護者は短い笑い声を漏らし、更なる驚きをくれる。

「……些少な変化でも、前進には違いない。お前達の協力…とまではいかないが、存在意義があると認めてやろう」

「…そ、それは…有難い」

保護者もご機嫌…と言うことか?
褒められるなんて予想外過ぎる。慣れない展開に戸惑い、苦笑いしていると、竜が雄叫びを上げながら突撃してきた。


「ねえ、ユノ!ママのダーリンとなかよししてるの!?」

竜は保護者に飛び付き、大きな声を響かせる。

「…まさか。俺はチャンミン以外と親しくなどしない」
「え~!?でも、いま、ママのダーリンとニマニマしてたでしょ!」
「……していない」
「ぼく、みたもん!」

竜は嫉妬しているのか、保護者を質問攻めにしている。珍しい竜の反応に嬉しげな保護者の表情を観察したいが、これより先に踏み入る事は命を落とす事と同等だ。

「…白虎の子の世話がまだ残っているだろう?」
「ママにおねがいしたからいいの!」
「…なら、チャンミンは何をするんだ?」
「ユノとなかよしする!」


察した俺は踵を返し、俺のチャンミンの傍へ移動した。











ある日の話。13

2022-01-16 | ある日の話。



「ママ!おはよー!!」
「カウウ!!」

「んん…?」

「ママのダーリンも!おはよ!」
「カウウァ!」
「ぼく、おなかすいたんだけど!」
「カウカウ!」

「……ああ?」

至近距離での雄叫びに意識を引き上げられ…重い目蓋を開ける。パチパチと瞬きを繰り返し…状況把握に努める。


「ママとママのダーリン、なかよしだね~」
「アウウ~」
「ジャマはダメだけど、おなかすいたからね~」
「クアウ!」
「だからママ!はやくおきて!!」
「キャウあ!

俺に寄り掛かるチャンミンに突撃しているのは…竜と子虎だ。

いつもの…見慣れた光景。けれど、不意に違和感を覚える。

「ママのダーリン!ママにチュウして!」
「カウカウ!」

「え?」

「はやくはやく!」
「カウウ!」

「ああ、分かった」

竜と子虎に急かされ、身体を傾ける。チャンミンの頬へ唇を押し当てた瞬間。破裂音と頬には熱さが走る。

「キャーキャー!」
「カウウァ!」

「煩い!騒ぐなっ!」

「ママ~!おなかすいたよー!」
「カウウ!」

「分かったから静かにしろ!!」

突き飛ばされた俺は苦笑いしながら、頬を擦る。いつもの事だと受け入れる竜と子虎は不機嫌なチャンミンに絡み付き、戯れる。チャンミンもしかめっ面のまま、拒む事無く受け止める。


「ん?…お前、縮んでないか?それに子虎も…元に戻ったのか…」

「そうだよ~!へんしんは~ちょっとだけだし~!」
「カウウ~」

「そうか」

チャンミンは少し安心したようでもあり、残念そうな顔をする。竜もそれに気付いたのか、首を傾げてチャンミンを見上げた。

「ママ、まだ、へんしんがよかった?」
「いや、そんな事はない」
「ん~。まだへんしんがいいなら…ユノにおねがいしよっか?」
「いや、良い。子虎もお前も…今の姿が最高に可愛いからな。変身しなくて良い」

素直に答えた事が恥ずかしいのだろう。チャンミンは慌てて顔を逸らす。

「ありがとう、ママ!ママもかわいいからね~!」
「カウカウ!」
「な、何を言うっ!」

「ねえ、ママのダーリン!ママ、かわいいよね~!」
「ああ。チャンミンは可愛い。滅茶苦茶可、愛いよな!」

勿論、俺は正直に答えた。竜と子虎も嬉しげに可愛いを連呼して賑やかだ。

益々、顔を真っ赤にするチャンミンは騒ぐなと、誰よりも賑やかに叫んでいた。









ある日の話。12

2022-01-15 | ある日の話。



竜の寝息と子虎の寝息だけが響く空間は、とても心地の良い穏やかな時が流れている。チャンミンの肩を引き寄せているから余計に。言葉にならない幸せが舞い込んでくる。

いつまでもこのままで居たい。そう思うのは、俺だけじゃない。チャンミンも自ら身体を傾け、俺に寄り掛かってくれている。

「…チャンミンも眠りたいなら眠っても良いからな。子虎の世話は俺がする」
「……いや、良い」
「ああ。竜が心配か…?」
「…それもあるが…」
「ん?」

言葉を途切れさせるチャンミンは急に顔を赤くして唸り始めた。


「チャンミン?」
「…っ!だ、誰も今をもっと感じていたいなんて、思っていないからなっ!

照れ隠しで叫んでしまうチャンミンが可愛らしい。直ぐに胸元の子虎の様子を焦りながら確認するチャンミンも…可愛らしい。

幸いにも子虎も竜も目覚めていない。良かったなと言いたくてチャンミンを見返すと、何とも言えない…しかめっ面をして睨みつけられる。  


「…わ…笑うな」
「これは幸せが溢れてしまうが故の笑みだから、許して欲しい」
「……」

懇願すると、チャンミンは唇を噛み、視線を逸らす。その代わり、思い切り身体を傾け…更に密着するのを許してくれた。





それまでの幸せに、チャンミンの重みも加わり…最高の気分の良さに浸る。もたれ掛かるチャンミンは幾らか動揺を抑え、落ち着いたのか。深く息を吐き出した。


「……子虎の姿が変わっただけなのに。…何か… 感じ方が違う…」
「……」
「……これは… いつか訪れる…時の… 練習みたいなもの…だろうか…」
「……」   

チャンミンの呟きは独り言にするべきなのだろうか。また興奮させるのは悪い。また騒ぐと、今度こそ子虎や竜を起こしてしまうかも知れない。

理性的に考えてみても、衝動を抑えられない。チャンミンの想いに俺の想いを重ねたい。だから顔を寄せ、呟いた。


「チャンミン、俺はいつでも喜んで協力するからな」
「……」
「いつか訪れる未来を手繰り寄せたいなら、いつでも…」
「…っ」

勢い余り、唇を押し当てると、チャンミンが息を呑み、固まる。また鼻先を囓られても構わない。もっと触れ合いたくて仕方ない。違う部分に唇を押し当てようとした時。

低い声が響く。


「…お前達、いい加減にしろ…」


冷たく放たれる保護者の殺気を感じた瞬間。目の前が真っ暗になり…俺達は意識を失ったようだった。











ある日の話。11

2022-01-12 | ある日の話。



「良いか!!絶対に何処へも行くなよ!!勝手に竜を攫ったら地の果てでも追いかけて行くからなっ!」

「ああーん!」

遂に我慢が限界に達したのか。顔を歪めるチャンミンが叫んだ。すると子虎が目を覚まし、泣き始める。 

慌てて子虎をあやすチャンミンの焦り具合は微笑ましい。何て呑気に構えている場合ではない。チャンミンの怒りを多少は考えて欲しい。保護者に懇願しようとしたが、その必要はないらしい。直ぐに低い声が返された。


「……何処へも行かないから騒ぐな」
「そうだよ、ママ?これからおひるねのじかんだからね!しずかに~!だからね~」

「……っ」
「良かったな、チャンミン」

珍しく保護者が優しい。それは保護者にも予想外の貴重な今の状況が影響しているのかも知れない。そんな風に思うけれど、敢えて口にしないでおこう。


チャンミンの謝罪を受け入れ、泣き止んでくれた子虎はスヤスヤと穏やかに眠っている。そこには安堵しても心配事はある。心が休まらず、忙しいチャンミンは竜達を凝視し続けている。

やはり何処か呑気な俺はチャンミンとの距離を詰め、更に肩へ手を延ばし、引き寄せてみた。


ギロリと睨まれても平気だ。幸せを感じて微笑みを浮かべると、チャンミンの耳が赤くなる。




「ユノ…。ママとママのダーリン…なかよしだね~」
「……」
「…白とらちゃんをだっこするママ…ステキだね~」
「……」

保護者に抱き着いたまま、竜は似たような事を呟く。温和な表情を見せる竜の頭を撫でる保護者は返事をしないが…拒否反応を示している訳ではないようだ。

保護者に埋まる竜が更に呟く。


「…ぼくも… ママに… なろうかな…」

今のは聞き間違いか?視線を上げ、竜を見つめる。
視界に入るチャンミンにも聞こえたのか。目を見開き、開けた口を閉じられないようだ。


「…ぼくも…ママみたいに…なりたいな… …ユノといっしょに…ママみたいに…なかよしして…」

竜の呟きは次第に小さくなり、欠伸が伴う。

誰よりも反応を示すと思ったが、保護者は何も言わない。変わらずに往復する手のひらの動きに笑う竜は、目蓋を閉じ、寝息を立て始めた。

隣を見ると、チャンミンは唇を噛み、難しい顔をしている。問題発言を聞き流せない。しかし、寝てしまった竜を起こす訳にいかないと、小さく唸るだけだ。 


心配しなくても良い。そう言いたくて顔を近付けると、打たれる事はなかったが…代わりに鼻先を囓られてしまった。